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おまけの小話

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 大国ラフタシュの王女テレサは、何時になく上機嫌であった。

「楽しみですわね、お兄様」
「おや、何のことだい?」
「もう、分かってらっしゃるクセに」

 馬車で隣に座る兄と腕を組みながら、テレサは続ける。

「あの二人とお会いするの、結婚後初めてでしょう?」
「ああ、アイツらのことか」

 妹の囁きに、ヘンリクは目を細める。

 今日は、隣国で行われる新国王の戴冠式であった。国を挙げての祝い事とあって、周辺国の王侯貴族は皆招待されていた。当然、ヴラジスラとロザーリエも参加するはずだ。

「どうなってるか、見ものだな」

 テレサの前髪を手櫛で整えてやりながら、兄は意地悪く呟く。飼い猫を撫でるような手つきに、妹は嬉しそうに微笑んだ。

「可愛いテレサ。指輪ごときに金を出し渋る奴より、お前にはぴったりな結婚相手がいるさ」
「あら嬉しい。お兄様だって、あんな束縛の強い面倒臭い女は不釣り合いだわ」
「ははっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

 暫くして、戴冠式が行われる宮殿へと辿り着く。宮殿の広間に来たところで、テレサは人混みの中に目当ての二人を目ざとく見つけた。

「お兄様! 見つけた……え?」
「?」

 驚きのあまり絶句する妹の視線の先に目をやり、ヘンリクも思わず黙り込んだ。

 そこには、仲睦まじく腕を組むヴラジスラとロザーリエが居たのだ。

+

「ふふっ」
「どうした?」
「いえ……私達を驚いたように見つめるお二人を、偶然見つけてしまって」
「……ああ、成程」

 揃って口を半開きにして黙り込む様が兄妹そっくりで、思わずロザーリエは吹き出したのだった。

「余程驚いてしまわれたのでしょうね。嫉妬深くやかましい女が、大人しくしているのを見て」
「……女を泣かすような男が、女を泣かせてないことに驚いたんだろう」
「ふふっ」
 
 兄妹に見せつけるかのように、ロザーリエは腕を組み直した。

「建国記念日の式典ではヘンリク様やテレサ嬢ともお話しするでしょうし、どんな反応をするのか少し楽しみですわ」

 そう言って、ロザーリエはくすくすと忍び笑いをした。

「珍しいな。お前が男のことを思って笑うなど」
「あら、そうですか?」

 冷静沈着な彼には珍しく、ヴラジスラは軽く目を見開いた。そして少しばかり黙り込み、静かに一言呟いた。

「そのうち、猛吹雪でも来るかもしれないな」
「? 流石に、今の時期吹雪はないかと……」
「……そうか」

 建国記念日前日の晩に、彼の言った''猛吹雪''とやらが現実となるのを、ロザーリエはまだ知らない。

終わり。
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