嫉妬は深愛のはじまり〜報復として結婚させられたら皇太子に溺愛されました〜

二階堂まや

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心満たされ、指輪を重ねる

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 互いに名前を呼び合うでもなく、愛を囁き合っている訳でもない。

 しかし、天蓋に区切られた寝台の上で、私はこの上無く幸せであった。

「……っ、は、ぁ、……ぁ、ん、」 

「ぐ、……っ、ぁ、は、」

 後ろから抱きしめられるような形で、私はヴラジスラと結ばれていた。

 浅く差し込まれた牡茎が内壁を擦る度に、口から喘ぎ声が零れる。彼も緩く腰を揺らしながら、時折熱い吐息を漏らしていた。

 片脚が彼の両脚に挟み込まれているので、逃れることは出来ない。この場で主導権を握っているのは、間違い無く彼であった。

「……っ、あ、っ、ん、……っ、!!」

 背後の獣が、私の首元に軽く歯を立てる。獲物の息の根を止めるような行為ではあるものの、それが猛獣なりの愛情表現であることは、既に心得ていた。

 無骨な手が下に降りて行き、秘種を探り当てる。蜜に濡れた指の細やかな動きは、粗暴とは程遠いものである。

 全て身体的な快楽としては、物足りなくてもどかしい。

 だが、今はまだそれで良い。

 なぜなら……これはまだ、序の口なのだから。

「……っ、ふ、っ、ぁ、……っ、ん」

 左手が、指を絡めるように大きな手と重ねられる。互いの表情が見えない時、ヴラジスラはこうして私を安心させてくれるのだ。

 彼はいつも、身体よりも先に気持ちの面で、私を満たしてくれるのだった。

 秘蜜を枯らさないための愛撫に、繋がりを感じさせるための手繋ぎ。そして、愛情を示すための抱擁。

 この男は全て、分かった上でやっているのだ。

 ふと左手に目を落とすと、彼の指が私の左薬指を摘んでいるのに気が付いた。そこには、まだ外されていない結婚指輪が煌めいている。

 いつしか結婚指輪は、寝る前にしか外さないのが常となっていた。

「……指輪、気に入ってるようだな」

「ええ。とっても」

 銀色の輪を指先でなぞりながら、ヴラジスラは小さく呟いた。

 テレサと彼が婚約破棄に至った原因は、結婚指輪だったという。

 甘やかされて育ったテレサは、言わば我儘な箱入り娘であり、派手好きであった。

 ただ、彼女の希望を全て叶えていたらキリが無いので、婚約した際に「高い買い物は婚約指輪が最後」と約束していたらしい。

 案の定、テレサはその約束を破った。

 婚約指輪に合わせて、結婚指輪も最高級の品が欲しいと言い出したのだという。

 指輪やティアラなど、王族が正式な場で身に付けるものは、全て国家の予算から出される。彼女の我儘を受け入れることは、到底できなかった。

 国民の気持ちを考えた上で、今一度結婚指輪を選んで欲しい。ヴラジスラがそう言ったところ、テレサは怒りの涙を流し、婚約破棄を叩きつけたという訳だ。

「気に入りなのは結構だが、変な気を使うな。……窮屈なら、いつでも外せば良い」

 夫婦で過ごす時に付けるのが義務ではない、とヴラジスラは言った。

「好きで付けておりますので。お気遣いには及びませんわ」

 眠りにつく直前まで、貴方との繋がりを感じていたい……という本音は言わず、私は静かに微笑んだ。

「それに、ヴラス様こそ」

「私のことは……気にするな」

「ふふっ」

 ヴラジスラの左薬指にも、お揃いの結婚指輪が嵌っている。

 彼が指を絡めるように手を繋ぎ直すと、二人の指輪が微かに擦れ合う音がしたのだった。
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