嫉妬の代償は旦那様からの蜜愛でした~王太子は一夜の恋人ごっこに本気出す~

二階堂まや

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手と手を繋いで

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「そう言ったことに飢えていると気付けなくて、悪かったな」

「い、いえ」

 胸元のリボンが解かれ、布を取り払われる。それはこれまでの情事と同じ流れではあるけれども、緊張している自分がいた。

「だが、良いタイミングだとも思ったのが正直なところだ」

「え?」

 ナイトドレスもドロワーズも取り払ったところで、ヴァルタサールは言葉を続けた。

「私としても、一歩踏み込んだ形でお前と関わっていきたいと思っていたところなんだ」

 彼の言葉に、体温が上がっていくのを感じた。それはつまり、これまでの義務的な関係を変えていくのを彼が望んでいるという意思表示だからだ。

「そ、そうなんですの?」

 これは私を陥落させるための演技なのだと、必死に自らに言い聞かせる。そうでもしなければ、どうにかなってしまいそうだったのだ。

「ああ、嘘じゃない」

 自身のシャツのボタンを外しながら、ヴァルタサールは頷いた。相変わらずの鉄仮面ではあるものの、その言葉はやけに柔らかい響きであった。

「オリヴィア」

 全てを脱ぎ去ってから、彼は私を組み敷いた。まだ触れ合っていないのに、互いの肌は既に熱を孕み始めていたのだった。

「愛してる」

 ヴァルタサールは、私に深い口付けを落としたのだった。

「ん……っ、う、っ」

 蛇のように平らで長い舌が、歯列をなぞっていく。いつもは唇が触れ合うようなキスばかりなので、それは初めてのことであった。

 舌先で口内を蹂躙している間に、彼は身体への愛撫を始めた。肌表面の熱を塗り伸ばすような手つきは、身体的な快楽を高めていく。胸から下腹までがピタリとくっついているため、もう逃げられない状況だ。

「あ……っ、は、ヴァルタサール、様、ぁ」

「ん、悪くないみたいだな。良かった」

 唇同士の繋がりを絶ってから、ヴァルタサールは口元だけの笑みを浮かべた。目元が笑ってないため、その表情は獲物を狙う捕食者を彷彿とさせた。

「あっ……、ん、っ……」

 長い無骨な指が、秘唇を割って淫道を進んでいく。そして根元まで入り切ったところで、蜜をかき混ぜるように指が動き始めたのだった。

「は……オリヴィア、外と中、どっちが良い」

「……っ、え? ……っあ、じゃあ、中で」

 彼の問いの意味は分かりかねたが、快楽により頭がふやけていて難しいことはもう考えられなかったのだ。

「ん、分かった」

「あ、ああっ!!」

 すると、ヴァルタサールは胎内のある一点を指で刺激し始めたのだった。危うい程に強烈な快楽を与えられ、私は大きく目を見開いた。

「は……、オリヴィア、どうした、痛いのか?」

「痛くは、ないですけど……っ、変になって、やめ……っ」

 彼の指を中で締め付けながら、私は嫌だ嫌だと身体を捩る。目尻には身体的な刺激を受けたことによる涙が滲んではいるものの、ヴァルタサールが指の動きを止めることは無かった。

 これまで指を中に差し入れるというのは、慣らすための単なる作業だったはずだ。けれども、今は違う。女に快楽を与えるための行動であり、私を追い込んでいくものであった。

「は……我慢しなくて良い、そのまま、気をやってみろ」

「あっ、あ、あああっ!!」

 ぐい、と指の腹で胎内を押された瞬間、私はとうとう達した。情事の終盤に与えられるはずの感覚を、既に感じてしまったのだった。

 しかし、それだけではなかった。

「あ……っ」

 透明な飛沫が、彼の手を濡らしていた。愛蜜とは異なる粘度の無い液体の正体は分からない。今目の前で起きているのは、閨の講義では決して習わなかったことだった。

 ヴァルタサールが、濡れた手のひらを見せつけるように握り込む。その光景は、やたらと羞恥心を煽るものであった。

「ん、上手くイけたな。偉いぞ」

 肩で息をする私の額に、彼は優しいキスを落とした。それはまるで、恋人同士のむつみあいのようであった。

「少し休憩するか」

「んっ、あっ……」

 起き上がり、ヴァルタサールは私の手を引いた。そして胡坐をかいてから、その上に私を跨らせたのだった。

 達したことにより、すっかり腰は抜けていた。自分でしっかり座ることが出来なくて、自然と彼の胸元に身体を預ける形となる。そんな私を、ヴァルタサールは腰に手を回して支えてくれたのだった。

「ふ……本当に可愛いな、オリヴィア」

 きっと、この言葉も演技に違いない。けれども、甘い言葉を真に受けたいと願っている自分もいた。

 それとなく、私は彼の手に自らの手を重ねた。けれども二つの手が繋がれることは無かった。

 嗚呼。やっぱり、彼は私を拒絶しているのだ。

「どうして、そんなに私の演奏を聴きたいのですか?」

 興奮が過ぎ去り冷静になったところで、私は彼に問うた。

「私よりも優れた奏者はいくらでもいるはずです……貴方のすぐ近くにも」

 クラリスの顔を思い浮かべながら、私は続けた。

「強く惹かれたからだ。それ以外に理由は無い」

「え……?」

「王太子という立場上、今まで''やりたい''ことよりも''やらねばならない''ことで日々が埋め尽くされるのが常だった。そんな日常に不満は無いが、何かに夢中になることは無かったんだ」

 だから、と彼は一度言葉を切った。

「音楽会でのお前の演奏を聴いて驚いた。誰よりもヴァイオリンを弾くのが好きなのだなと、すぐに分かったからだ。それだけ一つのことに打ち込めることに羨ましさすら感じた」

「……」

「ヴァイオリンのことは全く分からないが、お前の演奏に惹き付けられている自分がいたんだ……っ、おい」

 知らぬ間に、涙が頬を伝っていた。

「……っ、申し訳ございません」

 真っ直ぐな言葉は、暗い感情で満たされていた胸の内に灯りを点してくれたのだった。

「……っ、奏者としてだけでも、認めていただけて、嬉しくて」

「奏者としてだけ? それはどういうことだ」

「だって……っ、貴方は私と手を繋いで下さらないではないですか……っ」

 嗚咽混じりに言葉をぶつけると、返ってきたのは意外な返答であった。

「……奏者からすれば、手は命なのだろう? だから、無為に触れてはならないと思っていたのだが」

「え?」

 彼の顔を見ると、そこにはほんの少しだけ戸惑いの色が滲んでいた。

「触れたくないから繋がなかったのではないのですか?」

「そんな訳があるか。……壊したくなかっただけだ」

「木の枝じゃないんですから。繋いだだけで折れませんわ」

 甘えるように、私は指で彼の手の甲を撫で上げた。

「逆に聞きたいのだが……繋いで良いのか?」

「ええ、喜んで」

「そうか……ありがとう」

 すると、ゆっくりと指を絡めるように手が繋がれたのだった。大きな手の平から感じる彼の温もりは、何よりも心地良く感じられた。

「オリヴィア。もっとお前と深く繋がりたいのだが、良いか?」

 涙で濡れた眦に口付けながら、ヴァルタサールは私に許しを乞うた。

「……はい。勿論です」

 私が頷くと、彼は勃ち上がった自身をゆっくりと胎内に埋めたのだった。

「は……っ、ぁ、ん」

「ふ、もう奥まで入ったな」

 私をシーツの上に寝かせて、ヴァルタサールは律動を始めたのだった。

 勿論、片手は繋がれたままだ。

「は……っ、ぁ、っ、ヴァルタサール様、ぁ、」

「ん、オリヴィア、……っ、愛してる……っ、ぐっ、好きだ、……」

「あっ、ああっ!!」

 彼に愛の言葉を囁かれる度、心の中が満たされていくのを感じる。それは、今まで感じたことの無い幸福感を自身にもたらしたのだった。

 抜き差しされる度、中が彼を必死に抱きしめる。ヴァルタサールは切なげに眉を寄せるけれども、腰を打ち付け続けたのだった。

「ヴァルタサール様、私、もう、っ、あああ!!」

「オリヴィア……ぐっ……っ!!」

 視界に閃光が弾け、胎内が熱い白濁に射抜かれる。

「は……あ、っ、……ぁ、ん」

「は、……っ、ぅ、」

 彼が全てを吐き出すまで、否、出し終えてからも、私達は暫く身体の繋がりを断つことは無かった。
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