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夫の本心、《聖女》の涙

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「アヴラム様……?」

 私は問いかけるが、彼は何も言わない。透明度の少ない色の瞳なのに、そこには妖しげな光が点っていた。

 そして彼は、強引に唇を奪ったのだった。

「……んっ、う……!!」

 犬のように唇を舐め回され、綺麗に塗られた口紅が取れていく。慌てて彼の胸を押し返そうとするが、鍛えられた身体は重みがあり、それは叶わなかった。

「ぁ、お止めください、アヴラム様……っ!!」

 必死に抵抗する私に構うことなく、アヴラムはスカートの中に片手を差し入れた。腿をいやらしく撫でられ、身体がその気を起こして無意識に跳ねてしまう。

 酸欠直前までいった時、ようやく私は口付けから解放された。

「は……っ、ぁ、」

「カトリーナ。俺が何故お前と結婚したか分かるか?」

「え……?」

「端から愛するつもりは無かった。理由はただ一つ、お前を壊すためだ」

 酸素が足りずぼやけた意識の中投げられた言葉に、私は耳を疑った。鈍器で殴られたような衝撃に襲われ、ただただ目を見開くことしかできない。

「今、何て……」

「お前を壊すために、俺はお前と結婚した。聞こえなかったのか?」

 氷柱のように冷たく鋭い視線を私に向けながら、アヴラムは続ける。

「一目見た時から、その世間知らずな阿呆面が気に食わなかった」

「そ……んな……」 

 初めて会った日の記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。そして私の中で幸せだった時の思い出は、無惨にも彼の手によりひねり潰されてしまったのである。

「何が《聖女》だ。所詮身体的な快楽にしか興味のない、娼婦以下の端女が正しいに決まってるだろ。昨夜だって、嫌いな男に抱かれて散々善がってたもんな」

 吐き捨てるようにそう言ってから、アヴラムは小馬鹿にするように笑った。

 私が必死に守っていた脆い夫婦愛関係を、彼は躊躇いなく壊した。目の前の男にとって、私はその程度の存在だったのだろう。

「……ひ、酷い……」

 これまでの人生で経験したことの無い程に純粋な悪意を向けられ、私は身体を震わせることしかできないでいた。しかし、金縛りにあったかのように身体も目線も動かすことが出来ず、彼から目をそらすことは叶わない。

「酷い、か。世間知らずの分際でよく言えたな」

 苛立ったようにきつく睨みつけ、アヴラムは力任せにドレスの胸元を破った。

「アヴラム様……っ!?」

 肌着ごと破られ、ぶるりと揺れて顕となる乳房。私が腕で隠すより先に、彼はそこにしゃぶりついたのだった。

「ひっ……ぁ、お止めください、……っ!!」

 乱雑にドロワーズの中へと手を滑り込ませ、アヴラムは秘所を乱し始めた。乾ききっていたはずなのに、無骨な指の侵入によりそこは段々と湿り気を帯びていく。やがて、粘液を混ぜるような淫猥な音がスカートの中から聞こえてきた。

「は、股の間をこんなにして言えることか? この大嘘つきめが……っ!!」

「あああっ!!」

「王女がこんなにも下卑た女だなんて、……っ、誰も思わないだろうな」

 責め立てるように尖り始めた乳首に歯を立て、アヴラムは私を詰り続ける。けれども与えられる刺激が強すぎて、その言葉は耳に入らなかった。

 心は彼を拒んでいる。けれども、身体は拒みきれないでいた。

 女としての本能を恨めしく思ったのは、これが初めてだった。

「あっ、駄目……、出……っ、どうかお許し下さい……、ああっ」

「はっ、もう限界か? ならば、淫乱らしくイってみろ……っ、なあ、王女様?」

「あっ、ああああっ!!」

 悦い場所を執拗に指で押され、私は達した。中が収縮し、媚びるようにアヴラムの指を締め付けてしまった。

「は……っ、ぁ、」

「ふん、嫌いな男の指で気をやれるなんて、相当イカれてんな」

 肩で息をしていると、彼はトラウザーズに手をかけた。そして、猛りきった欲を取り出したのである。

 先端に艶を纏い硬く反り上がったペニスは、肉で出来た剣ー最早凶器にしか見えなかった。

 アヴラムはそれを手入れするように扱いて、艶を塗り広げていく。命乞いするように、私は息も絶え絶えに言葉を紡いだ。

「……アヴラム様。どうか、離婚して下さい。私は十分……何もかも、壊れております」

 信じていた男に裏切られた上に人間としての尊厳も踏みにじられ、最早精神的にボロボロであった。せめて、これ以上傷を増やしたくは無い。私は必死だった。

 けれども、その願いに対する応えはあまりにも残酷なものであった。

「駄目だ。お前の何もかもを、まだ壊し足りない」

「あっ、あああっ!!」

 無理やりに脚を開かせ、アヴラムは私を一気に貫いた。

「い、や、っ、嫌……ああっ!!」

「は……これだけ締め付けて、口先だけ嫌と言って何の説得力も無いな……っ、子宮口降りてんのもバレてんだよ、阿呆女が……!!」

「あっ、あああっ!!」
 
 化粧が崩れるのも構わず、私は身体を捩り、泣き叫んだ。最奥ばかりを突かれ、秘唇ははしたない涎を零している。どんなに抵抗しても、それは自分の意思では止められないものであった。

「ひ、ぐっ……嫌っ、嫌ぁ……助けて、離して……っ、」

 身体で示せない分、言葉で拒否する。当然ながら、誰も助けには来ない。この部屋にいるのは私と悪魔のような男だけなのだから。

「あっ、あっ、ああっ、!!」

「は……本当に何もかもが気に入らない、愚図が」

 二度目の絶頂の直前に見えたアヴラムの表情は満足気ではなく、苦しげに歪んでいたのだった。
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