5 / 6
まだ見ぬ君に無条件の愛を
しおりを挟む「編み進める時は、なるべく編目が均等になるよう心掛けると、仕上がりが綺麗になりますわ。ゆっくり進めていきましょう」
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
1
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
大好きな義弟の匂いを嗅ぐのはダメらしい
入海月子
恋愛
アリステラは義弟のユーリスのことが大好き。いつもハグして、彼の匂いを嗅いでいたら、どうやら嫌われたらしい。
誰もが彼と結婚すると思っていたけど、ユーリスのために婚活をして、この家を出ることに決めたアリステラは――。
※表紙はPicrewの「よりそいメーカー」からお借りしました。
婚約解消から5年、再び巡り会いました。
能登原あめ
恋愛
* R18、シリアスなお話です。センシティブな内容が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。
私達は結婚するはずだった。
結婚を控えたあの夏、天災により領民が冬を越すのも難しくて――。
婚約を解消して、別々の相手と結婚することになった私達だけど、5年の月日を経て再び巡り合った。
* 話の都合上、お互いに別の人と結婚します。白い結婚ではないので苦手な方はご注意下さい(別の相手との詳細なRシーンはありません)
* 全11話予定
* Rシーンには※つけます。終盤です。
* コメント欄のネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
ローラ救済のパラレルのお話。↓
『愛する人がいる人と結婚した私は、もう一度やり直す機会が与えられたようです』
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる