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騎士団長は定時退社待った無し
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「最近やたらご機嫌なようで、騎士団長?」
会議室に行くやいなや、副団長は私にそう声をかけてきたのだった。その表情は、からかうような色を含んでいた。
「別に、さして変わりは無い」
「おや、それは失礼」
素っ気なく返答するが、彼は大して気にしていないようだった。今でこそ上司と部下ではあるものの彼とは同期なので、気心の知れた友人のような間柄である。
そしてこの男がやたら勘が鋭いのは、とうの昔に心得ていた。
「てっきり、何か良いことでもあったのかと」
正直な話、それは図星だ。
あの一夜の後、ルイーセとの関係は良い意味で一変した。どうやら自分を「気を許して良い相手」と認定してくれたようで、彼女から甘えてくることもしばしばあった。
朝起きれば自分の身体に華奢な細い腕が抱きついているし、時折目を覚ました時点で可愛らしい指が下穿き越しに朝勃ちした不器量な肉綱を弄っていることもある。
ちなみにそれは彼女なりの「お誘い」なので、そうされていた場合朝から一回戦……という訳である。
とはいえ、ことに及ぶのは一回でも体力が消耗することだ。朝から情を交わしたら、事後自分は仕事前の鍛錬のために森へ出かけるが、ルイーセは二度寝するのがいつものことである。そして今日も、朝から愛し合った後に出勤している。
当然ながら、この男が夫婦間の性事情を知っている訳が無い。私はシラを切り通すことにした。
「そう言えば。妻から聞いた話だが、最近は奥方とも仲睦まじくやってるみたいじゃないか」
「ああ、お陰様で」
「前見た時は大丈夫かと心配になったが、良かったじゃないか」
そう。元々ルイーセは誰から見ても分かる程に、男が大の苦手であった。そんな性格を心配して、家族はルイーセを国内に嫁がせることを決めたらしい。
女きょうだいばかりのある意味''無菌状態''の環境で育ったせいか、男とどう接すれば分からないようだった。一度所用のため騎士団に訪ねてきたことがあるものの、男ばかりの空間に怯えて酷く震えていたのは今でもよく覚えている。
結婚してからも、彼女の警戒心をひしひしと感じていた。子作りのために身体を重ねはするものの、性的な快感よりも罪悪感が勝っていたのが本音だ。そして朝起きたら、自分と大分離れたベッドの隅で彼女が眠っているのを目にするのが常であった。
それが今や、この通りである。私は怖がりな子猫がようやく懐いてくれたような嬉しさと、僅かながらの優越感を感じていた。
確かにルイーセの嗜好がやや正常から逸脱しているのは事実だろう。しかし、何が理由であっても自分に興味を持ってくれたのが嬉しいのには変わらない。
それに、一度ルイーセに強請られて彼女が用を足すのを手伝ったことがあるが、膝裏を持ち脚を後ろから開かせて放尿を見守りながら、自分も股間を硬くしていた。やや変態じみた一面があるのはお互い様だろう。
最終的に何を良しとするかは二人で決めることであり、正常であれ異常であれ大した問題では無い。自分としてはそう考えていた。
そこまで考えていた時、会議室の扉がノックされて開いたのだった。
やってきたのは、もう一人の副団長だった。
「遅くなり大変失礼しました」
「いや、まだ開始の五分前だろう。気にするな」
「にしても珍しいな、アルヴィスが最後に来るなんて」
この中で一番若手ということもあって、毎回会議の際はアルヴィスが一番早く来るのだった。
「今日は午後から半休をいただきたいため、一日分の仕事を片付けておりました」
「勿論構わないが、珍しいな」
「少し、家の事情で」
そう言った彼の目は、戦いを前にした騎士のごとく何処か殺気立っているようにも見えた。
「分かった。取り敢えず、無理はするな」
「ありがとうございます」
「これで全員揃ったな。じゃあ始めるか」
「それでは、私から業務報告を始めさせていただきます」
夫婦仲が良くなると、家に帰るのが楽しみになるというのはどうやら本当なようだった。正直、この会議をさっさと終わらせて帰宅したいとすら思えていた。
というのも。少し前からルイーセとそろそろ子供が欲しいと話していたので、明日仕事が休みということもあり、今日は一晩中子作りに励んでみるかと約束していたのだ。
何が何でも定時で帰宅しようと心の中に誓ってから、私はアルヴィスの業務報告に耳を傾けた。
会議室に行くやいなや、副団長は私にそう声をかけてきたのだった。その表情は、からかうような色を含んでいた。
「別に、さして変わりは無い」
「おや、それは失礼」
素っ気なく返答するが、彼は大して気にしていないようだった。今でこそ上司と部下ではあるものの彼とは同期なので、気心の知れた友人のような間柄である。
そしてこの男がやたら勘が鋭いのは、とうの昔に心得ていた。
「てっきり、何か良いことでもあったのかと」
正直な話、それは図星だ。
あの一夜の後、ルイーセとの関係は良い意味で一変した。どうやら自分を「気を許して良い相手」と認定してくれたようで、彼女から甘えてくることもしばしばあった。
朝起きれば自分の身体に華奢な細い腕が抱きついているし、時折目を覚ました時点で可愛らしい指が下穿き越しに朝勃ちした不器量な肉綱を弄っていることもある。
ちなみにそれは彼女なりの「お誘い」なので、そうされていた場合朝から一回戦……という訳である。
とはいえ、ことに及ぶのは一回でも体力が消耗することだ。朝から情を交わしたら、事後自分は仕事前の鍛錬のために森へ出かけるが、ルイーセは二度寝するのがいつものことである。そして今日も、朝から愛し合った後に出勤している。
当然ながら、この男が夫婦間の性事情を知っている訳が無い。私はシラを切り通すことにした。
「そう言えば。妻から聞いた話だが、最近は奥方とも仲睦まじくやってるみたいじゃないか」
「ああ、お陰様で」
「前見た時は大丈夫かと心配になったが、良かったじゃないか」
そう。元々ルイーセは誰から見ても分かる程に、男が大の苦手であった。そんな性格を心配して、家族はルイーセを国内に嫁がせることを決めたらしい。
女きょうだいばかりのある意味''無菌状態''の環境で育ったせいか、男とどう接すれば分からないようだった。一度所用のため騎士団に訪ねてきたことがあるものの、男ばかりの空間に怯えて酷く震えていたのは今でもよく覚えている。
結婚してからも、彼女の警戒心をひしひしと感じていた。子作りのために身体を重ねはするものの、性的な快感よりも罪悪感が勝っていたのが本音だ。そして朝起きたら、自分と大分離れたベッドの隅で彼女が眠っているのを目にするのが常であった。
それが今や、この通りである。私は怖がりな子猫がようやく懐いてくれたような嬉しさと、僅かながらの優越感を感じていた。
確かにルイーセの嗜好がやや正常から逸脱しているのは事実だろう。しかし、何が理由であっても自分に興味を持ってくれたのが嬉しいのには変わらない。
それに、一度ルイーセに強請られて彼女が用を足すのを手伝ったことがあるが、膝裏を持ち脚を後ろから開かせて放尿を見守りながら、自分も股間を硬くしていた。やや変態じみた一面があるのはお互い様だろう。
最終的に何を良しとするかは二人で決めることであり、正常であれ異常であれ大した問題では無い。自分としてはそう考えていた。
そこまで考えていた時、会議室の扉がノックされて開いたのだった。
やってきたのは、もう一人の副団長だった。
「遅くなり大変失礼しました」
「いや、まだ開始の五分前だろう。気にするな」
「にしても珍しいな、アルヴィスが最後に来るなんて」
この中で一番若手ということもあって、毎回会議の際はアルヴィスが一番早く来るのだった。
「今日は午後から半休をいただきたいため、一日分の仕事を片付けておりました」
「勿論構わないが、珍しいな」
「少し、家の事情で」
そう言った彼の目は、戦いを前にした騎士のごとく何処か殺気立っているようにも見えた。
「分かった。取り敢えず、無理はするな」
「ありがとうございます」
「これで全員揃ったな。じゃあ始めるか」
「それでは、私から業務報告を始めさせていただきます」
夫婦仲が良くなると、家に帰るのが楽しみになるというのはどうやら本当なようだった。正直、この会議をさっさと終わらせて帰宅したいとすら思えていた。
というのも。少し前からルイーセとそろそろ子供が欲しいと話していたので、明日仕事が休みということもあり、今日は一晩中子作りに励んでみるかと約束していたのだ。
何が何でも定時で帰宅しようと心の中に誓ってから、私はアルヴィスの業務報告に耳を傾けた。
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