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秘密の口付け
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メルローズの寝室へ辿り着き、小さな身体をベッドに寝かせる。すると、薄い薔薇色ーピンクブロンドの柔らかな髪が枕を彩った。それは、この国では珍しい髪色であった。
この髪を見て、頭が悪そうだと謗る者もいる。先日の夜会でもそんなことを口にする不届き者がいたので、きつく睨み付けておいたのだった。
彼女の悪口を言う輩を、誰一人許す気は無かった。
とはいえ、メルローズにとってこの国が居づらいことには変わらない。そして彼女の両親と自分の両親に相談を重ねた結果、一つの案が出来上がったのだ。
二人揃って、この国を出るのはどうか……と。
偶然にも父親の知人が、世継ぎが生まれず養子を迎えることを検討していた。そこに夫婦養子に入ることを提案されたのである。
遠方の国であるためにこの国を離れられ、リノンの手も届かない。自分も次男であるため不可能なことではない。メルローズのためには、一番良い方法に思えたのだった。
その提案をメルローズに伝えようとしたのが今日の昼間のことだ。しかしその場で、俺はすぐさま違和感に気付いた。明らかに、彼女の態度がおかしかったのだ。
昔から、メルローズは嘘や隠し事が苦手なのだ。
それとなく自分のティーカップを覗くと、カップの底に数粒''溶けきらない何か''が沈んでいた。砂糖は入れていないので、何かしらの異物であるのは明らかだった。
何か理由を付けて飲まない、メルローズをその場で追及する。色んな選択肢があるのを理解した上で、俺は紅茶を口にしたのだった。つまりは、彼女が心中を望んだならば二人永遠の眠りについていた訳である。
どんな形であれ、彼女を幸せにしたい。
その気持ちは今も昔も変わらない。薬で意識が途切れる瞬間も、不思議な程に恐怖心は湧かなかったのだった。
しかし、彼女が自分に飲ませたのが毒ではなく睡眠薬であったが故に、今自分は生きている。二人で生きていくのがメルローズの望みであることが分かった以上、死ぬまで彼女を傍で守り抜くつもりだ。
自分なりに愛を伝えていたはずだが、自分が口下手だからかメルローズにはあまり伝わっていなかったようだ。これからは、行動だけでなく言葉でも伝えていかねばなるまい。
メルローズは俺を深く愛してくれている。しかし、自分が彼女に対して抱く感情はそれよりも重く、タチの悪いものである気がしてならない。
それを知った時、メルローズは怖がるだろうか。それとも、喜ぶだろうか。残念ながら今は分からない。
一旦、自分は聖女への仕返し……よりも、先ずはメルローズを支えることに尽力すべきだろう。だから、暫くは彼女の前では''優しい婚約者''の仮面を被っておこうと思う。
「さて、今宵の証拠を何処に残すかな」
愛しい寝顔を見つめながら、俺は思考を巡らせた。
身体的に結ばれたものの、初心な彼女のことだ。朝に目が覚めて、「全部夢だったのかもしれない」と考えるような気がしてならなかったのである。
頭のてっぺんから足の先まで見つめてから、俺はナイトドレスに手をかけた。多分ここならば、他人からは見えず''彼女だけ''が見れるはずだ。
痩せたことにより慎ましやかな大きさとなった乳房。触れられるのを嫌がるだろうと思い、情事の際に敢えて触れなかった場所だ。
「おやすみ、メル」
そう言って、俺は彼女の胸元に一つ口付けの痕を残した。
この髪を見て、頭が悪そうだと謗る者もいる。先日の夜会でもそんなことを口にする不届き者がいたので、きつく睨み付けておいたのだった。
彼女の悪口を言う輩を、誰一人許す気は無かった。
とはいえ、メルローズにとってこの国が居づらいことには変わらない。そして彼女の両親と自分の両親に相談を重ねた結果、一つの案が出来上がったのだ。
二人揃って、この国を出るのはどうか……と。
偶然にも父親の知人が、世継ぎが生まれず養子を迎えることを検討していた。そこに夫婦養子に入ることを提案されたのである。
遠方の国であるためにこの国を離れられ、リノンの手も届かない。自分も次男であるため不可能なことではない。メルローズのためには、一番良い方法に思えたのだった。
その提案をメルローズに伝えようとしたのが今日の昼間のことだ。しかしその場で、俺はすぐさま違和感に気付いた。明らかに、彼女の態度がおかしかったのだ。
昔から、メルローズは嘘や隠し事が苦手なのだ。
それとなく自分のティーカップを覗くと、カップの底に数粒''溶けきらない何か''が沈んでいた。砂糖は入れていないので、何かしらの異物であるのは明らかだった。
何か理由を付けて飲まない、メルローズをその場で追及する。色んな選択肢があるのを理解した上で、俺は紅茶を口にしたのだった。つまりは、彼女が心中を望んだならば二人永遠の眠りについていた訳である。
どんな形であれ、彼女を幸せにしたい。
その気持ちは今も昔も変わらない。薬で意識が途切れる瞬間も、不思議な程に恐怖心は湧かなかったのだった。
しかし、彼女が自分に飲ませたのが毒ではなく睡眠薬であったが故に、今自分は生きている。二人で生きていくのがメルローズの望みであることが分かった以上、死ぬまで彼女を傍で守り抜くつもりだ。
自分なりに愛を伝えていたはずだが、自分が口下手だからかメルローズにはあまり伝わっていなかったようだ。これからは、行動だけでなく言葉でも伝えていかねばなるまい。
メルローズは俺を深く愛してくれている。しかし、自分が彼女に対して抱く感情はそれよりも重く、タチの悪いものである気がしてならない。
それを知った時、メルローズは怖がるだろうか。それとも、喜ぶだろうか。残念ながら今は分からない。
一旦、自分は聖女への仕返し……よりも、先ずはメルローズを支えることに尽力すべきだろう。だから、暫くは彼女の前では''優しい婚約者''の仮面を被っておこうと思う。
「さて、今宵の証拠を何処に残すかな」
愛しい寝顔を見つめながら、俺は思考を巡らせた。
身体的に結ばれたものの、初心な彼女のことだ。朝に目が覚めて、「全部夢だったのかもしれない」と考えるような気がしてならなかったのである。
頭のてっぺんから足の先まで見つめてから、俺はナイトドレスに手をかけた。多分ここならば、他人からは見えず''彼女だけ''が見れるはずだ。
痩せたことにより慎ましやかな大きさとなった乳房。触れられるのを嫌がるだろうと思い、情事の際に敢えて触れなかった場所だ。
「おやすみ、メル」
そう言って、俺は彼女の胸元に一つ口付けの痕を残した。
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