上 下
7 / 8

秘密の口付け

しおりを挟む
 メルローズの寝室へ辿り着き、小さな身体をベッドに寝かせる。すると、薄い薔薇色ーピンクブロンドの柔らかな髪が枕を彩った。それは、この国では珍しい髪色であった。

 この髪を見て、頭が悪そうだと謗る者もいる。先日の夜会でもそんなことを口にする不届き者がいたので、きつく睨み付けておいたのだった。

 彼女の悪口を言う輩を、誰一人許す気は無かった。

 とはいえ、メルローズにとってこの国が居づらいことには変わらない。そして彼女の両親と自分の両親に相談を重ねた結果、一つの案が出来上がったのだ。

 二人揃って、この国を出るのはどうか……と。

 偶然にも父親の知人が、世継ぎが生まれず養子を迎えることを検討していた。そこに夫婦養子に入ることを提案されたのである。

 遠方の国であるためにこの国を離れられ、リノンの手も届かない。自分も次男であるため不可能なことではない。メルローズのためには、一番良い方法に思えたのだった。

 その提案をメルローズに伝えようとしたのが今日の昼間のことだ。しかしその場で、俺はすぐさま違和感に気付いた。明らかに、彼女の態度がおかしかったのだ。

 昔から、メルローズは嘘や隠し事が苦手なのだ。

 それとなく自分のティーカップを覗くと、カップの底に数粒''溶けきらない何か''が沈んでいた。砂糖は入れていないので、何かしらの異物であるのは明らかだった。

 何か理由を付けて飲まない、メルローズをその場で追及する。色んな選択肢があるのを理解した上で、俺は紅茶を口にしたのだった。つまりは、彼女が心中を望んだならば二人永遠の眠りについていた訳である。

 どんな形であれ、彼女を幸せにしたい。

 その気持ちは今も昔も変わらない。薬で意識が途切れる瞬間も、不思議な程に恐怖心は湧かなかったのだった。

 しかし、彼女が自分に飲ませたのが毒ではなく睡眠薬であったが故に、今自分は生きている。二人で生きていくのがメルローズの望みであることが分かった以上、死ぬまで彼女を傍で守り抜くつもりだ。

 自分なりに愛を伝えていたはずだが、自分が口下手だからかメルローズにはあまり伝わっていなかったようだ。これからは、行動だけでなく言葉でも伝えていかねばなるまい。

 メルローズは俺を深く愛してくれている。しかし、自分が彼女に対して抱く感情はそれよりも重く、タチの悪いものである気がしてならない。

 それを知った時、メルローズは怖がるだろうか。それとも、喜ぶだろうか。残念ながら今は分からない。

 一旦、自分は聖女への仕返し……よりも、先ずはメルローズを支えることに尽力すべきだろう。だから、暫くは彼女の前では''優しい婚約者''の仮面を被っておこうと思う。

「さて、今宵の証拠を何処に残すかな」

 愛しい寝顔を見つめながら、俺は思考を巡らせた。

 身体的に結ばれたものの、初心な彼女のことだ。朝に目が覚めて、「全部夢だったのかもしれない」と考えるような気がしてならなかったのである。

 頭のてっぺんから足の先まで見つめてから、俺はナイトドレスに手をかけた。多分ここならば、他人からは見えず''彼女だけ''が見れるはずだ。

 痩せたことにより慎ましやかな大きさとなった乳房。触れられるのを嫌がるだろうと思い、情事の際に敢えて触れなかった場所だ。

「おやすみ、メル」

 そう言って、俺は彼女の胸元に一つ口付けの痕を残した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

貧乳の魔法が切れて元の巨乳に戻ったら、男性好きと噂の上司に美味しく食べられて好きな人がいるのに種付けされてしまった。

シェルビビ
恋愛
 胸が大きければ大きいほど美人という定義の国に異世界転移した結。自分の胸が大きいことがコンプレックスで、貧乳になりたいと思っていたのでお金と引き換えに小さな胸を手に入れた。  小さな胸でも優しく接してくれる騎士ギルフォードに恋心を抱いていたが、片思いのまま3年が経とうとしていた。ギルフォードの前に好きだった人は彼の上司エーベルハルトだったが、ギルフォードが好きと噂を聞いて諦めてしまった。  このまま一生独身だと老後の事を考えていたところ、おっぱいが戻ってきてしまった。元の状態で戻ってくることが条件のおっぱいだが、訳が分からず蹲っていると助けてくれたのはエーベルハルトだった。  ずっと片思いしていたと告白をされ、告白を受け入れたユイ。

【R18】抱いてくださらないのなら、今宵、私から襲うまでです

みちょこ
恋愛
グレンデール帝国の皇帝であるレイバードと夫婦となってから二年。シルヴァナは愛する夫に一度も抱かれたことは無かった。 遠回しに結ばれたいと伝えてみても、まだ早いと断られるばかり。心だけでなく身体も愛して欲しい、日々そう願っていたシルヴァナは、十五歳になった誕生日に──  ※この作品はムーンライトノベル様でも公開中です。

騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。 ※他サイトにも掲載あります。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

【R18】仏頂面次期公爵様を見つめるのは幼馴染の特権です

べらる@R18アカ
恋愛
※※R18です。さくっとよめます※※7話完結  リサリスティは、家族ぐるみの付き合いがある公爵家の、次期公爵である青年・アルヴァトランに恋をしていた。幼馴染だったが、身分差もあってなかなか思いを伝えられない。そんなある日、夜会で兄と話していると、急にアルヴァトランがやってきて……? あれ? わたくし、お持ち帰りされてます???? ちょっとした勘違いで可愛らしく嫉妬したアルヴァトランが、好きな女の子をトロトロに蕩けさせる話。 ※同名義で他サイトにも掲載しています ※本番行為あるいはそれに準ずるものは(*)マークをつけています

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...