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真夜中の蜜事

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「ん……」

 シーツに肩をあずけると、ギルフォードは私を組み敷いて深く口付けた。長く器用な舌が唇を割って入り込み、尖った先端で口内を撫でていく。今まで経験したことのない濃密な交わりに、頭は段々と蕩け始めていた。

「ところで、メル」

「?」

「お前はもう、俺を愛称で呼んではくれないのか?」

 ナイトドレスを脱がせながら、ギルフォードは問うた。彼の言葉に、私はぎくりと肩を震わせる。

「それは……だって、愛称で呼び合うのは慣れないって……」

 今まで、私は彼のことをギルと呼んでいた。しかし先日の夜会での一言を受け、それ以降はギルフォード呼びに変えたのだった。

「あれはリノンの申し出を断るために言っただけだが」

「え? え?」

「よく考えてくれ、さっきから俺はお前を何と呼んでる?」

 初めて会った日から、今に至るまでずっと、彼は私をメルローズではなくメルと呼んでいた。どういう経緯かは忘れたが、何故か互いにニックネームで呼ぼうと約束したのだ。今思えば、怖いもの知らずにも程がある。

「あの女にも他の奴にも、馴れ馴れしくされる気は無いしする気も無い。けれども、お前とは違う。誰よりも一番近いところにいて欲しい……駄目か?」

「い、いえ」

「そうか……だったら?」

 愛称で呼ぶよう促されただけなのに、言葉責めされているような気分だった。いつの間にか、この場での主導権は完全に彼が握っていた。

「……、っ、ギル様」

 久々に愛称を口にしただけなのに、頭にかあっと血が上る。薄暗闇で気付かれないだろうが、きっと私は今赤面しているに違いない。

「ん。良い子だ。メル」

 満足気に、ギルフォードは笑ったのだった。

 ナイトドレスとドロワーズが脱がされ、私は一糸まとわぬ姿となった。裸体を晒すのは当然ながら初めてのことであり、酷く落ち着かない。

 恥ずかしさに身体を捩らせていると、ギルフォードは私の身体を愛撫し始めたのだった。

「……っ、あ、んっ」

 脚の先から太腿の付け根に至るまで、優しくキスが落とされていく。興奮し始めたのか、口付けられる度に彼の顔辺りからは自分と同じ熱気が感じられた。

「……、っ、ん、っ!?」

 ギルフォードが私の首元に顔を埋めた瞬間、すっかり硬くなった胸元の尖りにシャツが擦れた。突然敏感な場所を刺激され、私は軽く悲鳴を上げた。

「悪い。肌、布で擦れたら痛いよな?」

 そう言って、ギルフォードはシャツのボタンを外し始めた。

 シャツの中から姿を現したのは鍛えられた頼もしい身体と……今も尚残る火傷跡であった。

 そこまでしか治せなかったのは、自分のせいだ。罪悪感で胸が締め付けられ、逃げるように私は目を逸らした。

 衣服がベッドに投げ捨てられる音が止んだ後、ギルフォードは静かに口を開いた。

「お前がくれた軟膏が効いてるのか、大分跡も薄くなってきたみたいだ」

「……本当に?」

「ああ。嘘じゃない」

 視線を元に戻すと、ギルフォードは私を組み敷いた体勢で見下ろしていた。

「お前のお陰だよ。ありがとう」

 その声色は、不思議と優しく感じられた。

「さて……もうそろそろか」

「あっ、ああっ」

 濡れ始めていた秘肉を、彼は指でするりと撫でた。そして透明な蜜を指にまとわせてから、中へと侵入してきたのだった。

「あっ、ギル様……っ、ああっ、んっ」

「ん、意外と締め付けるな」

「言わない、で、えっ」

 余裕を無くしていく私とは対照的に、一見ギルフォードは落ち着き払っているようにも見える。

 しかし視線を下に向けると、硬く上向いた牡茎が見えたのだった。

「よがってるのは自分だけ、とでも思ったか?」

「っ!?」

 意地悪く挑発するように、ギルフォードはペニスを数回扱いて見せた。すると、先端からじわりと液体が滲み出てきたのだった。

「どうしようもなく興奮すると、こうなるんだよ。男は」

 割れた腹筋の下にそびえる肉の塔は、女としての本能的な欲を強く刺激した。そしてそれを求めるかのように、淫道は愛しい指を一層締め付けたのだった。

 そして、彼はそれを見逃さなかった。

「頃合いか」

 両脚を肩に担ぎ上げ、ギルフォードは勃ち上がった自身を馴染ませるように秘唇に擦り付けた。そして、じわじわと胎内に埋めたのだった。

「あっ、あああっ」

 皮が切れるような感覚を中で感じて、シーツを握り締める。すると、その手は大きな掌に包み込まれるように繋がれたのだった。

「は……メル。辛くないか?」

「だ、大丈夫……っ、辛くないです、」

「っ、そうか」

 私の応えに安堵したのか、ギルフォードは少しずつ腰を揺らし始めた。

「あっ、あっ、ああっ!!」

「ぐっ……っ、は、……っ、ぁ、」

 純潔を失った衝撃に震えていたはずなのに、中は男性器の形を覚え込むかのように蠢き始める。そして、彼を奥へ奥へと迎え入れ始めたのだった。

「ん、メル……っ」

「ふ、ぇ?」

「結婚するならば、これで孕んでも問題は無いよな?」

 下ろされた前髪の下、ギルフォードの頬には汗が伝っていた。その目は、獣のように妖しくぎらついていたのだった。

「そうだけど……で、でも……っ、今は生理止まってるから……きっと、妊娠出来ないです」

「はっ、あくまで妊娠しづらいだけだろう? ……っ、悪いが、孕ませるつもりでするからな? ……俺は、お前との子が欲しいんだ」

「それは私もで……っ、あ、ギル様、ああっ!!」

 根元まで差し込まれた肉槍が何度も最奥を穿つ。激しい動きのはずなのに、身体はすっかり快楽でむせいでいた。

「は……っ、メル、メル」

「あっ、あっ、ああっ!!」

 脚を下ろされ、肌が密着するほどにきつく抱きすくめられる。私達は、心も身体も一繋がりとなっていた。

 愛する彼とそうなれた。幸せのあまり、私は泣きそうになっていた。

 しかし涙が零れそうになった矢先、絶頂がすぐそこにまで来ているのに気付く。それを伝えようか迷っていると、ギルフォードは何も言わず私の眦に口付けたのだった。

「は……っ、メル、もう、限界だ。……っ、良いか? ……っ、一緒に……っ」

「はい、もちろんです、ギル様、っ、あああっ!!」

「ぐっ……っ、ぁ、っ!!」

 身体に力が入り、中で彼を強く抱き締める。すると、熱い飛沫が胎内に放たれたのだった。

「は……っ、あ、っ、うっ」

 小刻みに腰を揺らし、ギルフォードは精液を最奥に注ぎ入れる。そして私は、彼の熱情をこぼさないように、緩い締め付けを繰り返す。

「は……愛してる。……メル、あの日からずっと。……これからも」

 そんな彼の言葉を最後に聞いて、私は睡魔に呑み込まれていったのだった。
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