騎士団長との淫らな秘めごと~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや

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いざ、舞踏会へ

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「はっ、……ぁ、ウェンデ様、どこ?」

 宮殿の廊下を走りながら、私は辺りを見回してウェンデを探す。舞踏会が終わるまで騎士達は警備業務にあたっているので、彼も敷地内の何処かにはいるはずなのだ。

 もし彼が外の警備ならば、確実に舞踏会の出番には間に合わない。宮殿内で会えることを願うばかりだった。

 ウェンデが私との結婚を望んでいなかったならば、舞踏会で一緒に踊るなどとんでもなく迷惑な話だろう。

 しかし、私は彼に対する思いを止められなかったのだ。彼の本心が知りたい。だがその前に、自分の気持ちをどうにかして目に見えた形で伝えたかったのである。

 ウェンデ様、どこに居るの?

 心の中で愛する人の名を叫んだ丁度その時、急に足が動かなくなってしまったのだった。

「え、あっ、え?」

 金縛りにあったような感覚に焦りつつも、私は必死に足を踏み出そうとする。しかし、見えない足枷をはめられたかのように一歩も動けなかったのだった。

「駄目じゃないか、ルイーセ」

 背後から声をかけてきたのは、ラーシュだった。

「中々帰って来ないと思って見に来たら。……抜け出すなんて、悪い子だな」

「ラーシュお兄様……っ、」

 ラーシュが私の腰に手を回すと、身体が勝手に動いて廊下の壁に背中をつけるような体勢となった。しかし、自分の意思では動けない。私は操り人形のような状態となっていた。

 やがて私は、彼に壁際へ追い詰められてしまったのである。

 私の顎に手を添えながら、ラーシュは諭すように囁いた。

「出番に間に合わなかったら、皆心配するじゃないか」

「……っ、ごめんなさい」

「本当に、旦那のことが好きなんだね」

 彼の表情には、何時になく暗い翳りの色が滲んでいた。普段は美しいボルドー色である瞳も、今は淀んだ血液のような色に感じられた。

「もう、分かってるんだろう? ルイーセ」

「え……?」

「夢の中で沢山話したもんな。流石に、気付かない訳が無い」

「ラーシュお兄様? 何言って……?」

「やれやれ、ここまで来てシラを切りとおすのか。だったら、身体に聞いてみるしか無いかな」

「え、あっ……」

 ラーシュが私に顔を近付けた、その瞬間。

 熊のような巨体が、ラーシュを勢い良くどつき倒したのだった。それにより、ラーシュは弾かれるように床に倒れ込んだ。

「な、何だっ!?」

「申し訳ございません、王太子殿下。……足が滑りました」

 ラーシュにぶつかって来たのは、舞踏会に参加しているはずのベアンハートだった。謝りつつも殺気立ったような怖い目付きで、彼はラーシュを見下ろしていた。

 ベアンハートは、普段とても穏やかで正に''虫も殺さないような人''である。イライラして人に当たることもなければ、怒鳴ることも無い。そんな彼が怒ったところを見るのは、初めてのことであった。

 困惑しつつ睨み合う二人を見つめてると、ベアンハートは私に言った。

「ルイーセ様、後はお任せ下さい」

「え、あ、ありがとうございます、」

「な、ルイーセ、待て!!」

「ラーシュ様、後のお話は私の方でお伺いします。一旦、大広間に戻りましょうか」

 そんな会話を背中で聞きながら、私は廊下を駆け足で突き進んだ。

 しかし、どこを探してもウェンデは見つからない。広い宮殿で人一人を探すのは至難の業であった。

 慌てて懐中時計を見ると、出番まで残された時間はもう僅かであった。

 そして、よそ見をしながら走っていたせいで、私は曲がり角で勢い良く誰かにぶつかってしまったのである。

「おっと、失礼……ルイーセ様?」

「すみません……っ、て、リドべ、ル様?」

 私が勢い良くぶつかったのは、王立騎士団副団長のリドベルであった。

「ルイーセ様、どうされたんですか? まだ舞踏会の途中では?」

 どうやら、彼も宮殿の警備にあたっていたようだった。

「先日はありがとうございました、ただ……っ、一つお願いがあるんです」

「え?」

 走りすぎて、呼吸が辛い。けれども私は、藁にもすがる思いでリドベルに頼み込んだ。

「どうか、主人のところへ連れて行ってください!!」

+

「ルイーセ様、こちらです!!」

 人気の無い宮殿を、リドベルと共に駆け抜ける。彼に手を引かれながら、私は必死にウェンデの元へと向かった。

 しかし、タイムリミットは刻一刻と迫っていた。

 ウェンデがいるのは、なんと大広間から最も離れた場所だったのだ。行ったは良いが、会場まで戻れるかという問題もあった。しかし、酸欠の頭にそんなことを考える余裕はもう無かった。

 ふらついて倒れそうになり始めたタイミングで、ようやくウェンデの姿が見えたのだった。

 私の姿を見て、彼は瞠目していた。

「ルイーセ!?」

「ウェンデ様、ぁっ!!」

「おわっ!?」

 ウェンデの顔を見た瞬間、走った勢いのまま抱きついていた。そんな私を、彼はしっかりと抱き留めてくれたのだった。

「ルイーセ、舞踏会は終わったのか?」

「い、え、出番前に、抜けてきましたわ」

「なっ!?」

「ウェンデ様、……っ、私は、貴方と踊りたいんです」

 ウェンデの胸に抱きついたまま、私は必死に言葉を紡いだ。

「我儘でごめんなさい。でも私は……っ、貴方と夫婦として舞踏会に参加したいの。だから……っ」

「……っ、ルイーセ」

 ウェンデは見るからに戸惑っていた。しかしそこで、彼より先にリドベルが口を開いたのだった。

「もう良いだろ、ウェンデ」

「リド、しかし」

「警備のことは俺らでやっとく。だから、お前は舞踏会に行ってこい」

「な、何言って……」

「うるさいな、自分がやったことに責任取れっつってんだよ」

 ウェンデは、それ以上何も言わなかった。代わりに、見上げるように表情を伺っていた私を見つめ返したのだった。最早私は、泣きそうになっていた。

 やがて彼は、真剣な面持ちでリドベルの方へ目をやった。

「……分かった。リド、恩に着る」

「ああ、さっさと行って来い」

「ウェンデ様……!!」

「そうと決まったら、ルイーセ、急ぐぞ」

「きゃ!?」

 ウェンデは私を横抱きにして、大広間に向けて走り出した。逞しい首元に、私はしっかりと腕を回したのである。
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