騎士団長との淫らな秘めごと~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや

文字の大きさ
上 下
18 / 55

ウェンデ様、落ち込まないで

しおりを挟む
 ヘアブラシは愛用のものがあるみたいだから、事足りているだろう。整髪料も、言わずもがな。

 肌も特段荒れていないから、スキンケア用品も追加は必要無いだろう。

 仕事で身に着けられないから、宝飾品もあんまりと言ったところか。

 にしても、相変わらず……格好良い人。

 馬車で隣に座るウェンデの横顔をじっと見つめる。筋が通っている高い鼻や、余分な肉の付いていない顔周りなど、彼の横顔は動物的な綺麗さを感じるのだった。

 何度見ても見飽きないのだから、困ったものである。

「どうした?」

「い、いえ……何でもありませんわ」

 突然彼が私の方を向いて、心臓が跳ねる。まさか横顔に見蕩れていたと言える訳が無く、私は言葉を濁した。

「口元が笑ってるが、何か楽しいことでもあったのか?」

 どうやら口元がにやけていたようで、そう言ってウェンデは笑った。私は慌てて口元を手で隠した。

「いえっ、皆で集まってのお食事は久しぶりなので、楽しみだなと思いまして」

「そうだな、中々全員集まる機会も無いからな」

 今日は隣国ベスレエラの王室一家を招いての食事会が行われるため、私達は会場となる宮殿に向かっていた。リクスハーゲン側は両親と姉夫婦、それに私達夫婦が参加するため、久しぶりの一家全員集合なのである。

「今回はチビらに逃げられないと良いが」

「そう言えば、ウェンデ様は二人と会うのが大分お久しぶりですわね」

 フィオネには幼い娘と息子がいる。しかし以前ウェンデと顔を合わせた時は、彼を怖がって全然近寄ろうとしなかったのだ。余程怖かったのかウェンデが歩み寄った瞬間に、泣きながら走って逃げ出したのである。

「義父上やオリヴァルは避けられていないのに、自分だけ泣かれるのは……流石に傷付いたな」

「ふふっ、きっと今日は大丈夫ですよ」

「そうか? だったら良いが」

 いつになく不安気なウェンデを見て、つい私は吹き出した。彼も私と同じく、子供が好きなのである。

 彼が好きなものは、子供。だがもう少し、情報が欲しいところだ。

 実はウェンデの誕生日が、来月に迫っていた。しかし私は、彼への誕生日プレゼントをまだ用意できていないのである。

 森で粗相を見られてしまった日を境に、急速に彼との距離は縮まっていた。二人で過ごす時間も増えて、夫婦仲睦まじく暮らしている。

 けれども、彼とあまり趣味の話をしないため、ウェンデの好きなことやものが掴めないでいた。基本的に多忙な彼は、私と過ごすか仕事をするかの二択なのである。

 何をプレゼントしたら彼が喜ぶかが、全く分からないのだ。

 フィオネの夫であるベアンハートは園芸が趣味であり、オリヴァルは甘いものが好きである。そんな風にウェンデにも好きなものが一つはあるはずなのだが、見つからず私は困惑していた。ちなみに直接本人に聞けば良いのかもしれないが、気を使われそうなので敢えて聞いていない。

 私の誕生日は、毎年皆にお祝いされた楽しい思い出ばかりだった。両親や姉二人から素敵なプレゼントをもらって、今でも大切に使っているものばかりだ。

 だから是非、彼にも喜んでもらいたいのだ。

 今度、誰か彼の友人にそれとなく聞いてみようかしら。

 そんなことを考えながらも、馬車の中で夫婦のたわいの無い会話は続いたのだった。

+

「ルイーセ叔母さまだ!! いらっしゃい!!」

 宮殿に着いて直ぐに、私達は可愛らしいお出迎えを受けた。甥っ子のユーリが走って寄ってきてくれたのである。

「ふふっ、お久しぶり。今日も元気一杯ね」

「こら、ユーリ。宮殿の中は危ないから走ったら駄目だろう? ルイーセ様、申し訳ございません」

「いいえ、大丈夫ですわ」

 ユーリを追いかける形でベアンハートがやって来て、慌てて私に頭を下げた。その腕には、姪っ子のニーナを抱いている。フィオネが女王としての公務を執り行う時は、彼が子供二人の面倒を見ているようだった。

「こんばんは、久しぶりだね」

 少し身体を屈める形で視線の高さを下げて、ウェンデもユーリに挨拶をした。

 ……が、やっぱりまだ慣れないらしく、ユーリはその場に固まってしまった。ニーナもウェンデと視線を合わすまいと、ベアンハートの首元に顔を埋めていた。

「……最近人見知りも治ってきてはいるのですが、本当に申し訳ございません」

 申し訳無さそうに、ベアンハートは頭を下げた。

 彼もウェンデと同じくらい背が高く、逞しい身体付きなのだけれども、雰囲気は全く違う。ベアンハートは性格の優しさが外見に滲み出ているのだ。それに加えて穏やかな口調ということもあり、所謂隣にいると癒されるようなタイプなのである。

「いえ、子供達は悪くないので、お気になさらず」

 と言ったは良いものの、ウェンデが落ち込んでいるのは明らかだった。そんな彼を不憫に思いながら、この場を取り持つべく私はユーリに話しかけた。

「ユーリ、食堂まで一緒に連れて行ってくれるかしら? おてて繋いで、ね?」

「……うん!!」

「良いのですか?」

「ふふ、勿論ですわ」

 私の提案に、ユーリは元気に頷いてくれた。

「まだ大分、時間がかかりそうだな」

 そう言って、ウェンデは片手で頭を抱えたのだった。

 ユーリと私が手を繋いで歩き始めようとした丁度その時。

「おや、今日は大分賑やかだね」

 背後から透き通るような声がそう言った。振り向くと、ボルドー色の髪と目をした彼が立っていたのである。

「久しぶりだね、ルイーセ」

「ラーシュお兄様……!!」

 友好国ベスレエラの王太子ラーシュ。

 そして、私の幼なじみである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

処理中です...