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聖女に花冠の祝福を

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「投票の結果、リリス嬢を十二代目聖女として選出する!!」

 その一言を皮切りに、広場に歓声が一気に巻き起こった。

 そして、新たなる聖女━━この国の王太子妃の選出を祝い、民衆は皆薔薇の花びらを投げ、盛大な拍手を送る。今この瞬間、間違いなく国中が歓喜に包まれていた。

 ドレスの裾を軽く持ち上げて、リリスはゆっくりと王太子の前へと歩み出る。そして、彼から祝いの言葉を賜った後、婚約の証として、額へのキスを受けたのだった。 

 聡明な王太子と清らかで美しい聖女が並ぶ姿は、さながら絵画のようであった。きっと国民から愛され、戦禍の爪痕が残るこの国の希望となるに違いない。

「エミリア嬢は、聖女殿に花冠の授与と力の譲り渡しを!!」

 司会の指示により、私も花冠を持ってリリスの前に進み出る。

 敗れた聖女候補は、聖女へ花冠と自らの魔力を渡すのが決まりとなっているのだ。聖女が国の民のために、多くの力を使えるようにするためである。

 向かい合ってリリスと目が合ったが、彼女は申し訳無さそうな表情をしていた。一年に渡って聖女の座を争った女と相見えるのだから、仕方あるまい。

 しかし、彼女への嫉妬は微塵も無かった。むしろ、自分よりもリリスの方が聖女に相応しいと感じていたので、この結果は当然だとすら思っていた。

 確かに、力は私の方が持っていたと思う。だが容姿も人となりも自分よりずっと優れている彼女のことだ。この先、何の心配も無いはずだ。

「そんな顔しないで。折角の綺麗な顔が勿体無いわ」

 リリスにだけ聞こえるように囁くと、彼女は少しだけ笑ってくれた。

 互いに競い合うのには向いてない性格だったので、私達は宿敵同士というよりも、親友に近い関係であったのだ。

「おめでとう、リリス」

「……っ、ありがとう、エミリア」

「ふふっ」

 笑みを浮かべて、私は彼女の頭にそっと花冠を乗せた。赤い薔薇をあしらった華やかな冠は、見目麗しい彼女に良く似合っている。

 冠から彼女の両頬へと手を移し、私は目を閉じた。そして、魔力をリリスの身体へと移していく。水流のように、力が彼女の中へ注がれていくのが感覚で分かった。

 生まれつきあった力が離れていくのは、少し寂しくもある。だがこれも決まりだ。仕方あるまい。

 力を渡し終えて目を開くと、リリスは泣きそうな顔をしていた。

 今までは聖女候補として二人並び仰せられていたが、この瞬間から聖女とただの小娘という隔たりが生まれた。彼女なりにそれを察したのかもしれない。

「エミリア、っ、……」

「泣かないでよ、これからも応援してるから」

 そう言ってから、私は舞台を下りた。''元''聖女候補の役目は、これで終わりなのである。

「皆の者、聖女殿に今一度盛大な拍手を!!」

 再び拍手が巻き起こり、リリスは感極まって涙を流す。優しい王太子は、そんな彼女にハンカチを差し出していた。

「じゃあね、リリス」

 役目を果たしたらば、敗者は去るのみ。主役の邪魔にならぬよう、私は静かにその場を後にした。

 こうして、終戦後初の聖女選びは幕を閉じたのである。

+

「最後までよく頑張ったな、エミリア」

「力が及ばず、恥ずかしいばかりですわ」

 帰りの馬車の中で、父上と母上、兄上は私を励ましてくれた。聖女になれず悔しくは無いが、家族の期待や応援に応えられなかった申し訳無さは十分過ぎるほどにあった。

 俯いて自分の靴の先ばかり見つめる私の肩を叩きながら、兄上は言った。

「何言ってるんだ、聖女候補に選ばれるだけでとっても名誉なことじゃないか。お前は自慢の妹だよ」

「……ありがとう、お兄様」

「疲れたでしょう、今日は兎に角ゆっくり休みなさいな」

「……はい」

 聖女選びは、およそ一年に及んだ。王室から聖女候補に選ばれたという手紙が届いてから今日までは、本当に瞬く間に過ぎていったと思う。

 取り敢えず、先ずは結婚相手をどうにか探さねばなるまい。

 候補に選ばれた場合、聖女選びが終わるまでは縁談を全て断らなければならない規則があった。つまり、現状私は婚約者がいないのである。通常であれば婚約どころかもうじき結婚する歳頃なので、それを考えると頭が痛い。

 だが、この先を考えるのも明日以降にしたかった。重責から解放されたことにより、どっと疲れが出てきたのだ。正直、窮屈なコルセットも何もかもを脱ぎ捨てて、ベッドに潜り込みたかった。

 しばらくは、ゆっくり休もう。

 しかしその''しばらく''は長くは続かなかった。聖女選びが終わった翌日、私は父上からある一人の男を紹介されたのだ。

 それが私の夫、王立騎士団長ヴァルタである。
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