氷片のパズルが嵌るとき~どうしても雪男と結ばれたい彼女~

二階堂まや

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交わる熱と冷たさ

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「んっ……」

「は……っ」

 互いに向かい合わせとなり、私達は自らを慰め始めた。前戯から触れ合っていたら、本番までに私が凍えて身が持たないのだ。

「あっ……ん、」

 私は風呂場の椅子に座り脚を広げ、冬馬に見せつけるように指を秘所に差し入れた。恥じらいよりも、目の前の男に求められたい欲が勝るのだから、不思議なものだ。

「は……っ、」

 眼前では、浴槽のへりに腰掛けた彼が自身を扱いている。先程まで柔らかく下を向いていたそれは、段々と硬さをもち始めていた。

 互いに「見るな」とは言わない。それ程に、二人共が結ばれたいという欲を満たすために必死なのだ。

「はっ……っあ、ん」

 片手で乳を揉みしだきながら、膣肉の浅い部分を刺激する。感じる箇所を全て知っているのは自分だけれども、この手が彼の手であったならばどれ程良いだろうと思わずにはいられない。

「んっ、ぁ、……っ、」

 愛蜜を混ぜ合わせる音、カウパーを塗り伸ばす音が浴室に響く。互いの名を呼ぶでもなく、私達はひたすらに自らの慾を高めることに没頭した。

「……っ、もう良い? 」

 雪菜が欲しい。そう言って、冬馬は私を横抱きにして、湯の中へ座らせた。そして何故か、シャワーの蛇口を開けたのだった。

「……シャワーは流石にいらなくない?」

「ん、シャワー開けといた方が空気冷えないでしょ?」

 私の脚を開きながら、彼は呟いた。その言葉がかき消されそうな程に、シャワーが床を叩く音が風呂場に響いていた。

「じゃあ……」

 淫唇を割り開いて、彼は肉竿を突き刺した。
 
「んっ!!……ひっ、ぁ、」

 待ち焦がれた衝動。しかし、歓喜したのも束の間。直ぐに強烈な冷たさが胎内を襲った。

「ぁ……っ、ん、」

 一気に鳥肌が立ち、寒さで何も考えられなくなる。肌は湯に浸されて温かいのに、腹の中は氷柱で突き刺されたように冷たい。

 やっぱり無理かもしれない。そんな考えが頭をよぎった。

 寒さで嘔吐く口元を片手で隠すと、手の甲にひやりとした口付けが一つ落とされる。それは、不思議と優しい冷たさであった。

「ぁ、……っ、雪菜……」

 眉を寄せながらも、冬馬はゆっくりと奥へと進める。彼の罪悪感を少しでも減らすように、私はなるべく苦しさを顔に出さないよう堪えた。

 暗い考えを振り払うように、私は彼と片手を繋いだ。すると彼は、何も言わず握り返してくれたのだった。

「……動くよ」

「……ん、」

 最奥まできたところで、すぐさま彼は抜き差しを始めた。

 彼の存在に慣れていない中にはやや強い刺激ではある。しかし、私達には時間が無いのだ。

「はっ……っあ、ああっ」

「ん、っ……ぁっ、」

 彼が腰を揺らす度、水面が揺れる。水面を叩くシャワーの水音が雨のようにうるさい。けれども、そんなことどうでも良い位に、私達は情事に夢中になっていた。

「あっ、あっ……っ、ああ!!」

「は、っ……ん、雪菜、雪菜!!」

 束の間の幸せ。けれども彼の冷たさは、確実に私の体温を奪っていった。知らぬ間に、自分の手足には鳥肌が立っていた。

 まだ、まだ離れないで。

 そう心の中で叫んだ瞬間、胎内で冷たい水が弾けるのを感じた。それにより、反射的に淫道が冬馬自身を抱きしめる。

「んっ、っ……!?」

「ぐっ……ぁ、」

 冷たいとろみのある水。その正体が、私は理解出来ないでいた。

「えっ……?」

「……ごめん」

 申し訳なさそうに、雪男はこつりとおでこをくっつけてきたのだった。


+



「……面目無い」

 ベッドに入った後、冬馬はもう一度謝ってきた。どうやら、すぐに果ててしまったことが大分ショックだったらしい。

「あら、入れた途端にイっちゃうとかよく聞く話だし、頑張ったじゃない」

「そう言われると余計恥ずかしいからやめて」

「ふふっ」

 照れ隠しなのか、彼は私をギュッと抱きしめた。そうされては全く彼の顔が見えないから困ったものだ。

「ねえ、そう言えば、夏祭りで何を手に入れたの?」

 愛しい暗闇の中で、私は冬馬に問うた。

「おもちゃのカメラだよ」

「あら素敵」

「そんなに質の良いものじゃなかったけれども、手に入れてからレンズ越しに世界を切り取るのが楽しくて仕方無かった。……親にはめちゃくちゃ怒られたけど」

「どこの親も一緒ね」

 彼の胸に顔を埋めると、やはり温かさは無い。けれども、それは私にとって何よりも心地よいものだった。

 ぴたりと嵌った氷片のパズルが離れることはもう無いのだから。

「ね、あのままじゃ終われない。また今度リベンジさせて欲しい」

「え?」

「駄目?」

 見上げるとそこにあったのは、真剣な目つきで私を見つめる彼の顔。じわりと胸の内が温かくなっていくのを感じた。

「ううん。少しずつ、やってきましょ。それと……」

「?」

「今年もよろしく」
 
「ん、よろしく」

 何だか今年は良い年になりそう。そう思いながら、私はそっと目を閉じた。
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