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第二章 現実世界
事件
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-某所(陸矢)
「しつけぇよバカやろー!」
直樹君が全速力で走りながら叫ぶ。その少し後ろにはコウキ君、そしてさらに後ろには僕が続く様に走っていた。
更に後方20メートルぐらいからは複数の野太い声が聞こえてきている。
「待ててめぇら!」
僕達は今、コウキ君が説明してくれた例のヤクザに追われていた。コウキ君と話をつけたすぐ後の出来事だ。匿うためにとりあえず僕の家に向かっていたが、すぐに追っていたヤクザに見つかり今に至る訳だが。
正直僕は追われ始めた瞬間はコウキ君を見捨ててしまおうとも思ったが、直樹君が「こっちだ!」とか言って逃げ始めるから完全に僕達も追われる対象となっている。
普通に直線ルートで僕の家まで向かっていたら、とっくの昔にたどり着いているだろう。だけど今は複数人のヤクザを巻きながら走っているせいか、むしろ家からは遠ざかっている状況だ。
前を走る直樹君はチラチラと後ろを振り返りながら、悔しそうな顔をして見せる。
「くそ!こんなことなら新次か誰か連れてくるんだった」
直樹君の言う通り、僕以外の誰か、尚且つもう少しこちら側の人数が多ければ逃げずに立ち向かっているかもしれない。だけど生憎一緒にいるのは、喧嘩なんて人生で一度も経験したことのない僕だ。戦力外だろう。
また僕の家に向かって応援を呼んでも良かったが、直樹君がそれは避けてくれている。何せ僕の家が特定される結果になるからだ。
僕達は目的地もなくひたすら暗闇を走り続けているが、ヤクザ達はいつまでも追ってくる。いったい何をやらかせばここまで追われることになるのか疑問だが、それはこの状況を乗り切ってから聞いてみるしかない。
もう何十分走り続けただろう。疲労困憊で棒のようになる足をただ前に進める。恐怖心からかアドレナリンが出ているのが不幸中の幸い。
それは後ろを走るヤクザ達も同じ状況だろう。そう思い後ろを振り返ろうとした瞬間、前を走る直樹君が急に足を止める。
「ちょ、ちょっと、どうしたの!?逃げないと!」
僕は直樹君に軽くぶつかった後、相当焦りながら直樹君を急かす。だが言葉で発しつつも僕も急に違和感を感じていた。
夜の繁華街から遠ざかり裏路地に入っていた僕達。驚くほど静かなこの場所で感じる違和感。それを直樹君は口に出す。
「ここ……どこだよ。何ががあったんだバカやろー」
一見意味のわからないことを口走っているように感じるが、僕の気持ちは直樹君と全く同じだった。
僕は産まれてから20年ほどこの辺に住んでいるが、何故か今いるこの不気味な裏路地には全く見覚えがない。だが僕達が感じている違和感はそこではない。先程も説明したが、この場所は驚くほど静かだ。
今まで追ってきていたはずのヤクザも、コウキ君も突如として姿を消していたからだ。
本当に一瞬だった。瞬きする間にはまるで最初からいなかったかの様に居なくなっていた。あまりに突然の出来事に狼狽してみせる。
「え?……どういうこと?コウキ君は?」
「わからねぇ……目を話した隙に。今さっきまで確かにいたはずだ。」
僕達はあたりを見渡すが、状況は変わらず人の気配すら全くない。理解しようとすればするほど疑問ばかりが産まれ解決は不可能だ。
ただ周りに見えるのは、まるで僕達を引き摺り込もうとしているかの様な延々と続く闇。寂れた雰囲気と共に心なしか異臭が漂う。どこからかピチャピチャと水の跳ねる音が響き、より一層不気味さを際立たせていた。
ネズミが這いずり回っていてもなんの違和感もないだろう。まるでホラー映画にも出てきそうなこの場所は、地元であるはずの僕達には全く見覚えのない場所だった。
嫌な予感がしている僕の額からは冷たい汗がたらりと滴り落ちる。直樹君も同じ状況なのだろう。少し恐怖を抱いた顔で僕のそばによる。
「とりあえず引き返そうぜ。気味が悪りぃ」
全く同じ意見の僕は、直樹君の言葉に賛成とばかりに首を縦に振る。僕が足早に期日を返したその時、暗闇の奥から微かに音が聞こえてきた。
「お待ちください。」
一瞬考えた後に、それが誰かの声だと分かる。その声は今にも消え入りそうなか細く高い声で、僕達を囲む闇と同化している。
少し不信感を抱き心臓が高鳴る僕をよそに、直樹君は声を返した。
「なんだ?コウキか?ビビらせてんなじゃねぇぞバカやろー」
「いいえ、違います」
「あ?じゃあ誰だよ」
「ふふ。さぁ誰でしょうね。」
謎の声の主はこれまた不気味で静かな笑い声を浮かべ、カツカツとこちらに近づいてくる。暗闇のせいで姿は全く見えないが、少しずつゆっくりと。
それは待っていた次の瞬間、、
「うっ……!」
僕のすぐ横から呻き声の様な音が聞こえてきた。反射的に声の下方を振り返るとそこには、、
血を流し倒れる直樹君の姿があった。
「え?え?……なんで?」
僕は目を見開き腰から倒れる。冷静さを失い声にならない声をあげる。
状況は理解できない反面、しっかりと恐怖を感じているのか足腰はガタガタと震えていた。僕が狼狽している間も直樹君の身体から血が流れ続ける。
よく見ると倒れた直樹君の足元には長身の男が立ちすくんでいた。黒いハット状の帽子に黒いコート、手袋と靴まで黒く染められており明らかに怪しい雰囲気を纏っている。
そして何より僕を恐怖に駆らせたのは、その手に持った鋭利な刃物だった。
不気味に笑う長身の男。僕はガタガタと震えながらも直樹君の方に再度目をやる。すると直樹君は虫の息ながらもしっかりと立ちあがろうしていたのがわかった。
僕は震える手を無理やり動かしスマホを取り出す。しかし長身の男はニヤニヤと笑いながら僕の携帯を取り上げた。
「ダメですよ。警察でも呼ぶ気ですか?」
そして僕に向かって刃物を振り上げる。腰が抜けて逃げることすらままならない。直樹君が必死に何かを叫ぼうとしているが、僕にはそれを聞いている余裕はない。
「陸……矢……。にげろおおおおおおおお!!」
直樹君の声は、静かな暗闇の中に大きく響き渡っていた。
「しつけぇよバカやろー!」
直樹君が全速力で走りながら叫ぶ。その少し後ろにはコウキ君、そしてさらに後ろには僕が続く様に走っていた。
更に後方20メートルぐらいからは複数の野太い声が聞こえてきている。
「待ててめぇら!」
僕達は今、コウキ君が説明してくれた例のヤクザに追われていた。コウキ君と話をつけたすぐ後の出来事だ。匿うためにとりあえず僕の家に向かっていたが、すぐに追っていたヤクザに見つかり今に至る訳だが。
正直僕は追われ始めた瞬間はコウキ君を見捨ててしまおうとも思ったが、直樹君が「こっちだ!」とか言って逃げ始めるから完全に僕達も追われる対象となっている。
普通に直線ルートで僕の家まで向かっていたら、とっくの昔にたどり着いているだろう。だけど今は複数人のヤクザを巻きながら走っているせいか、むしろ家からは遠ざかっている状況だ。
前を走る直樹君はチラチラと後ろを振り返りながら、悔しそうな顔をして見せる。
「くそ!こんなことなら新次か誰か連れてくるんだった」
直樹君の言う通り、僕以外の誰か、尚且つもう少しこちら側の人数が多ければ逃げずに立ち向かっているかもしれない。だけど生憎一緒にいるのは、喧嘩なんて人生で一度も経験したことのない僕だ。戦力外だろう。
また僕の家に向かって応援を呼んでも良かったが、直樹君がそれは避けてくれている。何せ僕の家が特定される結果になるからだ。
僕達は目的地もなくひたすら暗闇を走り続けているが、ヤクザ達はいつまでも追ってくる。いったい何をやらかせばここまで追われることになるのか疑問だが、それはこの状況を乗り切ってから聞いてみるしかない。
もう何十分走り続けただろう。疲労困憊で棒のようになる足をただ前に進める。恐怖心からかアドレナリンが出ているのが不幸中の幸い。
それは後ろを走るヤクザ達も同じ状況だろう。そう思い後ろを振り返ろうとした瞬間、前を走る直樹君が急に足を止める。
「ちょ、ちょっと、どうしたの!?逃げないと!」
僕は直樹君に軽くぶつかった後、相当焦りながら直樹君を急かす。だが言葉で発しつつも僕も急に違和感を感じていた。
夜の繁華街から遠ざかり裏路地に入っていた僕達。驚くほど静かなこの場所で感じる違和感。それを直樹君は口に出す。
「ここ……どこだよ。何ががあったんだバカやろー」
一見意味のわからないことを口走っているように感じるが、僕の気持ちは直樹君と全く同じだった。
僕は産まれてから20年ほどこの辺に住んでいるが、何故か今いるこの不気味な裏路地には全く見覚えがない。だが僕達が感じている違和感はそこではない。先程も説明したが、この場所は驚くほど静かだ。
今まで追ってきていたはずのヤクザも、コウキ君も突如として姿を消していたからだ。
本当に一瞬だった。瞬きする間にはまるで最初からいなかったかの様に居なくなっていた。あまりに突然の出来事に狼狽してみせる。
「え?……どういうこと?コウキ君は?」
「わからねぇ……目を話した隙に。今さっきまで確かにいたはずだ。」
僕達はあたりを見渡すが、状況は変わらず人の気配すら全くない。理解しようとすればするほど疑問ばかりが産まれ解決は不可能だ。
ただ周りに見えるのは、まるで僕達を引き摺り込もうとしているかの様な延々と続く闇。寂れた雰囲気と共に心なしか異臭が漂う。どこからかピチャピチャと水の跳ねる音が響き、より一層不気味さを際立たせていた。
ネズミが這いずり回っていてもなんの違和感もないだろう。まるでホラー映画にも出てきそうなこの場所は、地元であるはずの僕達には全く見覚えのない場所だった。
嫌な予感がしている僕の額からは冷たい汗がたらりと滴り落ちる。直樹君も同じ状況なのだろう。少し恐怖を抱いた顔で僕のそばによる。
「とりあえず引き返そうぜ。気味が悪りぃ」
全く同じ意見の僕は、直樹君の言葉に賛成とばかりに首を縦に振る。僕が足早に期日を返したその時、暗闇の奥から微かに音が聞こえてきた。
「お待ちください。」
一瞬考えた後に、それが誰かの声だと分かる。その声は今にも消え入りそうなか細く高い声で、僕達を囲む闇と同化している。
少し不信感を抱き心臓が高鳴る僕をよそに、直樹君は声を返した。
「なんだ?コウキか?ビビらせてんなじゃねぇぞバカやろー」
「いいえ、違います」
「あ?じゃあ誰だよ」
「ふふ。さぁ誰でしょうね。」
謎の声の主はこれまた不気味で静かな笑い声を浮かべ、カツカツとこちらに近づいてくる。暗闇のせいで姿は全く見えないが、少しずつゆっくりと。
それは待っていた次の瞬間、、
「うっ……!」
僕のすぐ横から呻き声の様な音が聞こえてきた。反射的に声の下方を振り返るとそこには、、
血を流し倒れる直樹君の姿があった。
「え?え?……なんで?」
僕は目を見開き腰から倒れる。冷静さを失い声にならない声をあげる。
状況は理解できない反面、しっかりと恐怖を感じているのか足腰はガタガタと震えていた。僕が狼狽している間も直樹君の身体から血が流れ続ける。
よく見ると倒れた直樹君の足元には長身の男が立ちすくんでいた。黒いハット状の帽子に黒いコート、手袋と靴まで黒く染められており明らかに怪しい雰囲気を纏っている。
そして何より僕を恐怖に駆らせたのは、その手に持った鋭利な刃物だった。
不気味に笑う長身の男。僕はガタガタと震えながらも直樹君の方に再度目をやる。すると直樹君は虫の息ながらもしっかりと立ちあがろうしていたのがわかった。
僕は震える手を無理やり動かしスマホを取り出す。しかし長身の男はニヤニヤと笑いながら僕の携帯を取り上げた。
「ダメですよ。警察でも呼ぶ気ですか?」
そして僕に向かって刃物を振り上げる。腰が抜けて逃げることすらままならない。直樹君が必死に何かを叫ぼうとしているが、僕にはそれを聞いている余裕はない。
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