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第一章 start of travel
ドラゴン
しおりを挟む「なんだよ……これ……。」
あまりの衝撃にその場に呆然と立ち尽くすことしかできなくなっていた。だが静かな身体とは裏腹に心臓はこれ以上ないぐらいに高鳴っている。
薄茶色の砂漠の中で白く輝くドラゴン。その体長は目測で50メートル以上はあり、佇んでいるだけなのに俺を威圧していた。
二本の足でしっかりと大地を踏みしめるドラゴンの足には鋭い爪が携えられている。ギロリと俺を睨む眼光に同じく鋭く尖った歯をむき出しに。
その体には体長の2倍ほどあるであろう、巨大な翼が生えており太陽を覆い隠していた。
衝撃と恐怖、謎の高揚感などで感情のコントロールも難しくなっている俺に対し、ピッツは自慢げな表情を浮かべている。
「驚いて声もでねぇか!そりゎそうだ、こいつは飛行龍の中でも最大級のデカさを誇る俺の相棒!その名もジークだ!」
またしても的外れな説明を行なっているピッツ。例によって俺の頭にはそんな説明は入ってこない。
飛行龍で最大級と言われても、そもそも飛行龍の平均的な大きさなんて知るわけがない。だがピッツのこの様子から見て取れるのは、この【創造世界】ではその存在が当たり前のものだと言うこと。
それを証拠にピッツは慣れた手つきで飛行龍の足を撫で出していたのだ。もちろん俺は恐怖で足がすくみ歩けない。業をにやしたピッツは叫ぶ様に俺に呼びかける。
「いつまでビビってんだ!さっさと来い!」
ピッツの喝で冷静になろうとする。いやなれるはずもない。この状況を理解しようとすればするほど、逆に混乱が増していくだけだ。
だがどうやら飛行龍は俺に対して敵意を出している様子もない。それどころかピッツに対して従順なのか、足を撫でられて喜んでいる様にも見える。
いつまでもビビっていても仕方がない。俺は自分にそう言い聞かせ、意を決して足を前へと進めていた。
「これ……乗ればいいのか?……どうやって?」
「あぁ、あれだな、馬に乗る感じ」
俺がせっかく震える声で聞いたのに、ピッツの説明は全く役に立たない。大きさがまるで違うのに馬に乗る感じな訳がない。なんならそもそも馬に乗ったことすらない。
全く納得のいかない表情の俺を無視し、ピッツは手際良く事を進める。
飛行龍の背中から地面にかけて長い蔦状の梯子がかかっている。それを手に取り素早く登り始めていたのだ。
俺はとりあえずこれは夢だと現実逃避をする事にし、無理矢理飛行龍に近づいていく。自分でも笑えるほど足はガクガクと震えているだろうが、それを止める心の余裕はもはやない。
死ぬ思い出ようやく梯子まで辿り着いた頃には、もうどうでも良くなっていた。
俺は無心で梯子に手をかけ登り始める。
近づいて初めて分かったが、飛行龍【ジーク】の白く輝く毛は美しい。きっと毎日手入れされているのだろう。また毛並みの間から僅かに見える筋肉は、まさに筋骨隆々という言葉が似合うほど鍛え上げられている様だ。
そんなことを考えながら登り続けていると、いつの間にかピッツの待つジークの背中へと辿り着いていた。ジークの背中には意外にも何か設置されているわけではなく、ピッツもそうしているが毛に捕まるしかない状態だ。
「しっかり捕まれよ。」
ピッツはポンチョの中から丈夫そうなゴーグルを取り出し装着する。その後にジークのうなじの毛を掴んだかと思うと、同時にジークは雄叫びをあげた。
【ブワァァァォァ!!!!】
大地をも揺るがす様な力強い音は、容赦なく俺の鼓膜を刺激する。まるで目の前で爆発でも起こったかの様にビリビリと空気が悲鳴を上げていた。
ジークは肩甲骨から生える巨大な翼をゆっくりと上下に揺らし出す。すると徐々に俺の身体は浮遊感に見舞われた。例えばジェットコースター……いやそんなアトラクションレベルの体感ではない。
そして終わりのない居心地の悪さを体感している間に、とうとうジークと俺たちは猛スピードで移動を始めた。
「うわぁぁぉぁぁぁぁ!止めろおおおおお!」
「うはは!どうだ、ジークはそこいらの飛行龍の何倍ものスピードが出る。更にこいつの皮膚は鉄……いやダイヤモンド並みの硬度だ!」
俺の叫び声を楽しむかの様な声でピッツが何かの説明をしている。ただスピードによって出る風の爆音でその他の声は全て掻き消されていた。
いや、掻き消されていなかったとしても俺にその説明を聞いている余裕なんてないだろう。周りの景色なんて全く見えないほどのスピードでジークは走っているのだから。
「なんだ?ビビって返事もできねぇようだな。下を見ろ、もう村だ。」
「見れるか!早く降ろしてくれえええええ!」
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