2 / 14
第一章 start of travel
テント
しおりを挟む「お……ろ!」
俺の耳元で誰かが声を出しているのが朧げながらに感じ取れた。馴染みのない少年の様な声だ。
その声を聞き流した後、微かに意識を取り戻す。
しかし聴覚とは裏腹に、体は言うことを聞かず瞼も重く開かない。
「おきろ!」
何度か繰り返しているのかようやく少年の言葉がハッキリと聞き取れた。だが脳はそれに追いついていないのか、言葉の意味を理解できていない。
それでもなお叫び続ける声。そのお陰もあるのか、俺は少しずつではあるが五感を取り戻している。
声の次に感じたのはジリジリとする暑さだ。寝苦しく不快感を同時に感じ、ようやく自分が汗だくであることに気がついた。
まだ瞼はほとんど開かないが、それでも眩しさを感じるほどの日差しである。
俺が自分の感覚を取り戻していくのに集中していると、先ほどまで延々と叫び続けていた声が突如として聞こえなくなった。
かと思うと、次の瞬間さらに大きな叫び声が俺の鼓膜を震え上がらせた。
「おきろおおおおおお!!」
「うわ!なんだ!?」
俺は間抜けな声と共に打ち上げられたサカナの様に身体を飛び起こした。
それとほぼ同時に首を素早く左右に振りながらあたりをキョロキョロと見渡す。周囲に危険はないかの防衛本能も兼ねているのだろう。
360度見渡した結果、人生において見覚えのない場所だ。そして見渡した風景の中にはこれまた見覚えのない少年が立っていた。
「だ……だれ?」
恐らく俺にずっと叫び声をあげていた声の主だろう。かと言ってこの少年が誰かは分からないければ、現状のヒントにもならない。
ビー玉の様な純粋な目をした小柄な少年。推定年齢10歳ぐらい。頭には紫色のターバンを纏っており、それと合わせる様に民族衣装の様な柄のポンチョを着ている。
その少年を気にしつつも、俺は改めてあたりを見渡した。
雨を弾きそうな黄色のテント、広さは大人3人が雑魚寝できるぐらい。地面には2.3日であれば生活できそうな物資が乱暴に並べられている。
俺が不思議そうにテントの中をマジマジと観察していると、少年はわざとらしくため息をついた。
「誰だとはなんだ!俺がせっかく砂漠のど真ん中で倒れてたお前をここまで運んできてやったんだぞ!」
早口で怒鳴るが俺は何のことを言っているのか分からずにただ呆然と少年を見つめる。
数秒経った後に目線を落として、今の状況を少し考えてみるが理解できない。とりあえず少年の言葉で気になったことがある。
「砂漠?……鳥取砂丘?」
砂漠という日常生活ではあまり聞きなれない言葉。それが何なのかは分かるが、今の状況とイコールにはならなかった。
しかし少年は冗談を言っている様な顔つきでもなく至って真剣だ。
最近の子供は鳥取砂丘も知らないのか?そう思いながらもようやく俺の身体は少しずついうことを聞く様になっている。
体の節々は痛むものの立つことはできた。少年を軽く見下ろした後にテントの出口を探す。
もちろん出口はすぐ目の前にあるため、少しため息をついた後に歩き出す。
しかしそれを案の定少年は止めた。
「おい、どこいく、ここはまだ砂漠のど真ん中だぞ?」
その少年の意味不明な言葉に一瞬だけ足を止めたが、すぐに我に帰り冗談だと気づく。おおよそ少年の○○ごっこの様なものだと思ったからだ。
大人気なくも鼻で笑った後、テントのファスナーに手をかける。その間も少年は俺に何かを言ってきているが、俺は気にせずにファスナーを降ろした。
「……え?」
無意識のうちに声が漏れていた。ファスナーを降ろしたことにより、布でできた扉はヒラリと開く。その先にはあまりにも衝撃的な光景が広がっていたのだ。
少年の言う通りだ。
俺の目前には見渡す限りの砂漠。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる