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第二章 謀略の復活祭
第二十話 黒雷の科学者
しおりを挟む アメリゴ合衆国に住む科学者で雷鳴戦士、ジェームズ・グランハンから招待状が来たため、ユースはブリデラント王室のプライベートジェットでジェームズの研究室へ遊びに行くことにした。
ユースはローマンド国際空港のカフェで静かにケーキを口に運んでいた。
「ハーイ、ユース!」急にユースの後ろから明るい声が聞こえた。
びっくりしてフォークを落としてしまったが、動揺を何とか隠しながらフォークを拾う。
「チャオ、エリー……いつからいたの?」
「ついさっき来たのよ。」エリーはユースの向かい側にある席に座った。
「……どうしたの、僕の顔に何かついてる?」
「ううん。ユースって、そんな幸せそうな顔するんだな~って。」
「そりゃ僕だって幸せな時くらいあるさ。」
「私といるときは幸せ?」
「変なこと聞くんだな。まあ、一人でいる時よりは幸せかな?」
「ふーん。(何よ!今の告白みたいなものでしょ!?)」
「……ご馳走様。じゃあ、行こうか。」会計を終えたユースが言った。
「あ、うん! 行きましょう!」
実はエリー、この旅行である計画を立てていた。
(ハイジャック事件の後のダンスパーティーの時、いざキスしようとしたら恥ずかしくなってほっぺたにしちゃった……今日こそはユースの唇を奪ってやる!)
ユース、エリー、その他護衛たちを乗せたブリデラント王室のプライベートジェット「クイーン・ヴィクトリア」が、今空港を飛び立った。
「いやー、僕飛行機に乗るの初めてだな~。」
「厳密には初めてじゃないでしょ?」
「そうか、記憶が消える前に乗ってるのか……ところでさ。」
「何?」
「……この飛行機、広すぎないか!?」
「そりゃあ、ジャンボジェットを改造したんだもの。」
「にしても広いよ。僕んちの二倍はあるよ。なにこれ軍用輸送機?」
「そんなわけないでしょ!」
宝石で飾り付けられたシャンデリア(電化)、金箔で覆われた壁、レッドカーペット……。
ファインガム宮殿を連想させるような内装に、ユースは正直ビビっていた。
「内装の豪華さならローマンド城を軽く上回るな……」
「ユース、紅茶飲む?」エリーが紅茶の入ったカップを持ってきた。
「ああ、ありがとう。」ユースはテーブルに置かれたカップを手に取った。
そして一口飲もうとしたと思いきや、急に手を止めた。
「……どうしたの、ユース?」
「エリー……この紅茶、何か混ぜてあるな?」
ギクッ。エリーの声が多少濁った。「そ……そんなわけないでしょ。あ、勝手に砂糖混ぜちゃった!ごめんね!」
「なーんだ、そういうことか。じゃ、今度こそ……」と言いかけたところでユースはまた手を止めた。
「……まずい、飛行機で酔った。ちょっとトイレに……」ユースは立ち上がると、片手で口を押えながら席を離れた。
……ユースがいなくなったところで、エリーは大きく息を吐いた。「ふぅ……危なかった……気づかれる要素あったかしら?まあいいわ。」エリーもカップを手に取って紅茶を一口飲んだ。
「ン~~~いい香り! やっぱりブリデラントの紅茶はさい……こ……う……?」突然、エリーの体が動かなくなり、エリーの手からカップが滑り落ちた。
カップは床に落ち、音を立てて割れ、中から紅茶が飛び出してきた。
「な……何これ!? なんで私が」「やっぱり筋弛緩剤の類だったか………」いつの間にかユースがそこにいた。
「ユース!」「僕の紅茶に何か混ざってるな~とは思ったが、すり替えておいて正解だった。いったい何のつもりかな?」
「そ………それは」「僕の唇を奪うためか?」ギクギクッ。図星をさされながらも、エリーは必死に反撃する。「なんでそうなるのよ!!!」
「今までが明らかにそうだったからだよ。この前ブリデラント王室主催のパーティーに呼ばれていった時なんて、まさか正面から凍らせにかかってくるなんて思わなかった!」
「何よ!炎の息を吹きかけてきたくせに!」
「あのねぇ、無理やりキスしようとするなんて、完全に強制わいせつだからね? いい加減にしないと刑事告発するよ?」
「やめて! それだけはやめて!!!」
「じゃあなんでこんなことするのか教えて。」
「そ……それは……」「エリー殿下!! 何か割れた音が聞こえましたが、大丈夫ですか?」
護衛が焦って入ってきた。
「大丈夫です。エリーが間違えて筋弛緩剤を飲んでしまっただけなので。」ユースはこぼれた紅茶を乾かしながら言った。
「いや間違えて筋弛緩剤なんて飲まないでしょ!!」護衛の突込みは意外にも的確だった。
「ううん、間違えて飲んだ。」エリーはほぼ使い物にならなくなった体で言った。
「なるほど、それは失礼しました。」「ちょっと護衛さん!?」ユースが呆れ驚く。やっぱり護衛はエリーにべったりだった。
「……ところでさ、ジェームズの研究室ってアメリゴのどこにあるの? ワトソン? それともニューアムステルダム?」
「アラベスクよ。」エリーが身動き取れないまま答えた。
「……へ? アラベスク?」
「そう、アラベスク州よ。」
「北極じゃねーか!!!」
ユースはアメリゴ合衆国のアラベスク州、フェアブラックス国際空港に着陸するまで、ジェームズ・グランハンの研究室が亜北極にあると信じなかった。
しかし、窓の外を見れば猛吹雪。
ローマンドなら地方にもよるがそろそろ桜が咲き始めるころだ。
「まさか本当にこんな極寒の地域にあったとは……」空港の窓ガラスに向かって絶望しながらユースは言った。
「ねぇ、ジェームズはなんでこんな辺境に住んでるの?」ユースは深く深く沈んだ声でエリーに聞いた。
「ジェームズは人嫌いなのよ。」エリーはなぜか変身していた。
「ユースも変身しなさい。身が持たないわよ。」「ああ、うん……」
ユースの心の中では、そびえたつ摩天楼を見て回ったり、きらびやかな夜景を見てうっとりするというアメリゴ観光のプランが、音を立てて崩れ落ちていった。
それでも何とかメンタルを立て直して空港の外に出てみるが、真横から殴られるような吹雪に零下三十度を下回る極寒の気温。自然戦士の装備でも耐えられるかどうか怪しい。
この風力じゃジェットパックを用いた空中機動は出来ない。
ユースは熱エネルギーを少しずつ発しながら歩くことで、何とか寒さをしのいでいた。
一方エリーは氷結戦士であるだけあって、寒さ慣れしているようだ。
「こんな前も見えないような吹雪で道分かるの!?」とユースはエリーに質問した。ただし、大声をあげてもかき消されてしまうので、無線で話した。
「大丈夫! 空港から研究室までは一本道だから!」
「このあたりに町はないの!?」」
「ないわよ! 研究室につくまで頑張りなさい!」
「そんな~~!」などと会話していると、突然道をふさぐ集団が現れた。
「そこの自然戦士止まれ!!」
ユースは結構イライラしていたので、「誰だよ、こんな時に!!」と叫んだ。
「持ち物を全部置いて行け!!」その紫色の怪物はユースたちに向かってナイフを構えていた。
「なんだ、ただの子ギートじゃないか。」「ただの子ギートではないわね。寒い地方に適応して毛皮が厚くなったり、足が大きくなったりしてるわ。」
「子ギートって、言葉を話すくらいの知能あったっけ?」
「おいてめーら!何無視してんだこら!!」五体ほどいた子ギートたちは一斉に襲い掛かってきた!
しかし、ユースが目もくれずに放った火柱と、エリーがやはり目もくれずに放った銃弾によって、あっけなく倒されてしまった。
そして先を進みながら、こんな風に雑談するのだった。
「まあ、新聞やニュースを理解する程度の知識はなかったようね。」
「そうだね、ニュースを見ていたら、こんな無謀な戦いは仕掛けてこなかっただろうにね。」
さらに十分ほど歩くユースとエリー。
すると、吹雪の向こう側に明かりが見えてきた。
「あ! あれか!?」
「そうよ。あれがアメリゴ合衆国国立科学研究所、自然想像エネルギー研究室よ!」
近づくと、ぼんやりしていた輪郭もはっきりと見えてくるようになった。
「……ただのビニールハウスじゃないか?」
「ダミーに決まってるじゃない。」
エリーはビニールハウスの中に入っていった。
「ほら、ユース、来なさい。」「う、うん。」ユースもついて行って入った。
入ってすぐに、見た目とはかけ離れた特徴に気づく。「あ!暖かい!」
「そうでしょ。この建物もビニールハウスじゃなくて、特殊なプラスチックを用いているの。」
エリーは中央にある二メートル四方ほどのシェルターのハッチの取っ手をつかんだ。
すると、ハッチがなんだか電光掲示板のように光りだした。
「……ピピ……生体認証、エリー・スチュアーテラートの情報を確認。ロックを解除します。」
ハッチが重々しく開いていく。
「おお……プシューって言ってる……」ユースのテンションは少し上がった。
「中に入るわよ。」エリーは中にある階段を下って行った。
ユースもそれに続いた。
「あれ? 勝手に入っちゃっていいのかな?」「いいのいいの。」薄暗い通路を、二人は奥へ奥へと進んでいく。
通路の一番奥には鉄製の扉があった。
エリーはタッチパネルに手のひらを置いた。
ピピっという電子音とともに、扉の鍵が開く音がした。
「ジェームズ~? 遊びに来たわよー!」「お邪魔しまーす……」対照的な態度で部屋に入ったユースとエリー。
研究室の椅子の一つに、彼は座っていた。
そして立ち上がると、試験管を片手に持ったまま近づいてきた。
「おお、エリー! 久しぶり! ……そしてこっちの太陽戦士が……?」
「ユース・A・ルーヴェです。この度は手紙をどうも。」ユースは軍隊式の挙手の敬礼をしてあいさつした。
「君がユース君か! 遠路はるばるご苦労様!」そういうと、彼は右手を差し出してきた。
握手に答えながら、ユースは、その右手、いや、彼の全身に違和感を感じていた。
「……この季節なのに、なんで真っ黒に焼けてるの?」
彼の母親はアフロ系黒人だった。
それが、ジェームズ・M・グランハンが、「黒雷の科学者」と呼ばれる所以だった。
第二十一話 科学者の本音 に続く
ユースはローマンド国際空港のカフェで静かにケーキを口に運んでいた。
「ハーイ、ユース!」急にユースの後ろから明るい声が聞こえた。
びっくりしてフォークを落としてしまったが、動揺を何とか隠しながらフォークを拾う。
「チャオ、エリー……いつからいたの?」
「ついさっき来たのよ。」エリーはユースの向かい側にある席に座った。
「……どうしたの、僕の顔に何かついてる?」
「ううん。ユースって、そんな幸せそうな顔するんだな~って。」
「そりゃ僕だって幸せな時くらいあるさ。」
「私といるときは幸せ?」
「変なこと聞くんだな。まあ、一人でいる時よりは幸せかな?」
「ふーん。(何よ!今の告白みたいなものでしょ!?)」
「……ご馳走様。じゃあ、行こうか。」会計を終えたユースが言った。
「あ、うん! 行きましょう!」
実はエリー、この旅行である計画を立てていた。
(ハイジャック事件の後のダンスパーティーの時、いざキスしようとしたら恥ずかしくなってほっぺたにしちゃった……今日こそはユースの唇を奪ってやる!)
ユース、エリー、その他護衛たちを乗せたブリデラント王室のプライベートジェット「クイーン・ヴィクトリア」が、今空港を飛び立った。
「いやー、僕飛行機に乗るの初めてだな~。」
「厳密には初めてじゃないでしょ?」
「そうか、記憶が消える前に乗ってるのか……ところでさ。」
「何?」
「……この飛行機、広すぎないか!?」
「そりゃあ、ジャンボジェットを改造したんだもの。」
「にしても広いよ。僕んちの二倍はあるよ。なにこれ軍用輸送機?」
「そんなわけないでしょ!」
宝石で飾り付けられたシャンデリア(電化)、金箔で覆われた壁、レッドカーペット……。
ファインガム宮殿を連想させるような内装に、ユースは正直ビビっていた。
「内装の豪華さならローマンド城を軽く上回るな……」
「ユース、紅茶飲む?」エリーが紅茶の入ったカップを持ってきた。
「ああ、ありがとう。」ユースはテーブルに置かれたカップを手に取った。
そして一口飲もうとしたと思いきや、急に手を止めた。
「……どうしたの、ユース?」
「エリー……この紅茶、何か混ぜてあるな?」
ギクッ。エリーの声が多少濁った。「そ……そんなわけないでしょ。あ、勝手に砂糖混ぜちゃった!ごめんね!」
「なーんだ、そういうことか。じゃ、今度こそ……」と言いかけたところでユースはまた手を止めた。
「……まずい、飛行機で酔った。ちょっとトイレに……」ユースは立ち上がると、片手で口を押えながら席を離れた。
……ユースがいなくなったところで、エリーは大きく息を吐いた。「ふぅ……危なかった……気づかれる要素あったかしら?まあいいわ。」エリーもカップを手に取って紅茶を一口飲んだ。
「ン~~~いい香り! やっぱりブリデラントの紅茶はさい……こ……う……?」突然、エリーの体が動かなくなり、エリーの手からカップが滑り落ちた。
カップは床に落ち、音を立てて割れ、中から紅茶が飛び出してきた。
「な……何これ!? なんで私が」「やっぱり筋弛緩剤の類だったか………」いつの間にかユースがそこにいた。
「ユース!」「僕の紅茶に何か混ざってるな~とは思ったが、すり替えておいて正解だった。いったい何のつもりかな?」
「そ………それは」「僕の唇を奪うためか?」ギクギクッ。図星をさされながらも、エリーは必死に反撃する。「なんでそうなるのよ!!!」
「今までが明らかにそうだったからだよ。この前ブリデラント王室主催のパーティーに呼ばれていった時なんて、まさか正面から凍らせにかかってくるなんて思わなかった!」
「何よ!炎の息を吹きかけてきたくせに!」
「あのねぇ、無理やりキスしようとするなんて、完全に強制わいせつだからね? いい加減にしないと刑事告発するよ?」
「やめて! それだけはやめて!!!」
「じゃあなんでこんなことするのか教えて。」
「そ……それは……」「エリー殿下!! 何か割れた音が聞こえましたが、大丈夫ですか?」
護衛が焦って入ってきた。
「大丈夫です。エリーが間違えて筋弛緩剤を飲んでしまっただけなので。」ユースはこぼれた紅茶を乾かしながら言った。
「いや間違えて筋弛緩剤なんて飲まないでしょ!!」護衛の突込みは意外にも的確だった。
「ううん、間違えて飲んだ。」エリーはほぼ使い物にならなくなった体で言った。
「なるほど、それは失礼しました。」「ちょっと護衛さん!?」ユースが呆れ驚く。やっぱり護衛はエリーにべったりだった。
「……ところでさ、ジェームズの研究室ってアメリゴのどこにあるの? ワトソン? それともニューアムステルダム?」
「アラベスクよ。」エリーが身動き取れないまま答えた。
「……へ? アラベスク?」
「そう、アラベスク州よ。」
「北極じゃねーか!!!」
ユースはアメリゴ合衆国のアラベスク州、フェアブラックス国際空港に着陸するまで、ジェームズ・グランハンの研究室が亜北極にあると信じなかった。
しかし、窓の外を見れば猛吹雪。
ローマンドなら地方にもよるがそろそろ桜が咲き始めるころだ。
「まさか本当にこんな極寒の地域にあったとは……」空港の窓ガラスに向かって絶望しながらユースは言った。
「ねぇ、ジェームズはなんでこんな辺境に住んでるの?」ユースは深く深く沈んだ声でエリーに聞いた。
「ジェームズは人嫌いなのよ。」エリーはなぜか変身していた。
「ユースも変身しなさい。身が持たないわよ。」「ああ、うん……」
ユースの心の中では、そびえたつ摩天楼を見て回ったり、きらびやかな夜景を見てうっとりするというアメリゴ観光のプランが、音を立てて崩れ落ちていった。
それでも何とかメンタルを立て直して空港の外に出てみるが、真横から殴られるような吹雪に零下三十度を下回る極寒の気温。自然戦士の装備でも耐えられるかどうか怪しい。
この風力じゃジェットパックを用いた空中機動は出来ない。
ユースは熱エネルギーを少しずつ発しながら歩くことで、何とか寒さをしのいでいた。
一方エリーは氷結戦士であるだけあって、寒さ慣れしているようだ。
「こんな前も見えないような吹雪で道分かるの!?」とユースはエリーに質問した。ただし、大声をあげてもかき消されてしまうので、無線で話した。
「大丈夫! 空港から研究室までは一本道だから!」
「このあたりに町はないの!?」」
「ないわよ! 研究室につくまで頑張りなさい!」
「そんな~~!」などと会話していると、突然道をふさぐ集団が現れた。
「そこの自然戦士止まれ!!」
ユースは結構イライラしていたので、「誰だよ、こんな時に!!」と叫んだ。
「持ち物を全部置いて行け!!」その紫色の怪物はユースたちに向かってナイフを構えていた。
「なんだ、ただの子ギートじゃないか。」「ただの子ギートではないわね。寒い地方に適応して毛皮が厚くなったり、足が大きくなったりしてるわ。」
「子ギートって、言葉を話すくらいの知能あったっけ?」
「おいてめーら!何無視してんだこら!!」五体ほどいた子ギートたちは一斉に襲い掛かってきた!
しかし、ユースが目もくれずに放った火柱と、エリーがやはり目もくれずに放った銃弾によって、あっけなく倒されてしまった。
そして先を進みながら、こんな風に雑談するのだった。
「まあ、新聞やニュースを理解する程度の知識はなかったようね。」
「そうだね、ニュースを見ていたら、こんな無謀な戦いは仕掛けてこなかっただろうにね。」
さらに十分ほど歩くユースとエリー。
すると、吹雪の向こう側に明かりが見えてきた。
「あ! あれか!?」
「そうよ。あれがアメリゴ合衆国国立科学研究所、自然想像エネルギー研究室よ!」
近づくと、ぼんやりしていた輪郭もはっきりと見えてくるようになった。
「……ただのビニールハウスじゃないか?」
「ダミーに決まってるじゃない。」
エリーはビニールハウスの中に入っていった。
「ほら、ユース、来なさい。」「う、うん。」ユースもついて行って入った。
入ってすぐに、見た目とはかけ離れた特徴に気づく。「あ!暖かい!」
「そうでしょ。この建物もビニールハウスじゃなくて、特殊なプラスチックを用いているの。」
エリーは中央にある二メートル四方ほどのシェルターのハッチの取っ手をつかんだ。
すると、ハッチがなんだか電光掲示板のように光りだした。
「……ピピ……生体認証、エリー・スチュアーテラートの情報を確認。ロックを解除します。」
ハッチが重々しく開いていく。
「おお……プシューって言ってる……」ユースのテンションは少し上がった。
「中に入るわよ。」エリーは中にある階段を下って行った。
ユースもそれに続いた。
「あれ? 勝手に入っちゃっていいのかな?」「いいのいいの。」薄暗い通路を、二人は奥へ奥へと進んでいく。
通路の一番奥には鉄製の扉があった。
エリーはタッチパネルに手のひらを置いた。
ピピっという電子音とともに、扉の鍵が開く音がした。
「ジェームズ~? 遊びに来たわよー!」「お邪魔しまーす……」対照的な態度で部屋に入ったユースとエリー。
研究室の椅子の一つに、彼は座っていた。
そして立ち上がると、試験管を片手に持ったまま近づいてきた。
「おお、エリー! 久しぶり! ……そしてこっちの太陽戦士が……?」
「ユース・A・ルーヴェです。この度は手紙をどうも。」ユースは軍隊式の挙手の敬礼をしてあいさつした。
「君がユース君か! 遠路はるばるご苦労様!」そういうと、彼は右手を差し出してきた。
握手に答えながら、ユースは、その右手、いや、彼の全身に違和感を感じていた。
「……この季節なのに、なんで真っ黒に焼けてるの?」
彼の母親はアフロ系黒人だった。
それが、ジェームズ・M・グランハンが、「黒雷の科学者」と呼ばれる所以だった。
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