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第一章 ユースとエリー
第七話 ショッピングデート①
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ユースが皇帝から受けた最初の任務は、なんと自分の育ての親を討伐するというものだった。
ターゲットは聖ミネルヴァ孤児院院長、サンドロ・ポッティチェリ。
育てた子供を植民地に奴隷として売り払うという、残虐な男だった。
さらには裏でギートとつながっているという。
そして、任命式にて皇帝を狙撃して暗殺しようとした疑惑もかけられていた。
だが、仮にもサンドロはユースの育て親。
玉座の間を出たユースは、ひどく葛藤していた。
(あのいつも笑顔で子供たちに接していた院長が、まさかそんなことするか?)
考えながら歩いていたら、前から歩いてくる人とぶつかった。
「げ……!」
「『げ……!』て何よ!」エリー・スチュアーテラートだった。
その傍らには、城の案内役ロキ・F・ワイルドが。
「まだいたんですね……」
「あら、敬語を使えるようになったなんて、すごいじゃない。褒めてあげるわ。」
(やっぱりひどい目に遭えば良いのに。)
「……どうしたのよ、浮かない顔して?」
「あ、わかっちゃいますか?」
「私でよかったら相談に乗るわよ?」
(優しいところもあるんだな……)ユースはエリーに、玉座の間で聞いたことを話した。
「……なるほど、そりゃ確かに試練ね。」
「どうすればよいかわかりません……」
院長は帰国後、行く当てもなくさまよっていた時に、住む場所も教育も愛情も与えてくれた。
やはり、ユースには信じ難い話なのか。
「何くよくよしてんのよ、それでもあんた自然戦士なの!?」急にエリーが声を荒げたから、ユースは心臓が凍るかと思った。
「ローマンド軍、一応優秀なんでしょ!? そこの諜報部が見つけたことなんでしょ!? 少しは信じなさい!」
「じゃあエリー殿下には、自分を育ててくれた親を殺せますか!?」ユースも声を荒げた。
「何言ってんのよ、あんた皇帝からなんて命令されたの?」
「え……?」ユースは命令書を取り出して読み上げてみた。
「『ミラニアにいる聖ミネルヴァ孤児院院長サンドロ・ポッティチェリの討伐を命ずる。』ですよ?」
「『討伐』なんでしょ?だったらわざわざ殺さなくたって、生きたまま捕虜にして連れて帰ってこればいいじゃない。」
「あ……!」なるほど、『抹殺せよ』とかなら殺さねばならないが、生死問わずならできるかもしれない。
「でもやっぱり……真相をこの目で確かめてからにしようかと思います。」
「ふん、まあいいでしょう。ロキ!持ち場にもどって良いわよ。」
「は!」存在を忘れられていたかに思われていたロキだったが、ちゃんと覚えられていた。
「ユースだったかしら。ついてきなさい、モールで要るもの買うわよ。」
「は、はい!」エリーが足早に歩き去り、ユースはそれを追った。
「あ、あと……」エリーは突然足を止めた。
「……エリーでいいわよ。敬語も使わなくていい。」
「え……!?」
「同い年だし、任務上時間の無駄だからよ。」
そういってまた歩き出すのだった。
ローマンド最大のショッピングモール「オッティモモール」。二ポネシア語で「素晴らしいモール」という意味である。
ユースとエリーは、任務に臨むために買い物に来ていた。はたから見れば完全にショッピングデートだが、勿論二人にそのつもりは無い。
「ユースは、ここに来るのは初めて?」
「そうだね。亡命前はこんなモールなかったと思うし、帰国後はそもそもローマの街そのものがトラウマだったから。」
「なら教えてあげる。このオッティモモールにはね、自然戦士しか立ち入れない特別フロアがあるのよ。」
エリーはユースをエレベーターに案内した。
エレベーターガールがいた。「何階に行かれますか?」
「四階へ。」とエリーは答えた。
そしてエリーの望んだとおり四階についたのだが……
「……一般人たくさんいるけど。」
「おかしいわね…ちゃんと四階って言ったのに。」
掲示板を見てみると、確かに四階だった。
「……特別フロアは五階って書いてあるけど。」
「?……あっ。」
ローマンドでは、地上に面している階を「一階」と呼ぶ。
しかし、ブリデラントでは地上に面している階を「0階」と呼ぶのだ。
ローマンドでの四階はブリデラントでの三階のため、このような語弊が生まれたのだった。
……そして、今度こそローマンドでいう五階に着いた。
エレベーターの扉が開くと、そこにいた人は少なかった。
まあ自然戦士の数が多くはないので当然だが。
「さあ、まずICカードを買うわよ。」
「ICカード?」「カードってのは変身用以外にも、様々な使い道があるのよ。コマンドレシーバーにセットする以外にも、武器にセットするものもあるわ。……ところで、金はあるの?」
「ああ、現金で五十万エウロー持ってきた。」
「はあ!? 五十万エウロー!!?」これにはさすがのエリーも引いた。「そんな大金どこで手に入れたのよ!」
「ああ、任命式の時に、皇帝陛下の命を救ったから、報奨金として百万もらったんだよ。」
「一般的な自然戦士の基本給が、寮費除いて月四十万ぐらいよ……」
さて、そんなことを話している間に、ICカード店に到着。
「ところでエリー、ワイルド大隊長から何か吹き込まれた?」
「な、何も言われてないわよ!」
第八話 ショッピングデート② に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の四
「ローマンド帝国」
エウロピアの中央南部、地中海に面するローマンド半島にある国。
その歴史をさかのぼっていくと、かなり政治体制が混乱していることがわかる。
王政だったのが百年以上前に共和制となり、ユリウス・カエサルが台頭して独裁政治になり、内戦がおこって現在の帝政がある。
特産物はオリーブオイル、チーズなど。
ターゲットは聖ミネルヴァ孤児院院長、サンドロ・ポッティチェリ。
育てた子供を植民地に奴隷として売り払うという、残虐な男だった。
さらには裏でギートとつながっているという。
そして、任命式にて皇帝を狙撃して暗殺しようとした疑惑もかけられていた。
だが、仮にもサンドロはユースの育て親。
玉座の間を出たユースは、ひどく葛藤していた。
(あのいつも笑顔で子供たちに接していた院長が、まさかそんなことするか?)
考えながら歩いていたら、前から歩いてくる人とぶつかった。
「げ……!」
「『げ……!』て何よ!」エリー・スチュアーテラートだった。
その傍らには、城の案内役ロキ・F・ワイルドが。
「まだいたんですね……」
「あら、敬語を使えるようになったなんて、すごいじゃない。褒めてあげるわ。」
(やっぱりひどい目に遭えば良いのに。)
「……どうしたのよ、浮かない顔して?」
「あ、わかっちゃいますか?」
「私でよかったら相談に乗るわよ?」
(優しいところもあるんだな……)ユースはエリーに、玉座の間で聞いたことを話した。
「……なるほど、そりゃ確かに試練ね。」
「どうすればよいかわかりません……」
院長は帰国後、行く当てもなくさまよっていた時に、住む場所も教育も愛情も与えてくれた。
やはり、ユースには信じ難い話なのか。
「何くよくよしてんのよ、それでもあんた自然戦士なの!?」急にエリーが声を荒げたから、ユースは心臓が凍るかと思った。
「ローマンド軍、一応優秀なんでしょ!? そこの諜報部が見つけたことなんでしょ!? 少しは信じなさい!」
「じゃあエリー殿下には、自分を育ててくれた親を殺せますか!?」ユースも声を荒げた。
「何言ってんのよ、あんた皇帝からなんて命令されたの?」
「え……?」ユースは命令書を取り出して読み上げてみた。
「『ミラニアにいる聖ミネルヴァ孤児院院長サンドロ・ポッティチェリの討伐を命ずる。』ですよ?」
「『討伐』なんでしょ?だったらわざわざ殺さなくたって、生きたまま捕虜にして連れて帰ってこればいいじゃない。」
「あ……!」なるほど、『抹殺せよ』とかなら殺さねばならないが、生死問わずならできるかもしれない。
「でもやっぱり……真相をこの目で確かめてからにしようかと思います。」
「ふん、まあいいでしょう。ロキ!持ち場にもどって良いわよ。」
「は!」存在を忘れられていたかに思われていたロキだったが、ちゃんと覚えられていた。
「ユースだったかしら。ついてきなさい、モールで要るもの買うわよ。」
「は、はい!」エリーが足早に歩き去り、ユースはそれを追った。
「あ、あと……」エリーは突然足を止めた。
「……エリーでいいわよ。敬語も使わなくていい。」
「え……!?」
「同い年だし、任務上時間の無駄だからよ。」
そういってまた歩き出すのだった。
ローマンド最大のショッピングモール「オッティモモール」。二ポネシア語で「素晴らしいモール」という意味である。
ユースとエリーは、任務に臨むために買い物に来ていた。はたから見れば完全にショッピングデートだが、勿論二人にそのつもりは無い。
「ユースは、ここに来るのは初めて?」
「そうだね。亡命前はこんなモールなかったと思うし、帰国後はそもそもローマの街そのものがトラウマだったから。」
「なら教えてあげる。このオッティモモールにはね、自然戦士しか立ち入れない特別フロアがあるのよ。」
エリーはユースをエレベーターに案内した。
エレベーターガールがいた。「何階に行かれますか?」
「四階へ。」とエリーは答えた。
そしてエリーの望んだとおり四階についたのだが……
「……一般人たくさんいるけど。」
「おかしいわね…ちゃんと四階って言ったのに。」
掲示板を見てみると、確かに四階だった。
「……特別フロアは五階って書いてあるけど。」
「?……あっ。」
ローマンドでは、地上に面している階を「一階」と呼ぶ。
しかし、ブリデラントでは地上に面している階を「0階」と呼ぶのだ。
ローマンドでの四階はブリデラントでの三階のため、このような語弊が生まれたのだった。
……そして、今度こそローマンドでいう五階に着いた。
エレベーターの扉が開くと、そこにいた人は少なかった。
まあ自然戦士の数が多くはないので当然だが。
「さあ、まずICカードを買うわよ。」
「ICカード?」「カードってのは変身用以外にも、様々な使い道があるのよ。コマンドレシーバーにセットする以外にも、武器にセットするものもあるわ。……ところで、金はあるの?」
「ああ、現金で五十万エウロー持ってきた。」
「はあ!? 五十万エウロー!!?」これにはさすがのエリーも引いた。「そんな大金どこで手に入れたのよ!」
「ああ、任命式の時に、皇帝陛下の命を救ったから、報奨金として百万もらったんだよ。」
「一般的な自然戦士の基本給が、寮費除いて月四十万ぐらいよ……」
さて、そんなことを話している間に、ICカード店に到着。
「ところでエリー、ワイルド大隊長から何か吹き込まれた?」
「な、何も言われてないわよ!」
第八話 ショッピングデート② に続く
あとがき:「自然戦士」専門用語其の四
「ローマンド帝国」
エウロピアの中央南部、地中海に面するローマンド半島にある国。
その歴史をさかのぼっていくと、かなり政治体制が混乱していることがわかる。
王政だったのが百年以上前に共和制となり、ユリウス・カエサルが台頭して独裁政治になり、内戦がおこって現在の帝政がある。
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