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共存のルールに抵触する者②
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「…………え」
突如、目の前でシェリアが影に呑み込まれたことに、少年は目を丸くした。
だが、驚いたのは少年だけのようで、茶鼠色の妖精は気にも留めない様子だ。
シェリアの道案内役のはずの瑠璃色の少女も、一瞬辺りを見渡したあと、静観する反応を見せた。
なにが起きたのか理解が追い付かない少年は、シェリアが呑み込まれていった床を触ってみたものの、そこに穴などはない。
「──そのうち、かえってくる」
「ただ、それが、のぞむ姿かは、わからない」
「しょうきか、そうでないかは、本人しだい」
困り果ててい少年に、小さな集団は言葉を投げた。少年は、この茶鼠色の同胞を知らない。
年齢不詳で長寿の妖精といっても、少年は見た目通りの年齢しか生きていないのだ。
シェリアから受け取ったばかりの雪玉のようなクッキーをかじりながら、茶鼠色の髪を持つ妖精のうちのひとりが呟くように言った。
「でも、ぶじにかえってくるといいな」
「あの塔のおやつも、おいしかったもんね」
茶鼠色の髪を持つひとりの少女が言うと、隣の少女もまた同意するように首肯し、小さな集団全員が賛同した。
シェリアを影に呑み込ませた張本人でありながら、他人事のような様子でありつつ、シェリアの無事を祈る素振りを見せる。
“ひとならざるもの”である妖精の中のでも、とりわけ異質な存在だ。
シープリィヒルの妖精は、よほどの悪意やでも向けられない限り、人間をこわすような真似はしない。
主な対象は、どこぞの商人や物珍しいものが好きな貴族など。
だが、影に属する妖精は、誰であろうと対象だ。
ただ、そこにいるだけというだけで、どんな人間であったとしても。
突如、目の前でシェリアが影に呑み込まれたことに、少年は目を丸くした。
だが、驚いたのは少年だけのようで、茶鼠色の妖精は気にも留めない様子だ。
シェリアの道案内役のはずの瑠璃色の少女も、一瞬辺りを見渡したあと、静観する反応を見せた。
なにが起きたのか理解が追い付かない少年は、シェリアが呑み込まれていった床を触ってみたものの、そこに穴などはない。
「──そのうち、かえってくる」
「ただ、それが、のぞむ姿かは、わからない」
「しょうきか、そうでないかは、本人しだい」
困り果ててい少年に、小さな集団は言葉を投げた。少年は、この茶鼠色の同胞を知らない。
年齢不詳で長寿の妖精といっても、少年は見た目通りの年齢しか生きていないのだ。
シェリアから受け取ったばかりの雪玉のようなクッキーをかじりながら、茶鼠色の髪を持つ妖精のうちのひとりが呟くように言った。
「でも、ぶじにかえってくるといいな」
「あの塔のおやつも、おいしかったもんね」
茶鼠色の髪を持つひとりの少女が言うと、隣の少女もまた同意するように首肯し、小さな集団全員が賛同した。
シェリアを影に呑み込ませた張本人でありながら、他人事のような様子でありつつ、シェリアの無事を祈る素振りを見せる。
“ひとならざるもの”である妖精の中のでも、とりわけ異質な存在だ。
シープリィヒルの妖精は、よほどの悪意やでも向けられない限り、人間をこわすような真似はしない。
主な対象は、どこぞの商人や物珍しいものが好きな貴族など。
だが、影に属する妖精は、誰であろうと対象だ。
ただ、そこにいるだけというだけで、どんな人間であったとしても。
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