いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

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いつかの記憶とちいさな影①

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 年に一度の夏至祭に合わせた、多くの妖精かれらが集まる宴。
 とても楽しげな雰囲気に導かれるように、妖精の国へと繋がる扉の隙間から、五人ほどの小さな集団がやってきた。
 茶鼠色の髪を持つ妖精かれら。普段ならば、このような集まりには現れない存在だ。

 珍しくやってきたのは、美味しそうな匂いでもしたのか。
 もしかしたら、風の噂でも耳に入ったのかもしれない。
 
 この小さな集団の目的は、おやつである。
 何を隠そう、妖精かれらは人間のつくったものが好物だ。
 しかしながら、全ての妖精かれらが入手手段を持ち合わせているわけではない。
 
 人間の家には大抵、赤茶色の髪を持つ妖精かれらが棲んでいて、こっそり雑用などを手伝いながら、供物を頂いている。
 道には瑠璃色の髪を持つ妖精かれらが、樹木には翠色の髪を持つ妖精かれらが。

 人間と遭遇出来そうな場所には、その場に属する同胞がいるのだが、残念なことに、この小さな集団とは相性が悪いのだ。 
 
 この地に棲む多くの妖精かれらは、人間に対して比較的好意的である。
 多少、人間から見れば大雑把な考え方をするが、それは在り方の違いによるもの。

 そんな人間に好意的なシープリィヒルの妖精かれらから見て、茶鼠色の髪を持つ妖精かれらの持つ性質は、理解しがたいものがあるらしい。

 本人たちもわかっているので、普段は扉の向こうにある妖精の国で過ごしていたのだが──

「──風の子がいってたおやつって、やっぱり会場かなあ?」

 羽根をひらひらとさせた少女が、嬉しそうに疑問を口にした。どうやら、この小さな集団は噂を聞いて訪れたようだ。

 風に属する妖精かれらは、その名の通り特性を持ち合わせている。
 気象の風のように、風妖精かれらが動けば、小さな旋風のようなものが巻き起こり、辺りは散らかってしまう。
 屋敷に棲む小さな生き物たちにとっては、ある種の天敵のようなものだ。

 同時に、移動速度も妖精かれらの中で最も早いので、なにか伝達を頼みたい時には、風に属する者たちに頼むのが良いだろう。

 因みに、仮に頼まなかったとしても拾った情報を伝えてくれるので、なにか隠しごとをしたい場合には、周囲の確認を怠ってはならない。あっという間に知れ渡ってしまうからだ。
    
「……うん。会場にあるみたい」
「……そっか。じゃあ、ひっそり行こう」

 目を閉じて、お目当てのおやつの気配を探っていた別の少女が答えると、小さな集団の空気は重くなった。

 丘の内部にある廊下を照らす月光灯の光が当たりきらない影の部分が延び始め、小さな集団は、その影の中へと入っていく。

 影から影へと移動が可能な妖精かれらは、影に属する存在である。
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