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願いごとと対価②
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月に属する妖精は、嵐のように去っていった。
「行っちゃった……」
「かれらは月に属するから、月明かりの下へ遊びに行ったんじゃないかな。呼んだら、戻ってくると思うよ」
少年の声に視線を向けたシェリアは、そういえば、と思い出す。
「さっき、月に属する“かれら”にお願いしたって言ってたけれど……」
「そう。さっきの妖精たちにお願いしたんだ」
「じゃあ、あなたもお菓子をいっぱいつくったの?」
「ううん。僕は……君のつくったアップルパイを」
少年は、気まずそうに目を反らした。
「わたしの、アップルパイ」
「……うん。妖精がつくったものを妖精が食べるのは、あまり好ましくないんだ。互いの“おまじない”が反発することがあるから」
「そうなんだ」
「……ごめんね」
自分がつくったアップルパイが通貨のように使われていることに、シェリアは少しだけ複雑な気持ちになった。
けれど、妖精には妖精のルールがあるのだろうし、少年を咎めるつもりもなかった。
「別に、気にしてないし、アップルパイなんて幾らでもつくるわ」
シェリアがそう言うと、何故か少年は目を丸くしている。
「……僕は、弟じゃないのに?」
「ええ。遊びにきてくれたら、つくるわ」
少年は、弟のふりをしていないとつくってもらえないと思っていたらしい。
驚いたような、困ったような表情をしている。
「だから、その…………扉の向こうにはまだ、帰らないで欲しいの」
シェリアは、少年の緑色の衣服─妖精の多くが着用している─を指先でぎゅっと摘まんで俯いた。
今日、この森にきた目的をやっと伝えられたけれど、顔を上げることが出来ない。
きっと、シェリアの顔は今、赤くなっていることだろう。
「……今回は、帰らないよ」
「そう……なの?」
驚いたシェリアがぱっと顔を上げると、少年の瞳と視線が重なる。
「だって、帰ったら君に逢えなくなるから」
そう言った月明かりに照らされている少年の顔は、真っ赤で、シェリアは更に顔が赤くなった気がした。
「行っちゃった……」
「かれらは月に属するから、月明かりの下へ遊びに行ったんじゃないかな。呼んだら、戻ってくると思うよ」
少年の声に視線を向けたシェリアは、そういえば、と思い出す。
「さっき、月に属する“かれら”にお願いしたって言ってたけれど……」
「そう。さっきの妖精たちにお願いしたんだ」
「じゃあ、あなたもお菓子をいっぱいつくったの?」
「ううん。僕は……君のつくったアップルパイを」
少年は、気まずそうに目を反らした。
「わたしの、アップルパイ」
「……うん。妖精がつくったものを妖精が食べるのは、あまり好ましくないんだ。互いの“おまじない”が反発することがあるから」
「そうなんだ」
「……ごめんね」
自分がつくったアップルパイが通貨のように使われていることに、シェリアは少しだけ複雑な気持ちになった。
けれど、妖精には妖精のルールがあるのだろうし、少年を咎めるつもりもなかった。
「別に、気にしてないし、アップルパイなんて幾らでもつくるわ」
シェリアがそう言うと、何故か少年は目を丸くしている。
「……僕は、弟じゃないのに?」
「ええ。遊びにきてくれたら、つくるわ」
少年は、弟のふりをしていないとつくってもらえないと思っていたらしい。
驚いたような、困ったような表情をしている。
「だから、その…………扉の向こうにはまだ、帰らないで欲しいの」
シェリアは、少年の緑色の衣服─妖精の多くが着用している─を指先でぎゅっと摘まんで俯いた。
今日、この森にきた目的をやっと伝えられたけれど、顔を上げることが出来ない。
きっと、シェリアの顔は今、赤くなっていることだろう。
「……今回は、帰らないよ」
「そう……なの?」
驚いたシェリアがぱっと顔を上げると、少年の瞳と視線が重なる。
「だって、帰ったら君に逢えなくなるから」
そう言った月明かりに照らされている少年の顔は、真っ赤で、シェリアは更に顔が赤くなった気がした。
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