いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

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宴の参加は土産持参で②

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 先ほどまでは手のひらほどの大きさだったはずの少年が、何故か人間ほどの大きさになっている。

 衝撃のあまり、目をぱちぱちとさせたシェリア。
 見上げるような高さに、少年の目線がある。

「月に属する妖精が楽しそうに飛びまわっていたから、お願いしてみたんだ」

 衝撃のあまり言葉を失っているシェリアに、少年は嬉しそうに笑った。
 少年の翠色の髪は、月明かりに照らされてとても美しく光る。

 その光景に、忘れかけたなにかを思い出すように、シェリアの心臓がどくんと反応する。

 シェリアの雨避けコートの裾をなにかがつつき、振り返ったシェリアの視界には、人間の手のひらほどの大きさの生き物──妖精かれらが映る。

 淡い灯りのような美しい髪が印象的な三人だ。

『このうわぎの中から、美味しそうな匂いがする!』
『うたげの参加料をちょうしゅうする!』
『残りはわれわれのおやつだ!』

 こんなところに、妖精かれらが喜ぶようなお菓子など入れていただろうか。
 首を傾げたシェリアが、裏返しに羽織っている雨避けのポケットの中を探ると、中からドロップクッキーの包みが出てきた。

「…………忘れてた」

 アンディが帰ってきたあの日、シェリアが自分の分を食べずにいたのだ。菫の砂糖漬けと一緒に。

「おやつだ!おやつ!」
「まずはテーブルに並べてから」
「ひとり、いちまい」

 シェリアの手の中のクッキーの包みが、宙に浮かんで妖精かれらの元まで飛んでいった。

 妖精かれらは、ラッピングのリボンをひっぱり器用にほどいていくと、何枚かをテーブルの上に並べ、ひとり一枚ずつの分配する。

 鮮やかで手際のいい流れだ。
 包みは、丁寧に折り畳まれて、シェリアの手元までふわふわと戻ってきた。

 シェリアの手の中の包みを眺めながら、少年は、むむ、と不満げだったが、

「……まあ、月妖精なら仕方ないか……」

 と、自らを納得させるように呟いた。

「……月って、さっきも言った……」

「そう、われわれは願いをつかさどるのだ!」
「たいかときぶんで、願いはばっちり!」
「うたげ中につき、今ならおとく!たぶん!」
 
 対価と気分でお得に願いが叶うらしい。
 三人は、無茶苦茶な宣伝文句を言って、楽しげに笑った。
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