いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

文字の大きさ
上 下
46 / 70

きらきら光る星明かりとパーティー会場②

しおりを挟む
 少年がそう言うや否や、人間の手のひらほどの大きさの小さな生き物たちが、シェリアの目の前に飛び出してきた。 

 銀白色の髪が、星の光に照らされて煌々と美しい。
 座り込んだ状態のシェリアの前で並んで仁王立ちするこの三人が、“見回り”と呼ばれる存在なのだろうか。

「侵入者はっけーん」
「はいじょする?食べる?」
「それとも連れてかえるー?」

 聞こえてきた物騒な言葉に、シェリアは思わずびくりとした。
 妖精は、人間を食べるものなのだろうか。

 シェリアが今まで読んできた書物には、そのような記述はなかったが、そもそも食べられたなら証言することは難しいだろう。

「……彼女は、この森の客人だよ。道に属する妖精に連れられて、僕に逢いにきてくれたんだ」

 そう言って、少年はシェリアの手首にある瑠璃色の輪にちらりと視線を向けると、シェリアと銀白色の髪を持つ生き物たちの間に立った。

 そして、なにかの合図のように少年がシェリアの手首に視線を向ける。
 そこにあるのは、道の妖精かれらである瑠璃色の髪を持つ少女がくれたものだ。

 ───『……離れていても、それに触れると、分かるようになってるの』

 手首にある瑠璃色の輪に視線を落としたシェリアの脳裏に、瑠璃色の髪の少女の言葉が蘇る。

 ───『なにかこまったり、あぶなくなったら、それで呼んでね』

 そう言ってくれたけれど、果たして本当に呼んでいいものだろうか。
 巻き込んで迷惑かけてしまうのではないか。

「……きみは前にも、にんげんといた気がする」
「それは信用むずかしい」
「あやしいにんげんに味方はんたい」

 シェリアが逡巡している間に、少年に対して疑いの目が向けられる。
 事態はあまりよろしくないようだ。

「もうすぐ夏至祭。うたげのじかん」
「じょうおうさまを害するものははいじょ」
「…………“おまじない”の匂い?」

 銀白色の髪を持つ“かれら”のひとりが“おまじない”について言及すると、僅かな沈黙が訪れた。
 静寂の中、言及した本人はシェリアに近寄り、嗅ぐような動作をしたあと、ぽつりと呟いた。

「…………しかも、いっぱい。…………あれ?それ……妖精の髪?」
 
 シェリアの手首にある輪に気付いた途端、眉根を寄せて考えこむように黙ってしまったが、その発言は、どうやら銀白色の髪を持つあとのふたりにとっては、疑いを更に深めてしまったようだ。
 
「…………“おまじない”に妖精の髪を持っているとは、もしや、みつりょうしゃ?」
「……どこかのしょうにんから、買ったかのうせい」

 しかし、シェリアは“かれら”を密猟するつもりも、危害を加えるつもりもない。

「…………私は、あなたたちの宴を邪魔をするつもりも、あなたたちの女王様に危害を加えるつもりもないわ。この森には、逢いたいひとがいて来たの。……この髪は、貰ったものなの」

 シェリアの説明に当然のごとく警戒は解いてもらえないけれど、これは仕方ないことだろう。
 怪しい人間に「自分は怪しい者ではございません」と言われたところで、怪しいことに変わりはないのだ。

 銀白の色髪を持つふたりの目付きが鋭いものに変わる。
 ふたりにとって怪しいシェリアが説明したところで、なんの意味もなかった。

 戸惑うシェリアが周囲に視線を巡らすと、いつの間にか、“おまじない”に言及した銀白色の髪のひとりいなくなっていた。

 少年とシェリアの視線が合い、こくりと頷かれる。

 シェリアはきゅっと瞼を閉じると、手首にある瑠璃色の輪に触れた。巻き込んだお詫びに、ピクニックに付き合うと心の中で謝りつつ。

 すると、柔らかな光に包まれた次の瞬間、道妖精の少女が現れた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...