いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

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メレンゲクッキーと“かれら”との邂逅③

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 シェリアの視線に気付いた少女は、ぴゅっと近くの化粧台の裏に隠れると、こちらを窺うように、ちらりと顔の半分だけを出した。

 どうやら、完全に警戒されてしまったらしい。

 念願の“かれら”との遭遇なのだが、大変残念なことに、初めての顔合わせは失敗してしまったようで、シェリアは、心の中でこっそりと落ち込んだ。

 そんなシェリアの様子を窺いながらも、小さな赤茶色の髪の少女は、ちらちらとバスケットを見ている。
 
 少女は警戒しつつも、逃げる気はないようだ。

「…………良かったら、食べる?」

 思い切って訊ねてみると、少女はぶんぶんと首を縦に振ったので、シェリアはほっと息をついた。

 少女の視線を感じながら、バスケットの蓋を開けば、籠いっぱいのメレンゲクッキーが顔を出す。

 目の前に広がる光景に、瞳をきらきらと輝きかせた少女は、化粧台の裏からひょこっと姿を現すと、羽根はひらひらと揺らしながら、バスケットの前までやってきた。

 そのまま、覗き込むような姿勢で釘付けになっている少女の為に、シェリアは、開いたハンカチに赤と白のメレンゲクッキーを一枚ずつのせる。

 それをゆっくりと少女の前に置くと、目の前の贈り物に、一層瞳をきらきらと輝かせながら、少女は恐る恐る手を伸ばした。

 もしかしたら、少女の小さな身体に、メレンゲクッキー二枚を持つのは大変かもしれない。
 少女を見守っていたシェリアはふと思ったものの、どうやら杞憂だったらしい。

 ぎゅっと抱きついてクッキーの感触を確かめていた少女が身体を起こし手を掲げると、小さな旋風のようなものが巻き起こり、二枚のクッキーがざっくりと等分された。

 驚きのあまり息を呑んだシェリアの前で、等分されたクッキーの大半が消失し、白と赤の小さなかけらが一枚ずつ少女の手に残った。

 ちょうど一口くらい小さなかけらを嬉しそうに頬張り、羽根をひらひらと揺らしている少女の姿に、シェリアの笑みがこぼれる。

 そのまま、穏やかな時間が流れていたのだが──ふと、少女の後ろに、少女と同じ小さな生き物たちが複数見える。

 驚いたシェリアが視線を動かして確認してみれば、それは、ずらっと列をなしていた。

 少女と同じ大きさの生き物たちの行列。

 “かれら”は楽しいことがあれば自然と集まってくる性質を持ち合わせているものらしい。
 シェリアも、書物で読んだことはあって知っている。

 “かれら”の目的は何だろうか。
 首を傾げたシェリアに、列の中の誰かから声が上がった。

「りんじの、おやつ会があると聞きました」 
「もらい逃したひとたちの為の、きゅーさい企画だとか」
「ふだん、逃しがちのひとをあつめてみました!」

 一番最後に話した赤茶色の髪をした少年が、両手を腰に当てて、誇らしげに笑ってみせた。

 ここにずらっと並んでる小さな生き物たちは、厨房では受け取れなかった者ばかりなのだという。

 果たして、この屋敷にはどれほどの“かれら”がいるのだろう。シェリアの謎は深まるばかりだった。
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