いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

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メレンゲクッキーと“かれら”との邂逅①

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 ざあざあと雨が降る音がする。

 シェリアは、防水布でつくられたコートのボタンを留め終わると、メレンゲクッキーが入ったバスケットを右手で持つ。

 空いてる左手はコートのポケットの中に突っ込み、そこにあるもの───四ツ葉のクローバーを確認した。

 ───『もしも逢いたい誰かがいるなら、急いだ方がいいと思う』

 アンディの言葉がふと脳裏を過り、シェリアはそっと瞼を閉じた。思い浮かぶのは、アンディのふりをしていたあの子のことだった。

 シェリアは、あの子の本当の姿を知らない。

 “かれら”は人間に姿を変えるのがとても得意で、シェリアが知っているあの子は、アンディの姿をしていたから。

 アンディいわく、もうすぐ丘の扉が開くらしい。

 もしも、扉の向こうにある“かれら”の国に行ってしまえば、二度と逢うことはないだろう。だから急がなくてはならない。 

 それに、扉が開いたらこわいひとに連れていかれてしまうかもしれない。

 ───こわい、ひと?

 頭に浮かんだ言葉に、シェリアは首を傾げた。何故、そう思ったのか分からなかった。
 

 窓の外に視線をやれば、空はどんよりと曇っていた。

 クッキーをつくるのに半日もかかってしまったので、もうすぐ、おやつの時間にさしかかるところだ。

 今から出掛けるとなると、帰りは少し遅くなってしまうかもしれない。───無事に帰ってこられれば、の話だが。

 人間が“かれら”の姿を目にする時、それは“かれら”が姿を現す意思のある時なのだが、それ以外にも方法はある。

 妖精かれらの塗り薬を瞼に塗ると、半永久的に認識出来るようになるという。塗り薬の原料の一部は四ツ葉のクローバーで、これは人間にも入手可能だ。

 シェリアは、ずっとそのことを忘れていた。

 幼い頃に、四ツ葉のクローバーを片手に“かれら”探しをしていたはずなのに。そして、帰りが遅くなって、クラリスにスピナッチまみれの料理を振る舞われたのに。

 肝心の記憶が抜け落ちていることに気付かずにいた。そのことが、ひどくもどかしかった。
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