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アンディのささやかな計画⑤
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純白の羽根をひらひらとなびかせ、腰までのびた赤茶色の髪を持つ小さな少女は、指笛を吹くや否や勢いよく叫んだ。
「はーい、ひとり一個までー! 破ったら、ひゃくねんおやつ抜きです!」
少女は、小さな身体に合わせた大きさの箒を片手に仁王立ちし睨みをきかせながらも、空いた方の手でさりげなくクッキーを浮かせて手元に引き寄せるのを忘れない。
「ひゃくねんって、おやつ何回ぶん?」
「なんか、いっぱいいない?」
「あのクッキー、他のよりちょっとだけおおきい……」
アンディ以外誰もいなかった、静寂だったはずの厨房に、賑やかな声が響いている。
少女と同じように赤茶色の髪をした小さな生き物たちは、楽しそうに各々の取り分を確保していく。
大半が赤茶色の髪をしているが、よくよく見ると、違う髪色を持つ者もいるようだ。
──これは、“かれら”の集会だろうか。
アンディは、この屋敷内で“かれら”の集まりを見たことはなかった。初めての光景に、アンディの胸は高鳴る。
「──噂は、ほんとうだった……! みんなに知らせなきゃ……!」
きらきらとした日差しのような明るい髪を持つ少女は、クッキーを両手で大切そうに抱え、小さな羽根で窓の外へと飛んでいった。
───噂?
アンディが首を傾げていると、今度は勝ち誇ったような声が聞こえる。そちらを向いてみれば、
「──雪玉の恨み、晴らしたり……!」
赤茶色の髪をふたつ編みにした少女が、橙色の何かが入っている瓶の上に座り、嬉しそうに笑っていた。先ほどはずされていた蓋は、締められているようだ。
少女は、そのまま暫く足をぷらぷらしていたのだが──はっと何かに気付いたような表情をしたあと、しょんぼりと肩を落とした。
「───おやつ、もうなくなってる……」
その言葉に視線をやれば、焼きたてのクッキーが百個ほどあったはずの場所は、既に空っぽになっていた。
どうやら、この小さな生き物が人参混入の犯人であるらしいが、今にも泣き出しそうなものだから、アンディは同情してしまいそうになった。
思わず、何かないかと衣服のポケットの中を探ると、がさりと包みのようなものに手が触れた。
アンディが取り出して包みを開いてみると、それはシンプルなドロップクッキーだった。
天敵である橙色の代わりに、チョコチップが混ざっているようだ。
──何故、このクッキーが?
首を傾げつつ記憶を掘り起こせば、そういえば執事のジェームズから受け取ったのだと、アンディは思い出せた。
確かシェリアがつくったと、聞いた気がする。
瞳に涙をいっぱい溜め、今にも零れ落ちそうな少女の前に、アンディは、そっと包みごと置いてみた。
すると、突然目の前に現れたおやつに、少女は辺りをきょろきょろと見渡したあと、そのうちの一枚を嬉しそうに抱えて、はにかんでみせた。
その様子に、アンディは、ほっと胸を撫で下ろした。
将来この地を継ぐアンディは、この小さな生き物たちには悲しんで欲しくないのだ。
今はまだ無力ではあるけれど、“かれら”の世界を守れるだけの力が欲しいし、“かれら”がどのように暮らしているのか、知りたい。
それこそが、アンディが今回入れ替わった理由である。
人間に干渉されることをとても嫌う“かれら”の領域に踏み込めば、場合によっては記憶を消されたり、妖精丘の向こうにある妖精界に連れていかれる可能性も十分にあった。
こうして、アンディが無事に帰ってこれたのも幸運と呼んで良いだろう。
だから、クラリスが怒るのも当然であるし、アンディはこれ以上、“かれら”の理に必要以上触れるべきではないのだ。
そう分かっているが、今回の共犯の妖精が少しだけ気の毒になったので、ひどく鈍そうな姉に少しばかり仄めかすくらいは許して欲しい。
いつの間にか空になってしまった包みを見て、アンディはくすりと笑った。
「はーい、ひとり一個までー! 破ったら、ひゃくねんおやつ抜きです!」
少女は、小さな身体に合わせた大きさの箒を片手に仁王立ちし睨みをきかせながらも、空いた方の手でさりげなくクッキーを浮かせて手元に引き寄せるのを忘れない。
「ひゃくねんって、おやつ何回ぶん?」
「なんか、いっぱいいない?」
「あのクッキー、他のよりちょっとだけおおきい……」
アンディ以外誰もいなかった、静寂だったはずの厨房に、賑やかな声が響いている。
少女と同じように赤茶色の髪をした小さな生き物たちは、楽しそうに各々の取り分を確保していく。
大半が赤茶色の髪をしているが、よくよく見ると、違う髪色を持つ者もいるようだ。
──これは、“かれら”の集会だろうか。
アンディは、この屋敷内で“かれら”の集まりを見たことはなかった。初めての光景に、アンディの胸は高鳴る。
「──噂は、ほんとうだった……! みんなに知らせなきゃ……!」
きらきらとした日差しのような明るい髪を持つ少女は、クッキーを両手で大切そうに抱え、小さな羽根で窓の外へと飛んでいった。
───噂?
アンディが首を傾げていると、今度は勝ち誇ったような声が聞こえる。そちらを向いてみれば、
「──雪玉の恨み、晴らしたり……!」
赤茶色の髪をふたつ編みにした少女が、橙色の何かが入っている瓶の上に座り、嬉しそうに笑っていた。先ほどはずされていた蓋は、締められているようだ。
少女は、そのまま暫く足をぷらぷらしていたのだが──はっと何かに気付いたような表情をしたあと、しょんぼりと肩を落とした。
「───おやつ、もうなくなってる……」
その言葉に視線をやれば、焼きたてのクッキーが百個ほどあったはずの場所は、既に空っぽになっていた。
どうやら、この小さな生き物が人参混入の犯人であるらしいが、今にも泣き出しそうなものだから、アンディは同情してしまいそうになった。
思わず、何かないかと衣服のポケットの中を探ると、がさりと包みのようなものに手が触れた。
アンディが取り出して包みを開いてみると、それはシンプルなドロップクッキーだった。
天敵である橙色の代わりに、チョコチップが混ざっているようだ。
──何故、このクッキーが?
首を傾げつつ記憶を掘り起こせば、そういえば執事のジェームズから受け取ったのだと、アンディは思い出せた。
確かシェリアがつくったと、聞いた気がする。
瞳に涙をいっぱい溜め、今にも零れ落ちそうな少女の前に、アンディは、そっと包みごと置いてみた。
すると、突然目の前に現れたおやつに、少女は辺りをきょろきょろと見渡したあと、そのうちの一枚を嬉しそうに抱えて、はにかんでみせた。
その様子に、アンディは、ほっと胸を撫で下ろした。
将来この地を継ぐアンディは、この小さな生き物たちには悲しんで欲しくないのだ。
今はまだ無力ではあるけれど、“かれら”の世界を守れるだけの力が欲しいし、“かれら”がどのように暮らしているのか、知りたい。
それこそが、アンディが今回入れ替わった理由である。
人間に干渉されることをとても嫌う“かれら”の領域に踏み込めば、場合によっては記憶を消されたり、妖精丘の向こうにある妖精界に連れていかれる可能性も十分にあった。
こうして、アンディが無事に帰ってこれたのも幸運と呼んで良いだろう。
だから、クラリスが怒るのも当然であるし、アンディはこれ以上、“かれら”の理に必要以上触れるべきではないのだ。
そう分かっているが、今回の共犯の妖精が少しだけ気の毒になったので、ひどく鈍そうな姉に少しばかり仄めかすくらいは許して欲しい。
いつの間にか空になってしまった包みを見て、アンディはくすりと笑った。
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