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アンディのささやかな計画④
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「───どうして、こんなことに……」
アンディは、橙色の混じった完成品を前に、頭を抱え立ち尽くしていた。
◇
屋敷に帰ってきてからというもの、口にするのもの全てに苦手な人参が入っていることにうんざりしていたアンディは、気分転換にと、おやつ兼“かれら”への献上品として、ドロップクッキーをつくることにしたのだが───
「───どう見ても、人参……だよね」
人差し指と親指で挟んで摘まみ上げ、まじまじと確認してみれば、どうみても入れた覚えがないものが入っているのだ。
好物であるナッツをふんだんに入れた、シンプルなドロップクッキーをつくっていたたはずだったのに。
完成した物語には、どういうわけか、暖色系の何かが混じっていた。
混乱したアンディが辺りをきょろきょろと見渡してみると、見覚えのない瓶が視界に入る。
作りはじめた時にはなかったはずだ。
橙色のすり潰されたものが、底の方に僅かに残っている。
蓋は空いたまま。
十中八九、これが犯人だろう。
「───なんで……」
用意した覚えも混ぜた覚えもないけれど、無意識に混ぜてしまったのだろうか。そんなまさか。
しかし、事実として、混ざってしまったものがそこにはある。
認めねばならない……のだろうか。
アンディは、目の前の現実を受け止められる気がしなかった。
今回、アンディが作ったドロップクッキーは、およそ百個ほどで、これから暫く続くかもしれない、クラリスからの人参攻撃のあとの癒しになるはずだった。
因みに、“かれら”への献上品を兼ねているので、半分以上は、皿に乗せて窓辺に置いておくつもりだった。
そのままにしておけば、数日ほどで無くなっているはずである。
……数日もてばいいが。
ここ一年ほど、三日ほどで空になっていたお皿が、半日で空になるのが珍しくなかった。
シェリアが社交デビューで王都へ滞在し、“かれら”への菓子をつくる人間が減ったことにより、そのしわ寄せがどうやらアンディにきたようである。
アンディは、“かれら”への供物を毎回自作するのではなく、市場で購入したり、美味しいと評判の菓子を他の領地から取り寄せたりもした。
我ながら頑張ったと、アンディは思う。
そして、その苦労も、シェリアが帰ってきたことにより、ようやく終わる。
十歳であるアンディも、二年もすれば、領地を離れて、領主としての勉強をしなくてはならない。
これはとても大切なことで、“かれら”を邪な考えを持つ者たちから守る為に必要なのだ。
“妖精”の存在を空想上のものだと笑い飛ばす者がいる一方で、捕獲して売り飛ばそうだとか考える者も珍しくない。
“かれら”の棲む場所にこっそり忍びこもうとする者もいれば、領主に堂々と取引を持ちかけて、“かれら”を手に入れようとする者もいる。
自分が領主になった時に、うっかり足をすくわれない為にも、アンディは学ばねばならない。
物思いに耽っていたアンディは、クッキーに視線を戻したのだが───気のせい、だろうか。
こころなしか、天敵である人参入りのドロップクッキーが減っているように思えて、アンディは首を傾げた。
まさか。そう思ったアンディは、咄嗟に四ツ葉のクローバーを取り出してぎゅっと握りしめ、瞼を閉じた。
“かれら” の姿が見えるようになる塗り薬の、原材料である四ツ葉のクローバー。
これのみでは“見られることがある”という確率を上げるものだが、僅かな時間であれば、かなりの確率でアンディは目撃出来ていた。
それはもしかしたら、“かれら”の気まぐれによるものもあるのかもしれないけれど。
アンディがそっと瞼を開くと、予想は的中し、そこには羽根をひらひらとさせた小さな生き物がいた。
アンディは、橙色の混じった完成品を前に、頭を抱え立ち尽くしていた。
◇
屋敷に帰ってきてからというもの、口にするのもの全てに苦手な人参が入っていることにうんざりしていたアンディは、気分転換にと、おやつ兼“かれら”への献上品として、ドロップクッキーをつくることにしたのだが───
「───どう見ても、人参……だよね」
人差し指と親指で挟んで摘まみ上げ、まじまじと確認してみれば、どうみても入れた覚えがないものが入っているのだ。
好物であるナッツをふんだんに入れた、シンプルなドロップクッキーをつくっていたたはずだったのに。
完成した物語には、どういうわけか、暖色系の何かが混じっていた。
混乱したアンディが辺りをきょろきょろと見渡してみると、見覚えのない瓶が視界に入る。
作りはじめた時にはなかったはずだ。
橙色のすり潰されたものが、底の方に僅かに残っている。
蓋は空いたまま。
十中八九、これが犯人だろう。
「───なんで……」
用意した覚えも混ぜた覚えもないけれど、無意識に混ぜてしまったのだろうか。そんなまさか。
しかし、事実として、混ざってしまったものがそこにはある。
認めねばならない……のだろうか。
アンディは、目の前の現実を受け止められる気がしなかった。
今回、アンディが作ったドロップクッキーは、およそ百個ほどで、これから暫く続くかもしれない、クラリスからの人参攻撃のあとの癒しになるはずだった。
因みに、“かれら”への献上品を兼ねているので、半分以上は、皿に乗せて窓辺に置いておくつもりだった。
そのままにしておけば、数日ほどで無くなっているはずである。
……数日もてばいいが。
ここ一年ほど、三日ほどで空になっていたお皿が、半日で空になるのが珍しくなかった。
シェリアが社交デビューで王都へ滞在し、“かれら”への菓子をつくる人間が減ったことにより、そのしわ寄せがどうやらアンディにきたようである。
アンディは、“かれら”への供物を毎回自作するのではなく、市場で購入したり、美味しいと評判の菓子を他の領地から取り寄せたりもした。
我ながら頑張ったと、アンディは思う。
そして、その苦労も、シェリアが帰ってきたことにより、ようやく終わる。
十歳であるアンディも、二年もすれば、領地を離れて、領主としての勉強をしなくてはならない。
これはとても大切なことで、“かれら”を邪な考えを持つ者たちから守る為に必要なのだ。
“妖精”の存在を空想上のものだと笑い飛ばす者がいる一方で、捕獲して売り飛ばそうだとか考える者も珍しくない。
“かれら”の棲む場所にこっそり忍びこもうとする者もいれば、領主に堂々と取引を持ちかけて、“かれら”を手に入れようとする者もいる。
自分が領主になった時に、うっかり足をすくわれない為にも、アンディは学ばねばならない。
物思いに耽っていたアンディは、クッキーに視線を戻したのだが───気のせい、だろうか。
こころなしか、天敵である人参入りのドロップクッキーが減っているように思えて、アンディは首を傾げた。
まさか。そう思ったアンディは、咄嗟に四ツ葉のクローバーを取り出してぎゅっと握りしめ、瞼を閉じた。
“かれら” の姿が見えるようになる塗り薬の、原材料である四ツ葉のクローバー。
これのみでは“見られることがある”という確率を上げるものだが、僅かな時間であれば、かなりの確率でアンディは目撃出来ていた。
それはもしかしたら、“かれら”の気まぐれによるものもあるのかもしれないけれど。
アンディがそっと瞼を開くと、予想は的中し、そこには羽根をひらひらとさせた小さな生き物がいた。
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