いなくなった弟が帰ってきた

梅崎あめの

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アンディのささやかな計画③

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 屋敷の外では、ざあざあと雨が降っている。

 シェリアは、アンディの瞳をじっと見つめてみるけれど、残念ながら、アンディが何を考えているのかもこの発言の意図も、読み取ることは出来なかった。

 確かにアンディの言う通り、シェリアは、にぶいのだろう。

 社交デビューの為に王都へ行くまでは、この領地でのあらゆる現象が、領地の外では滅多にないことを知らなかった。

 窓辺にミルクとクッキーを置く儀式めいたことも“かれら”の存在も、この領地の外では、遠い過去の遺物や空想上の存在に過ぎず、笑い飛ばされることもあるだなんて、思いもしなかったから。

 あの雨の日に帰ってきたアンディが本物ではなかったと気付いたのも、家族の中では一番遅かっただろう。

 シェリアは、口を開こうとするものの、何を話そうか迷っていた。 

 訊ねたいことはたくさんあった。

 例えば、どうして入れ替わろうと思ったのか。
 入れ替わっている間、何があったのか。

 あの子は、一体誰なのか。
 何処で出逢ったのか。

 それと、突然、入れ替わりなど画策したのだから、本来ならば姉としては怒るべきなのかもしれない。
 けれど、交流などなかった姉に怒られても、アンディも困るだろう。

 雨がざあざあと降る音は、アンディのふりをしたあの子を思い出させる。
 シェリアが瞼を閉じれば、脳裏には一緒に過ごした時間が甦る。
 まるで、どこかで逢ったことがあるかのようだった。

 ───『本当に覚えてない?』

 ふいに、アンディの言葉がシェリアの頭をよぎる。

「───アンディ。もしかして、私は何かを忘れてるの?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 シェリアの言葉に、小首を傾げたアンディは、まるで謎かけみたいな答えを差し出した。

「これは、部外者である僕が言っていいか分からないんだ。多分、ねえさんが何を訊いても、答えられない。ぼくらが“かれら”を、妖精なまえで呼んではならないのと同じように、“かれら”の施した仕掛けにも、触れることは出来ないんだ」

 何も教えられないけれど急げだなんて、随分と無茶苦茶だと、シェリアは思う。

 でもきっと、今動かなくてはならないだろう。
 雨が上がってからでは、手遅れかもしれない。
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