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光の射し込む先は②
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光に導かれるままに歩いていけば、屋敷の建物の裏に聳え立つ大きな樹に辿り着いた。 その樹の枝のひとつに腰掛けて、アンディが気持ちよさそうに眠っている。
屋敷の外、それも樹の上など、シェリアひとりでは間違いなく見つけられなかっただろう。
慎重に近づいたシェリアが、お昼寝中のアンディを見上げると、さあっと風が吹いた。
その瞬間、脳裏にエレンの言葉が甦る。
『樹木妖精ってやつは、高いところが好きなんです』
何故、今思い出したのだろうか。
シェリアが首を傾げていると、頭上から声が降ってきた。
「…………それって、もしかしておやつ?」
シェリアが振り向くより先にアンディは着地すると、きらきらとした瞳でバスケットの中を覗いたのだが──
「……欠けてる」
そこにあるものの無残な状態を目にして、しょんぼりと肩を落とした。なんと、四等分に切り分けられたアップルパイの一部が欠けていたのだ。
落ち込むアンディに、シェリアは慌てて説明した。
「ごめんなさい。自分でアンディの居場所を見つけられなくて……パイと交換で教えて貰ったの」
「……そっか」
力なく返事したアンディが「食べてもいい?」と訊ねてきたので、シェリアはこくりと頷いた。
アンディはバスケットからアップルパイをつまみ上げると、ぱくりと齧りつく。
瞠目して一瞬固まったかと思えば、黙々と食べ進めて、ぺろりと平らげてしまった。
視線は再びバスケットの中へ。
どうやら、もう一個口にしようか迷っているようだ。
「……その、アンディのリクエストって、林檎で良かったかしら」
そわそわとしているアンディにバスケットを手渡しながら、シェリアは気になっていたことを訊ねた。
アンディの希望は“あかくてまるくて樹に実っているもの”だった。
聞いた瞬間、シェリアは真っ先に林檎が浮かんだものの、よく考えると似た条件のものは幾つもあったのだ。
「うん。これで合ってると思う。……人間が嬉しそうに拾ったり、もぎっていく姿をよく見たから、気になってたんだ」
バスケットを大切そうに抱え、アンディはどこか寂しげな表情で、伏し目がちに話している。
どこか深い森に迷いこんだような、このままどこか遠くへ行ってしまうような。
アンディのエメラルドグリーンの瞳は、シェリアを昨夜の時のようにそんな錯覚に陥らせる。
「……林檎のお菓子くらい、またいつでもつくるわ」
膝を曲げて視線を合わせたシェリアが、アンディの頭をくしゃりと撫でると、アンディはバスケットを抱える手にぎゅっと力を込めた。
──やはり、何かを見落としているのだろうか。
シェリアは、妙な胸騒ぎがしてならなかった。
屋敷の外、それも樹の上など、シェリアひとりでは間違いなく見つけられなかっただろう。
慎重に近づいたシェリアが、お昼寝中のアンディを見上げると、さあっと風が吹いた。
その瞬間、脳裏にエレンの言葉が甦る。
『樹木妖精ってやつは、高いところが好きなんです』
何故、今思い出したのだろうか。
シェリアが首を傾げていると、頭上から声が降ってきた。
「…………それって、もしかしておやつ?」
シェリアが振り向くより先にアンディは着地すると、きらきらとした瞳でバスケットの中を覗いたのだが──
「……欠けてる」
そこにあるものの無残な状態を目にして、しょんぼりと肩を落とした。なんと、四等分に切り分けられたアップルパイの一部が欠けていたのだ。
落ち込むアンディに、シェリアは慌てて説明した。
「ごめんなさい。自分でアンディの居場所を見つけられなくて……パイと交換で教えて貰ったの」
「……そっか」
力なく返事したアンディが「食べてもいい?」と訊ねてきたので、シェリアはこくりと頷いた。
アンディはバスケットからアップルパイをつまみ上げると、ぱくりと齧りつく。
瞠目して一瞬固まったかと思えば、黙々と食べ進めて、ぺろりと平らげてしまった。
視線は再びバスケットの中へ。
どうやら、もう一個口にしようか迷っているようだ。
「……その、アンディのリクエストって、林檎で良かったかしら」
そわそわとしているアンディにバスケットを手渡しながら、シェリアは気になっていたことを訊ねた。
アンディの希望は“あかくてまるくて樹に実っているもの”だった。
聞いた瞬間、シェリアは真っ先に林檎が浮かんだものの、よく考えると似た条件のものは幾つもあったのだ。
「うん。これで合ってると思う。……人間が嬉しそうに拾ったり、もぎっていく姿をよく見たから、気になってたんだ」
バスケットを大切そうに抱え、アンディはどこか寂しげな表情で、伏し目がちに話している。
どこか深い森に迷いこんだような、このままどこか遠くへ行ってしまうような。
アンディのエメラルドグリーンの瞳は、シェリアを昨夜の時のようにそんな錯覚に陥らせる。
「……林檎のお菓子くらい、またいつでもつくるわ」
膝を曲げて視線を合わせたシェリアが、アンディの頭をくしゃりと撫でると、アンディはバスケットを抱える手にぎゅっと力を込めた。
──やはり、何かを見落としているのだろうか。
シェリアは、妙な胸騒ぎがしてならなかった。
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