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しおりを挟むコムのメンバーはステージ裏に集まる。
僕等は四方を囲むような形で立ち、暫く無言。
姉御が両腕を広げる。
それを見た僕等は何も言わず両腕を広げ、後に円陣を組む。
「色々あったけど今日まで楽しかった。ありがとう」
姉御が静かにそう言うと――
「私も楽しかった。ありがとう」
宮田も感謝の言葉を言う。
「なんとなく始めたけど楽しかった……ありがとう」
木田は照れくさそうに言う。
「僕の思いつきっていうか、気まぐれで始めて……正直、何にも想像してなくて……。色々あったけど、未だに自分がこういう場にいる事が信じられない……それでも楽しかった」
「皆付けてんだから、空気読んで”ありがとう”って付けろよな、ホッシー」
僕のコメントに木田がツッコむ。
皆は軽く笑って――
「さぁ、あたし等らしく最後まで楽しんで来ようか!!」
姉御が両腕にグッと力を入れて僕等の肩を下げる。
僕等もそれぞれ返事をしたと同時に、姉御と同じ様に両腕に力を入れ、直後に弾けた様に腕を放しステージに向った。
◇ ◇ ◇
薄暗いステージ。
ステージの下に、ぼんやりと見える人々。
やけに目立つ非常口の緑色の明かり。
狭い客席。
低い天井。
もう何度も見てきて今更目新しい物は無い筈なのに、今日はこの風景を脳裏に焼き付けておこうと思った。
最初にライブをした時は、この雰囲気に呑まれて何にも出来なかったなぁ、なんて事を考えながら感慨深くなっていると、皆の準備が終わる。
今日はいつもより少し長い宮田のMCから入る打ち合わせになっている。
スポットライトが宮田を照らす。
一瞬、客席から歓声が起こるが、宮田がマイクスタンドの前に立ち、マイクに両手を乗せると静まり返った。
「えっと……今日来てくれた皆さん。お客さんも出演してくれたバンドの人達も、それに、結成の頃から色々お世話になったボウルのスタッフさん達も、本当にありがとうございます。……コムはこれで解散ですけど、皆さんと……このメンバーと音楽を……楽しめたことは忘れません。……だから……皆さんの記憶の、ほんの片隅にでも残してもらえるような……ライブを今日はしたいと思います。よろしくお願いします。……それじゃ……」
宮田はやや言葉に詰まりながらもMCを終え、姉御の方へ振り向いて合図をする。
姉御は微笑んで、カウントを始めた。
さぁ、やるか――
◇ ◇ ◇
名目上、最後の曲を演奏し終わり、僕等は機材の片付けを始めようとする。
そこで客席からアンコールが掛かる。
実際のところ、ここまでは予定調和みたいなものだ。
当然の事ながら曲も用意してある。
◇ ◇ ◇
アンコール曲を演奏し終わり、宮田が最後に「本当にありがとうございました」と言って、客席に頭を下げる。
そこで、いつもと違う反応が客席から起こる。
再びアンコールが掛かったのだ。
困惑する宮田と木田。
しかし、僕と姉御にとっては予定通り。
ここからが今日一番の仕掛けなのだ。
この先何が起こるかは、前もって頼んでおいた客席の仕掛け人達も知らない。
僕は宮田と木田をステージから降りるように促し、客席のステージ最前列中央へ誘導した。
『何が始まるのか?』といった、期待と不安の入り混じった表情で二人は僕を見ていたが、僕は何も言わずに自分の立ち位置に戻り、コーラスマイクの前に立つ。
「準備オッケーです!」
その言葉を合図に、ステージ上にギターを持った池上が現れる。
その姿を見て、宮田と木田は少し驚いてはいたが、仕掛けはこれで終わらない。
皆が池上の姿に目を取られている隙に客席からステージに人が上がってくる。
帽子にサングラス、加えてマスクと見るからに怪しい風貌。
その人物がボーカルマイクの前に立ち、サングラスとマスクを取る。
そう、これが一番のサプライズ。
今日のライブに、サミットの三谷さんを呼んでいたのだ。
流石にバンド関係者や音楽好きが多いので、顔を知っている人達が多く、客席からはそれまでとは異質な、悲鳴とも思える歓声が巻き起こった。
これには流石に宮田と木田も本気で驚いた様子で、目を丸くしていた。
何しろこれから一緒に演奏する池上が凄く驚いていた。
池上にも三谷さんの事は伝えていなかったのだ。
僕は三谷さんに近寄り、頭を下げる。
「今日は本当に有難う御座います。まさか本当に実現出来るとは思ってませんでした」
「いやぁ、君等の気合に負けたよ。まさか俺に連絡取ろうとするとは……。事務所とか面倒臭かったでしょ?」
「だいぶ胡散臭がられましたけどね。三谷さんと話が出来るまで一ヶ月以上掛かりましたし」
「俺なんてまだまだそんな大したもんじゃ無いってのにな」
「十分凄いですよ。客の反応が全然違う」
「でも、主役より目立っちまっていいのか?」
「何いってるんですか。僕の中ではある意味で、今日の主役は三谷さんなんですから。思いっきり目立ってください!」
「そうかい?まぁ、言われなくても目立っちゃうけどな」
「お願いします」
そう言って深々と頭を下げ、僕は自分の立ち位置に戻る。
すると今度は池上が近寄ってくる。
「どういう事だよ。聞いてないぞ」
池上は僕の耳元で小さく言う。
「言ってないもん。サプライズ」
「いや、凄過ぎんだろ」
「大丈夫だって、演奏する曲は変わってないから。練習通りにやってよ」
「うーん。何かすげぇ緊張してきたな」
「そろそろ、始めるよ。無理言ってるんだし」
「あっ。ああ」
池上は自分の位置に戻り、ギターを手に取る。
リハーサル無しで演奏する事もボウルのスタッフさんには無理を言っているのだが、快く了承して貰えた。
曲は一曲だけ。
併せて練習する事も出来なかったので、ぶっつけ本番。
誰でも知ってる超メジャーな曲を選んだ。
僕は少し調子に乗って、普段は絶対やらないのに自分の前に設置してあるコーラス用のマイクを使って、MCをした。
とても簡潔な一言――
「この曲を、宮田と木田に捧げます」
その姿を客席から見て二人は大笑いしていた。
僕も自分で言った後に、恥ずかしくなって笑ってしまった。
MCの直後に姉御のカウントが始まる。
――これが、本当のラストだ――
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