39 / 47
39
しおりを挟む今日はバンド練習の日。
木田と宮田が付き合い始めてから、僕にとっては初のバンド練習の日となる。
不思議と落ち着いている。と、自分では感じているが、不安が無い訳では無く、結構気は重い。
僕はスタジオに着き、店内に入る。
僕以外のメンバーは先に着いていたようで休憩所に集まっていた。
僕は再度、自分自身を落ち着かせる為に深呼吸をする。
「この間はごめ~ん」
僕が精一杯明るく取り繕い声を掛けると、皆がこちらを向く。
「おっ、ホッシー。風邪は大丈夫か?」
木田は普段通りだ。
「保科……来れたんだ」
姉御は少し嬉しそうに微笑んだ。
「…………」
宮田は何も言わず愛想笑いのような笑みを浮かべはしたが、すぐに気まずそうに目線を逸らした。
仕方ない……か。
「そりゃあ来るよ。レコーディングの事考えたら色々急がないといけないしね」
「じゃぁ、久々にちゃんとしたバンド練習をしよう」
「うん」
姉御の声掛けに僕達は頷き、スタジオの中に入る。
ここまでは予定通り。
僕は上手く演じられている……のかな?いや、でも、これで良いんだ。
◇ ◇ ◇
僕等は練習が終わった後、いつものファミレスへ――は、行かなかった。
決して僕個人の理由では無い。
宮田が用事があるから先に帰ると言い、木田が送っていくと言い出した……。
何とも付き合いたての定石で微笑ましい限りだ。
全く関係の無い第三者から見たのなら……。
皮肉の一つでも言ってやりたくなるような場面ではあったのだが、それはいけないと良心が止めに入り、快く見送る”フリ”をした。
僕は姉御と二人で帰り道を歩く。
「頑張ったじゃん。まぁまぁ自然だったんで、事情を知ってるあたしとしては逆に不自然だったけど」
「それじゃあ僕はどうしたらいいのさ?今日のが限界……結構、頑張ったつもり」
「いや、悪くは無かったよ。今日の感じで良いんじゃない?」
「まぁ結局、宮田とは今日も話してないけどね……」
「それは多分、ミヤの方の問題だから……保科にはどうしようも無いよ」
「う~ん、そうなんだけどさぁ……」
僕は考え込む。
「でも正直、保科がこんなに早く立ち直るとは思わなかった」
「その件については、お世話になりました」
姉御に向かって深々と頭を下げた。
「別に良いんだけどさ。でも、結構落ち込んでたし、何でそうできたのかな?っていうのは少し気になる」
頭を下げた僕を、姉御は興味津々といった表情で覗き込む。
僕は頭を上げて――
「そうだなぁ……強いて言うなら、もう一回、リフターの時みたいなライブがしてみたい」
「何それ?」
「何それ?って言われちゃうと、そういう事だとしか言えないけど……。もう一回くらい、ああいう大勢の人の前で演奏したい。その気持ちが強いから、今はバンドを続けたいって思った……気がする?」
「要するに、ミヤの事よりバンドの事を優先したって事?」
「そう言えれば格好良いけど……。僕って結局は振られたみたいなワケじゃん?それならそれで、その事はもう諦めて、自分のしたい事をしようと思っただけ」
「何かちょっと違うような気もするけど……。まぁ、でも、ちょっとの間に大人になったね」
「言う程に割り切れてるかは自分でも疑問な所はあるけどね……」
「それは徐々にやっていくしか無いでしょ?」
「まぁ……ね」
「じゃあ、とりあえずは、サクッとレコーディングスタジオ決めちゃおうよ」
「うん、とりあえずそうしよう」
その後、僕と姉御は利用するレコーディングについて話し合った。
どうせならいつものファミレスに行けば良かったと気付いたのは、だいぶ後の話だった。
◇ ◇ ◇
姉御と別れ、寮に着く直前にスマホが鳴る。
僕はスマホをポケットから出し、メッセージを確認する。
――宮田からだった。
少し緊張しながら内容を確認する。
そこに書かれていたのは『今、電話大丈夫?』というものだった。
正直、何を話すべきか悩んだし、怖気づいたが、断る理由も無いのでこちらから電話を掛ける事にした。
「もしもし」
『もしもし』
「どうしたの?急に」
『……何か最近ずっと話してなかったなぁ?って、思って』
「確かに暫く話してなかったね……」
その先に、何を言ったら良いのか言葉が見付けられなくなっていた。
宮田も何も言わず、暫し沈黙。
『本当にごめん。あの時、保科に変な電話しちゃって……。私もどうかしてたと思う』
いきなり謝られた僕は、電話越しだが少したじろぐ。
「別に……あの時は、僕も塩対応で申し訳無いなぁ、とは思ってた」
『私がいけなかったんだよ。急にあんな事聞かれたら誰でも困るよね?ずっと謝りたかったんだけど、タイミングがなくて……保科は怒ってると思ったから』
「もういいよ。別に怒ってないし……もう済んだ事だし」
『でも……』
「全~然っ、大丈夫っ!!」
僕は敢えて明るく元気を装い声を張った。
精一杯の強がりだ。
とはいえ、普段そんな態度を取らないから逆に怪しまれそうではある。
『本当?』
「うん。それよりも良かったよ。木田も僕の大切な友人で、もちろん宮田も大好きな友達、だ……。その二人が付き合たって言うんだから祝う以外の気持ちは無いよ。バンドも続けられるしね」
僕は思わず涙ぐんでしまいそうな気持ちと声色を堪えて、その台詞を言いきった。
『そう……。保科は喜んでくれるんだ……』
「当ったり前じゃん!それ以外に何があるっていうのさ」
相変わらず胡散臭い強がりを、テンションを上げながら言う。
勢いで誤魔化さないと、声にならなくなりそうだった……。
『……うん。ありがとう』
「お礼はいいよ。それより、二人が結婚とかする事になったら、友人代表挨拶は僕がやるから……任せておいてよ」
『…いくらなんでも……飛躍し過ぎだよ』
宮田は軽く笑い、僕もつられて笑ってみた。
もっとも、僕の表情は他人に見せられるものでは無かったと思う……。
だが、これでいいんだ。
結局僕は、何も出来なかったし、しなかったのだから……。
10
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
吉祥寺行
八尾倖生
青春
中古のスケッチブックのように、黙々と自宅、学校、アルバイト先を行き来する淀んだ白い日々を送る芳内克月。深海のように、派手派手しい毎日の裏に青い葛藤を持て余す風間実。花火のように、心身共に充実という名の赤に染まる鳥飼敬斗。モザイクのように、過去の自分と今の自分、弱さと強さ、嘘と真実の間の灰色を彷徨う松井彩花。
八王子にある某私立大学に通う四人の大学生は、対照的と言うべきか、はたまた各々の穴を補うような、それぞれの「日常」を過ごしていた。そうして日常を彩る四つの運命が、若者たちの人生に色彩を与える。
知っているうちに並行し、知らないうちに交差する彼らの一週間と二週間は、彼らの人生、生き方、日常の色を変えた。
そして最後の日曜日、二人のゲストを迎え、人々は吉祥寺に集結する。
男装部?!
猫又うさぎ
青春
男装女子に抱かれたいっ!
そんな気持ちを持った
ただの女好き高校生のお話です。
〇登場人物 随時更新。
親松 駿(おやまつ しゅん) 3年
堀田 優希(ほった ゆうき) 3年
松浦 隼人(まつうら はやと) 3年
浦野 結華(うらの ゆいか) 3年
櫻井 穂乃果(さくらい ほのか) 3年
本田 佳那(ほんだ かな) 2年
熊谷 澪(くまがや れい) 3年 𝐧𝐞𝐰
委員会メンバー
委員長 松浦 隼人(まつうら はやと)3年
副委員長 池原 亮太(いけはら ゆうた)3年
書記 本田 佳那(ほんだ かな)2年
頑張ってます。頑張って更新するのでお待ちくださいっ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※
イーペン・サンサーイのように
黒豆ぷりん
青春
生まれたときから間が悪い真野さくら。引っ込み思案で目立たないように生きてきたけれど、中学校で出会った秋月楓との出会いで、新たな自分と向き合って行こうとするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる