【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

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 今日はバンド練習の日。
 木田と宮田が付き合い始めてから、僕にとっては初のバンド練習の日となる。
 不思議と落ち着いている。と、自分では感じているが、不安が無い訳では無く、結構気は重い。

 僕はスタジオに着き、店内に入る。
 僕以外のメンバーは先に着いていたようで休憩所に集まっていた。

 僕は再度、自分自身を落ち着かせる為に深呼吸をする。

 
 「この間はごめ~ん」

 僕が精一杯明るく取り繕い声を掛けると、皆がこちらを向く。

 「おっ、ホッシー。風邪は大丈夫か?」

 木田は普段通りだ。

 「保科……来れたんだ」

 姉御は少し嬉しそうに微笑んだ。

 「…………」

 宮田は何も言わず愛想笑いのような笑みを浮かべはしたが、すぐに気まずそうに目線を逸らした。
 仕方ない……か。

 「そりゃあ来るよ。レコーディングの事考えたら色々急がないといけないしね」
 「じゃぁ、久々にちゃんとしたバンド練習をしよう」
 「うん」

 姉御の声掛けに僕達は頷き、スタジオの中に入る。
 ここまでは予定通り。
 僕は上手く演じられている……のかな?いや、でも、これで良いんだ。


  ◇  ◇  ◇


 僕等は練習が終わった後、いつものファミレスへ――は、行かなかった。
 決して僕個人の理由では無い。

 宮田が用事があるから先に帰ると言い、木田が送っていくと言い出した……。
 何とも付き合いたての定石で微笑ましい限りだ。
 全く関係の無い第三者から見たのなら……。
 皮肉の一つでも言ってやりたくなるような場面ではあったのだが、それはいけないと良心が止めに入り、快く見送る”フリ”をした。


 僕は姉御と二人で帰り道を歩く。

 「頑張ったじゃん。まぁまぁ自然だったんで、事情を知ってるあたしとしては逆に不自然だったけど」
 「それじゃあ僕はどうしたらいいのさ?今日のが限界……結構、頑張ったつもり」
 「いや、悪くは無かったよ。今日の感じで良いんじゃない?」
 「まぁ結局、宮田とは今日も話してないけどね……」
 「それは多分、ミヤの方の問題だから……保科にはどうしようも無いよ」
 「う~ん、そうなんだけどさぁ……」

 僕は考え込む。

 「でも正直、保科がこんなに早く立ち直るとは思わなかった」
 「その件については、お世話になりました」

 姉御に向かって深々と頭を下げた。

 「別に良いんだけどさ。でも、結構落ち込んでたし、何でそうできたのかな?っていうのは少し気になる」

 頭を下げた僕を、姉御は興味津々といった表情で覗き込む。
 僕は頭を上げて――

 「そうだなぁ……強いて言うなら、もう一回、リフターの時みたいなライブがしてみたい」
 「何それ?」
 「何それ?って言われちゃうと、そういう事だとしか言えないけど……。もう一回くらい、ああいう大勢の人の前で演奏したい。その気持ちが強いから、今はバンドを続けたいって思った……気がする?」
 「要するに、ミヤの事よりバンドの事を優先したって事?」
 「そう言えれば格好良いけど……。僕って結局は振られたみたいなワケじゃん?それならそれで、その事はもう諦めて、自分のしたい事をしようと思っただけ」
 「何かちょっと違うような気もするけど……。まぁ、でも、ちょっとの間に大人になったね」
 「言う程に割り切れてるかは自分でも疑問な所はあるけどね……」
 「それは徐々にやっていくしか無いでしょ?」
 「まぁ……ね」
 「じゃあ、とりあえずは、サクッとレコーディングスタジオ決めちゃおうよ」
 「うん、とりあえずそうしよう」

 その後、僕と姉御は利用するレコーディングについて話し合った。
 どうせならいつものファミレスに行けば良かったと気付いたのは、だいぶ後の話だった。


  ◇  ◇  ◇


 姉御と別れ、寮に着く直前にスマホが鳴る。
 僕はスマホをポケットから出し、メッセージを確認する。
 ――宮田からだった。

 少し緊張しながら内容を確認する。
 そこに書かれていたのは『今、電話大丈夫?』というものだった。

 正直、何を話すべきか悩んだし、怖気づいたが、断る理由も無いのでこちらから電話を掛ける事にした。

 「もしもし」
 『もしもし』
 「どうしたの?急に」
 『……何か最近ずっと話してなかったなぁ?って、思って』
 「確かに暫く話してなかったね……」

 その先に、何を言ったら良いのか言葉が見付けられなくなっていた。
 宮田も何も言わず、暫し沈黙。

 『本当にごめん。あの時、保科に変な電話しちゃって……。私もどうかしてたと思う』

 いきなり謝られた僕は、電話越しだが少したじろぐ。

 「別に……あの時は、僕も塩対応で申し訳無いなぁ、とは思ってた」
 『私がいけなかったんだよ。急にあんな事聞かれたら誰でも困るよね?ずっと謝りたかったんだけど、タイミングがなくて……保科は怒ってると思ったから』
 「もういいよ。別に怒ってないし……もう済んだ事だし」
 『でも……』
 「全~然っ、大丈夫っ!!」

 僕は敢えて明るく元気を装い声を張った。
 精一杯の強がりだ。
 とはいえ、普段そんな態度を取らないから逆に怪しまれそうではある。

 『本当?』
 「うん。それよりも良かったよ。木田も僕の大切な友人で、もちろん宮田も大好きな友達、だ……。その二人が付き合たって言うんだから祝う以外の気持ちは無いよ。バンドも続けられるしね」

 僕は思わず涙ぐんでしまいそうな気持ちと声色を堪えて、その台詞を言いきった。

 『そう……。保科は喜んでくれるんだ……』
 「当ったり前じゃん!それ以外に何があるっていうのさ」

 相変わらず胡散臭い強がりを、テンションを上げながら言う。
 勢いで誤魔化さないと、声にならなくなりそうだった……。

 『……うん。ありがとう』
 「お礼はいいよ。それより、二人が結婚とかする事になったら、友人代表挨拶は僕がやるから……任せておいてよ」
 『…いくらなんでも……飛躍し過ぎだよ』

 宮田は軽く笑い、僕もつられて笑ってみた。
 もっとも、僕の表情は他人に見せられるものでは無かったと思う……。

 だが、これでいいんだ。
 結局僕は、何も出来なかったし、しなかったのだから……。
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