【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

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 夢のようなリフターでのライブが終わって数日が経った。

 当然、池上にもライブの話をした。
 出来る限りの語彙力を持って何度も伝えた。

 考えてみればこの数日間、その話を僕が一方的にしていただけのような気もする……。
 流石に池上もうんざりしているだろう。
 対応も素っ気無いというか、むしろ邪険に扱われている気もする……。
 そろそろ別の話をした方がいいか……。などと教室で半分寝た状態で考えていた。


  ◇  ◇  ◇


 学校が終わった後、姉御に招集されて緊急のバンド会議が行われた。
 場所はいつものファミレス。

 「急に呼び出してゴメン」

 姉御はテーブルに座ったままだが、頭を下げる。
 真剣な表情の姉御を見て、僕は少し緊張する。

 「いいよいいよ別に。で、どうしたの?」

 宮田が姉御に尋ねる。

 「それなんだけど、みんな驚かないで聞いてね」

 サミットの前座の話の時ですら、こんな大袈裟な前フリは無かったので、僕等メンバーはそれ以上の事だと勘繰り息を呑んだ。

 「サミットのマネージャーさんから電話があって、サミットも参加するコンピレーションアルバムに一曲参加しないかって」
 「えっ!?それって僕等の曲がCDになるって事?」

 僕は身を乗り出して聞き返した。

 「そういう事だよね?」

 姉御の返答に皆、驚き過ぎて言葉を失った――後に、声を上げて喜んだ。
 話題を出した姉御でさえも珍しく大はしゃぎだった。



 散々騒いだ後、僕等が大人しくなり始めると、姉御は一息ついて――

 「ただ、音源は各自で用意するようにって言ってた。それ以外の費用は掛からないらしいけど……」
 「音源を用意するって何すんの?」

 木田は姉御に質問する。

 「普通に考えれば制作……。CDにするんだったらレコーディングスタジオとかで録音するんじゃないの?」
 「金は掛かりそうだなぁ」

 木田はテーブルに突っ伏す。

 「バイト頑張れば何とかなるだろ?」

 僕は木田に向かって言う。

 「もっとも、辞退する気はないけどな」

 木田は起き上がる。

 「じゃあみんなオッケーって事で」
 「「「うん」」」

 姉御の言葉に三人とも同意した。


  ◇  ◇  ◇


 話が纏まり僕等はファミレスを出た。
 姉御と木田はバイトがあるということで、二人とはそこで別れた。


 僕と宮田は途中までの帰り道を一緒に帰る事になった。

 「CDになるなんて凄い事だよね。まさかこんなことになるなんて想像もしてなかったよ」
 「うん。ここのところ本当に夢でも見てる感じ。まだ信じられない」
 「そうだよね、私達の曲が商品としてお店に並ぶなんて、何か芸能人になったみたい」

 嬉しそうに話す宮田を見て僕は――

 「ひょっとしたら僕等、このままプロになっちゃったりすることもあったりして……」

 流石にそこまでは無いだろうとは思いながらも、願望を込めて言ってみた。

 「そうだよね、このまま皆でプロになっちゃうかも」
 「いやいや、流石に冗談だから」
 「え~、実際あるかもしれないよ。そういう所まで来てる気もするし」
 「そんなに甘くはないと思うけどなぁ」
 「じゃぁさ保科はもしプロになる話が来たら、どうするの?」

 僕はその質問に対して真剣に考える。

 「ん~……。わかんない」
 「何それ?」
 「そんな簡単に決められないよ。宮田はどうなの?」
 「私はずっとバンドやりたいな……。今のメンバーで……」

 宮田は空を見上げて言った。
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