【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

文字の大きさ
上 下
29 / 47

29

しおりを挟む

 夢のようなリフターでのライブが終わって数日が経った。

 当然、池上にもライブの話をした。
 出来る限りの語彙力を持って何度も伝えた。

 考えてみればこの数日間、その話を僕が一方的にしていただけのような気もする……。
 流石に池上もうんざりしているだろう。
 対応も素っ気無いというか、むしろ邪険に扱われている気もする……。
 そろそろ別の話をした方がいいか……。などと教室で半分寝た状態で考えていた。


  ◇  ◇  ◇


 学校が終わった後、姉御に招集されて緊急のバンド会議が行われた。
 場所はいつものファミレス。

 「急に呼び出してゴメン」

 姉御はテーブルに座ったままだが、頭を下げる。
 真剣な表情の姉御を見て、僕は少し緊張する。

 「いいよいいよ別に。で、どうしたの?」

 宮田が姉御に尋ねる。

 「それなんだけど、みんな驚かないで聞いてね」

 サミットの前座の話の時ですら、こんな大袈裟な前フリは無かったので、僕等メンバーはそれ以上の事だと勘繰り息を呑んだ。

 「サミットのマネージャーさんから電話があって、サミットも参加するコンピレーションアルバムに一曲参加しないかって」
 「えっ!?それって僕等の曲がCDになるって事?」

 僕は身を乗り出して聞き返した。

 「そういう事だよね?」

 姉御の返答に皆、驚き過ぎて言葉を失った――後に、声を上げて喜んだ。
 話題を出した姉御でさえも珍しく大はしゃぎだった。



 散々騒いだ後、僕等が大人しくなり始めると、姉御は一息ついて――

 「ただ、音源は各自で用意するようにって言ってた。それ以外の費用は掛からないらしいけど……」
 「音源を用意するって何すんの?」

 木田は姉御に質問する。

 「普通に考えれば制作……。CDにするんだったらレコーディングスタジオとかで録音するんじゃないの?」
 「金は掛かりそうだなぁ」

 木田はテーブルに突っ伏す。

 「バイト頑張れば何とかなるだろ?」

 僕は木田に向かって言う。

 「もっとも、辞退する気はないけどな」

 木田は起き上がる。

 「じゃあみんなオッケーって事で」
 「「「うん」」」

 姉御の言葉に三人とも同意した。


  ◇  ◇  ◇


 話が纏まり僕等はファミレスを出た。
 姉御と木田はバイトがあるということで、二人とはそこで別れた。


 僕と宮田は途中までの帰り道を一緒に帰る事になった。

 「CDになるなんて凄い事だよね。まさかこんなことになるなんて想像もしてなかったよ」
 「うん。ここのところ本当に夢でも見てる感じ。まだ信じられない」
 「そうだよね、私達の曲が商品としてお店に並ぶなんて、何か芸能人になったみたい」

 嬉しそうに話す宮田を見て僕は――

 「ひょっとしたら僕等、このままプロになっちゃったりすることもあったりして……」

 流石にそこまでは無いだろうとは思いながらも、願望を込めて言ってみた。

 「そうだよね、このまま皆でプロになっちゃうかも」
 「いやいや、流石に冗談だから」
 「え~、実際あるかもしれないよ。そういう所まで来てる気もするし」
 「そんなに甘くはないと思うけどなぁ」
 「じゃぁさ保科はもしプロになる話が来たら、どうするの?」

 僕はその質問に対して真剣に考える。

 「ん~……。わかんない」
 「何それ?」
 「そんな簡単に決められないよ。宮田はどうなの?」
 「私はずっとバンドやりたいな……。今のメンバーで……」

 宮田は空を見上げて言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ

椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。 クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。 桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。 だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。 料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

桜稜学園野球部記

神崎洸一
青春
曲者揃いの野球部、桜稜学園高校。 そんな野球部の物語。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

アイドルと七人の子羊たち

くぼう無学
青春
 数多くのスターを輩出する 名門、リボルチオーネ高等学校。この学校には、『シャンデリア・ナイト』と呼ばれる、伝統行事があって、その行事とは、世界最大のシャンデリアの下で、世界最高のパフォーマンスを演じた学生たちが、次々に芸能界へ羽ばたいて行くという、夢の舞台。しかしその栄光の影で、この行事を開催できなかったクラスには、一切卒業を認めないという、厳しい校則もあった。金田たち三年C組は、開校以来 類を見ない落ちこぼれのクラスで、三年になった時点で この行事の開催の目途さえ立っていなかった。留年か、自主退学か、すでにあきらめモードのC組に 突如、人気絶頂 アイドル『倉木アイス』が、八木里子という架空の人物に扮して転校して来た。倉木の大ファンの金田は、その変装を見破れず、彼女をただの転校生として見ていた。そんな中 突然、校長からこの伝統行事の実行委員長に任命された金田は、同じく副委員長に任命された転校生と共に、しぶしぶシャンデリア・ナイト実行委員会を開くのだが、案の定、参加するクラスメートはほとんど無し。その場を冷笑して立ち去る九条修二郎。残された時間はあと一年、果たして金田は、開催をボイコットするクラスメートを説得し、卒業式までにシャンデリア・ナイトを開催できるのだろうか。そして、倉木アイスがこのクラスに転校して来た本当の理由とは。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

処理中です...