【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

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 僕はステージを降りて、控え室に荷物を置き、いつものように一人になれる場所を探しに外へ出た。
 何も分からない場所では、とりあえず外に出るのが一番だ。

 自意識過剰かもしれないが、なるべく人目に付かない機材搬入口から出て、階段になっている場所に座り込んだ。


 何を見るでもなく、空を見て大きく息を吸い、そして吐く。
 色々難しく考えていたことが、ステージ上では本当にどうでもいい事になっていた。
 今思えば、何をそんなに不安に思っていたのか、思い出すことすら難しい。

 とりあえず、今日は楽しかった……。

 こんな経験は一生の内に、あと何度出来るのだろう?
 二度と無い可能性も高い。
 そう考えると、凄く虚しくなる。


 「またこんなところで休んでる」

 背後から宮田が声を掛けて来た。僕は振り向く。

 「……絶対に後を付けて来たよね?」
 「……何で?」
 「そうじゃなきゃ、こんな所にいると思わないだろうし、早すぎる」
 「バレたか」
 「バレるよ。何か用?」
 「いや、保科って休める場所探すの得意でしょ?私もちょっと休みたいなと思って」
 「別にそんな特技はないよ。ていうか、人がいたら休めないだろ」
 「そんな事ないでしょ、人がいたって休めるよ。保科以外は」
 「そうですかぁ」

 僕は気の抜けた返事をする。
 宮田は壁面を背に体育座りをして、空を眺める。

 僕も同じ様に視線を空に戻した。


 「本当に楽しかった……」

 宮田は、僕に言ったのか独り言なのか、分からないような感じで言った。
 一応、僕に向けていったのだと解釈し、返答する。

 「うん。楽しかった。その言葉しか出てこない。もっと酷い思い出になるかと思ってたけど……」
 「保科は考えすぎだよ……。でも、今回みたいなのが、こんなに楽しいっていうのは知らなかった」
 「実際やってみて初めて分かったよ」
 「またやりたいなぁ。こういうの」
 「でも難しいよ。この規模は……」

 「保科はさぁ……。卒業した後どうするの?」
 「普通に大学行く気でいるよ。どっか受かるところに」
 「地元?」
 「全然決めてない。受かるところならどこでもいいや」
 「メンバー皆で場所揃えてバンド続けようよ」
 「う~ん。出来るならそうしたいけど……」
 「今終わっちゃったら勿体無くない?」
 「ここまで上手く来てると、そう思いもしなくは無いかなぁ?」
 「はっきりしないなぁ」
 「いや、バンドは続けたいけど、今までみたいにトントン拍子で話が進むとは限らないし、木田や姉御がどうするかも分からないし」
 「そうなんだけどね……」
 「宮田はプロとか考えてるの?」
 「さすがにそこまでは考えてないよ……ただ皆と一緒にバンドを続けていたいだけ」

 宮田は腿の部分に顔を埋める。

 「まぁ、考えとくよ。っと、もう、サミットのライブ始まっちゃってるかな?見に行こうよ。せっかくタダで観れるんだし」

 僕は立ち上がり宮田の手を取って引っ張り、会場へ戻ろうとする。
 宮田も立ち上がり……

 「そうだね、行こっか」


  ◇  ◇  ◇


 僕と宮田は会場に戻り、超満員の客席の隅の隅といえるような場所で、サミットのライブを観た。

 盛り上がる人々、客を湧かせるステージ上の演奏者達――。
 その全てが、やはり僕等とは段違いで、自分達の未熟さを痛感させられた。
 同時に、こういう風に演奏してみたいという憧れを抱いた。
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