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しおりを挟む前座の話を引き受けてから数日。
僕の周囲にも目に見える変化が起き始めた。
いつものように自分の机で寝ている僕に、クラスメイトだが殆ど話をしたことの無い生徒が声を掛けてきた。
残念ながら男子生徒だったが……。
「保科君、今度サミットと一緒にライブするんだって?チケットとか余ってない?」
サミット?……僕は寝ぼけた頭をフル回転させて考えた。
あぁ、例のインディーズバンドの事か。
あの後、多少は調べたので、それなりに有名なバンドだという事は理解した。
しかし、まさかこんなに身近に知っている人がいるとは……。
コアなファンなのかな?
「ごめん。今回、僕等はチケットとか渡されてないんだよね」
「そうなんだぁ……。じゃあ仕方ないよな。でも、サインとか貰ってくることは出来る?」
「……よく分からないけど。もし貰えそうなら貰ってくるよ」
「マジで!?それならこれに」
そう言うと、彼は持っていたバッグから無地のTシャツを取り出し僕に渡してくる。
僕は適当にそれを受け取る。
なぜ彼がそんなものを持っていたのかは知らない。
こうなる展開を予想していたと考えるよりも、運動部か何かに所属しているのだと考えるのが自然かな?
彼の事を良く知らないので……。
「出来たらで良いけど、お願い」
「うん」
そう言うと彼は去っていった。
どこが情報源かは知らない。
宮田か姉御が有力だが、そんな事はどうでも良かったからだ。
しかし、その後にも似た様な事が数回あったので、サミットというバンドは本当に有名なバンドなんだという事を理解した。
今までに感じたことの無い優越感。
まるで自分が有名人になったかの様な錯覚。
当然、今までの僕からしたら相当な有名人にはなったのだろうが……。
だが、それは僕を調子に乗せるには十分だった。
そう、僕は浮かれていたんだと思う……。
◇ ◇ ◇
寮に帰った僕は今日の出来事を池上に話した。
「まさか、そんなに噂になるとは思って無かったよ。サミットっていうバンドがそこまで凄いバンドだとは思ってなかった」
「今更何言ってんだよ。本当に何も知らないで今回のライブ受けたのか?」
「うん、日本のインディーズって聴いてこなかったから」
「じゃ、リフターのことも本当に知らないのか?」
「うん」
「はぁ……。なんでそうなるのかなぁ……」
呆れた感じの池上。
「どういうこと?」
「リフターはこの辺では一番有名なライブハウスだし、出たいって言って出られるもんでもないんだ。ノルマ高いし。普通の高校生じゃ、まず出られない場所なんだ」
「池上とかでも無理なの?」
「当然。今じゃまだまだ手が届かない。そりゃ、すげぇ金があれば別だけどな」
「そうなんだ……」
それを聞いて急に緊張感が高まった。
池上でも手の届かない場所、そこに僕等は立つ事になる。
これは多分凄い事だ。
今まで実感の湧かなかった凄さを理解出来てきた感じだ。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「僕、ちょっと出掛ける」
「あぁ?今からか?」
「うん」
俄然やる気が出てきた。
ベースを持って部屋を出て、木田に電話をかける。
目的はもちろん新曲作りだ。
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