【完結】アドバンッ!!

麻田 雄

文字の大きさ
上 下
24 / 47

24

しおりを挟む

 前座の話を引き受けてから数日。
 僕の周囲にも目に見える変化が起き始めた。


 いつものように自分の机で寝ている僕に、クラスメイトだが殆ど話をしたことの無い生徒が声を掛けてきた。
 残念ながら男子生徒だったが……。

 「保科君、今度サミットと一緒にライブするんだって?チケットとか余ってない?」

 サミット?……僕は寝ぼけた頭をフル回転させて考えた。

 あぁ、例のインディーズバンドの事か。
 あの後、多少は調べたので、それなりに有名なバンドだという事は理解した。
 しかし、まさかこんなに身近に知っている人がいるとは……。
 コアなファンなのかな?

 「ごめん。今回、僕等はチケットとか渡されてないんだよね」
 「そうなんだぁ……。じゃあ仕方ないよな。でも、サインとか貰ってくることは出来る?」
 「……よく分からないけど。もし貰えそうなら貰ってくるよ」
 「マジで!?それならこれに」

 そう言うと、彼は持っていたバッグから無地のTシャツを取り出し僕に渡してくる。
 僕は適当にそれを受け取る。

 なぜ彼がそんなものを持っていたのかは知らない。
 こうなる展開を予想していたと考えるよりも、運動部か何かに所属しているのだと考えるのが自然かな?
 彼の事を良く知らないので……。

 「出来たらで良いけど、お願い」
 「うん」

 そう言うと彼は去っていった。

 どこが情報源かは知らない。
 宮田か姉御が有力だが、そんな事はどうでも良かったからだ。
 しかし、その後にも似た様な事が数回あったので、サミットというバンドは本当に有名なバンドなんだという事を理解した。


 今までに感じたことの無い優越感。
 まるで自分が有名人になったかの様な錯覚。

 当然、今までの僕からしたら相当な有名人にはなったのだろうが……。
 だが、それは僕を調子に乗せるには十分だった。

 そう、僕は浮かれていたんだと思う……。


  ◇  ◇  ◇


 寮に帰った僕は今日の出来事を池上に話した。

 「まさか、そんなに噂になるとは思って無かったよ。サミットっていうバンドがそこまで凄いバンドだとは思ってなかった」
 「今更何言ってんだよ。本当に何も知らないで今回のライブ受けたのか?」
 「うん、日本のインディーズって聴いてこなかったから」
 「じゃ、リフターのことも本当に知らないのか?」
 「うん」
 「はぁ……。なんでそうなるのかなぁ……」

 呆れた感じの池上。

 「どういうこと?」
 「リフターはこの辺では一番有名なライブハウスだし、出たいって言って出られるもんでもないんだ。ノルマ高いし。普通の高校生じゃ、まず出られない場所なんだ」
 「池上とかでも無理なの?」
 「当然。今じゃまだまだ手が届かない。そりゃ、すげぇ金があれば別だけどな」
 「そうなんだ……」

 それを聞いて急に緊張感が高まった。
 池上でも手の届かない場所、そこに僕等は立つ事になる。
 これは多分凄い事だ。
 今まで実感の湧かなかった凄さを理解出来てきた感じだ。
 思わず笑みがこぼれてしまう。


 「僕、ちょっと出掛ける」
 「あぁ?今からか?」
 「うん」

 俄然やる気が出てきた。

 ベースを持って部屋を出て、木田に電話をかける。
 目的はもちろん新曲作りだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

命のその先で、また会いましょう

春野 安芸
青春
【死んだら美少女が迎えてくれました。せっかくなので死後の世界を旅します】    彼――――煌司が目覚めた場所は、果てしなく続く草原だった。  風に揺れて金色に光る草々が揺れる不思議な場所。稲穂でもなく黄金草でもない。現実に存在するとは思えないような不思議な場所。  腕を抓っても何も感じない。痛覚も何もない空間。それはさながら夢のよう。  夢と思っても目覚めることはできない。まさに永久の牢獄。  彼はそんな世界に降り立っていた。  そんな時、彼の前に一人の少女が現れる。  不思議な空間としてはやけに俗世的なピンクと青のメッシュの髪を持つ少女、祈愛  訳知り顔な彼女は俺を迎え入れるように告げる。 「君はついさっき、頭をぶつけて死んじゃったんだもん」  突如として突きつけられる"死"という言葉。煌司は信じられない世界に戸惑いつつも魂が集まる不思議な世界を旅していく。   死者と出会い、成長し、これまで知らなかった真実に直面した時、彼はたどり着いた先で選択を迫られる。  このまま輪廻の輪に入って成仏するか、それとも――――

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

呪いの交響劇

S man
青春
20世紀も中盤に差し掛かった混沌とした時代の中で、1人の少女は2人の姉と友人たちと楽しく平凡に暮らしていた。 「あれ」と出会うまでは...

処理中です...