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しおりを挟む『元気ですか?皆で一緒にバンドやってますか?ひょっとして、プロになってたりする?それは流石に無いか。そもそもバンドやってるかも分からない。でも、そうじゃなかったとしても皆で仲良く、楽しくやってるよね?それだけは変わってないと信じてる』
「はは……」
もう、悲しいとか虚しいとか、そんな事も通り越して、ただただ笑えて来た。
僕は持っていた封筒を落とす。
不思議そうに僕を見る松木。
僕も松木を見て、歪に崩れた表情で笑っていた気がする。
松木に新田の手紙を開いた状態で渡そうと手を伸ばした。
松木は怪訝な表情まま手紙を受け取る。
「何で僕は生きてるんだろうな?」
頭で考える事無く、心から出てきた言葉だった気がする。
新田の手紙を読んだであろう松木は、その場に膝を着いた。
松木は涙を流す。
傍から見たらさぞ不気味な光景だろう。
おっさん二人が山中で、一人は膝を着いて泣き崩れ、一人は薄笑いを浮かべている。
不気味としか表現しようが無い。
そして、不細工だ。
……そう、僕の人生は出来が悪く不細工だ。
多くの人がそうなのかもしれないけれど、それに立ち向かったり、目を背けながら生きている。
友人の死が絡んだ事で、少しでも美化し、特別なものにしようとしていた自分に落胆させられたのも確かだ。
結局の所、夢を諦め、目標を失い、何となくうだつの上がらない毎日を、ただ生きているだけなのだ。
それが僕の現状。
何をする気も無く、何か起こせる気もしない。
そこを理解しながら、納得できずにいる……。
でも、それの何が悪い!?
そう……生きてんだよっ。
生きていれば……なんて言葉は大嫌いだ。
楽しい事なんてそんなに無い、殆ど無いと言っていい。
それどころか辛い事の方が圧倒的に多い。
僕はまだ現実に何か期待しているのだろうか?
新田は現実に絶望したから死んだのか?
それは、僕等に絶望したって事なのか?
恨めしさからでも、何でもいい。
時期を考えて出てきてくれ。
僕は呪い殺されてもいい。
徹底的に討論してやるさ……何を考えて自殺なんて選んだのかを。
そんな事すらも起きてくれない現実を、理解しているからこその考えなのかも知れないが、僕は教えて欲しかった。
死ってどんな事なのか?そして、生きてるってどんな事なのかを……。
既に自分の考えている事すら纏まらない。
混乱している。
分かっているのは、十五年前の新田が望んでいたのは『皆で笑って昔を語り合える』そんな未来だったという事だけだ。
壊した張本人がそんな事望むなよっ!!という怒りが込み上げてきていた。
新田を苦しめていたものの正体が”現実”なのか?それとも”僕等”だったのか……?
僕には何も分からない、そう分からないんだ……。
もし僕等なら、殴ってくれ、全力で。
僕も心を込めて殴り返すから……。
死を選んだ事への怒りを込めて。
僕は放心状態で立ち尽くしていたのだが、思わず……本当に思わず、口に出してしまった。
「……僕を、殴ってくれ」
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