特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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終章

第62話 終章

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『そうよ!またきっと!会おうね!ランちゃん』 

『ああ、ぜってー会いに来るからな!』 

 画面の中の白い魔法少女と赤い魔法少女。小夏とランがそう叫びながら次元を超えていく。小夏の肩に手を乗せるサラ。一人涙をぬぐうかなめ。そしてFINの文字が躍る。

「なんだか……全然内容違うじゃないですか」 

 全身タイツのマジックプリンスの格好で誠はラストのシーンを呆然と見つめる。

「そうねえ、まあプロのことだからこうなるんじゃないのかなあって思ってたんだけど……」 

 伊達眼鏡で先生風のアメリアは自分に言い聞かせるようにそう言った。そして映写機の隣でガッツポーズをしているだろう新藤の顔を思い出す。

「良いんじゃねえの?受けてるみたいだしさ」 

 魔法少女と呼ぶにはごてごてしたコスチューム。それ以前に少女と呼べない姿のかなめが明るくなった観客席で伸びをしているアメリアの知り合い達を眺めていた。

「そうだな、アメリアの友達が切れたら大変だからな」 

 そう言うカウラだが隣に立っているサラは微妙な表情をしていた。途中で帰る客をさばいていたパーラも引きつった笑みを浮かべている。

「それにしてもなんでこんなに空席が?始まった時はもっと埋まっていたような……」 

 かえでの言葉に青ざめるサラとパーラ。

「かえでちゃん……人にはそれぞれ趣味や嗜好があって……」 

「本当に楽しいのか?これが」 

 かえではごてごて飾りつけられた格好を見せびらかす。誠はその言葉でアメリアのこめかみがひくつき始めたのを見逃さなかった。

「よう!良く仕上がったろ?」 

 映写室から出てきた新藤が満面の笑みでアメリアを見下ろす。明らかにアメリアと新藤が昨日見た状態と違っていたのは間違いない。誠は二人の一触即発の雰囲気に逃げ出したい気分になった。

「そうね、さすがは新藤さんですね……」 

 アメリアの言葉が怒りで震えている。そこに突然女の子が入ってきてアメリアの髪を引っ張る。

「小夏!ちょっと!」 

 アメリアは慌ててまとわりついてきた小夏を振りほどく。

「もっとかっこよくならなかったのかなー!」 

 小夏はそう言って先ほどまでスクリーンに映っていた格好で杖をアメリアに構える。

「それは新藤さんに言ってよ。私は知らないわよ!」 

 逃げ出そうとするアメリアだが、楽屋の入り口には赤い魔法少女ランの姿があった。

「クラウゼ……テメー!あれじゃあアタシはまんま餓鬼じゃねーか……それに最後は……」 

 追い詰められたアメリア。新藤の画像処理で小夏と最終決戦を前にディープキスをすると言う展開。当然それを知らないランと小夏は怒りの視線をアメリアに向けていた。

「知らないわよ!あれは新藤さんが!」 

「良い身分だな」 

 すっかりアメリアを追い詰めたことに新藤は満足そうにほくそ笑む。誠は自業自得とは言えアメリアに同情の視線を送った。

「ったく……元気だねえ」 

「隊長」 

 ぬるい調子の声に誠が振り向くと、まだ嵯峨は大鎧を身に着けたまま控え室に腰をかけていた。

「いたんですか?」 

「いたよ?いちゃわるいのか?」 

 そう言いながら大鎧姿で缶コーヒーを飲む嵯峨の姿は実にシュールに見えた。

「あれ、叔父貴の指示か?小夏とランのラブストーリー……」 

「あのなあ、俺がそんな指示出すと思うか?こいつの独走だ」 

 そう言って嵯峨が新藤を指す。

「だってマニア向けにしろって言ったのは……」 

「知らない、聞こえない」 

 新藤の言い訳に嵯峨は耳をふさぐ。

「きっかけはやはり隊長じゃないですか」 

 誠の言葉に嵯峨は困った顔をする。

「そんな顔したって無駄だよなー」 

「うん!」 

 恐る恐る嵯峨が振り返るとそこには小夏とランが立っていた。

「俺はマニアックにしろって言っただけで……」 

「聞く耳持たねえよ!」 

「問答無用!」 

 そうして二人で嵯峨の兜を杖でぽかぽか殴る。

「馬鹿!コイツに傷ついたら!」 

 嵯峨はそう言うと立ち上がって逃げる。それを追いかけるラン。急な展開についていけなかった誠だが、さすがに止めようと思って立ち上がる。

 フロアーを逃げたはずの嵯峨を追って出た誠。そこには地味な服を着た集団に囲まれて立ち止まって助けを求めるような視線を送るランがいた。

「君……かわいいね……写真を一枚」 

「あのーサインはしてもらえますか?」 

「出来ればラストの台詞を……」 

 怪しげな一団が携帯端末を手にランを取り囲んでいる。

「はいはーい。うちの娘に手を出さないでねー!順番で写真撮影を……」 

「馬鹿野郎!」 

 その場を仕切ろうとしていたアメリアにランは思い切り延髄斬りを食らわせた。

「なによ!せっかく助けてあげたのに」 

「助けるだ?オメー……。助けるってのは違うだろうが!」 

 怒鳴り声を響かせはじめたランとアメリアにさすがの観客も引き気味にそれを眺める。

「今度こそは……」 

「なんなんですか?」 

 エントランスホールの片隅で隠れているつもりらしい嵯峨に誠が声をかけた。

「いきなり話しかけるなよ。俺は気が弱いんだから」 

「冗談はそれくらいにしたほうがいいでしょう」 

 誠の後ろからの声に覗き込む嵯峨。そこには笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていない春子がいた。

「ああ、お春さん」 

「お春さんは無いんじゃないですか?あんまりクラウゼさんをいじめてるとしっぺ返しを食らっても知りませんよ」 

 そう言われて落ち込んだように嵯峨は下を向く。

「だってさ、この上映にかかる費用とかは確かに市が持っていてくれてるけどさあ、製作までにこいつ等が馬鹿やったり宣伝とか言ってあっちこっちに秘匿回線まで使って連絡しまくったりする費用うち持ちなんだぜ」 

「だからと言ってこういうふざけたことは駄目ですよ。ちゃんとあとで新藤を説得してクラウゼに謝罪しましょう」 

 そう言い切る春子にさらに嵯峨が落ち込む。

「でも良いじゃないですか。これの方が面白かったですよ。実際、登場人物の設定には近かったですし」 

 誠の言葉に春子の目が輝く。

「設定なんてあったのか?もしかして衣装とか決めたの神前だからその時クラウゼから何か貰ったんだな!」 

 食いつきの良すぎる春子に誠は慌ててうなづく。

「後で見せてもらうとしてだ。あれどうするんだ?」 

 携帯端末を持った男性陣の前でポーズを取る小夏。相変わらず口げんかを続けるアメリアとラン。それをニヤニヤしながら止めるわけでもなく眺めているカウラ。かなめの姿が見えないのはタバコでも吸いに行ったのだろう。

「隊長!」 

「ラン。落とし前は頼むわ」 

 この状況を収められるのは機動部隊長の『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐しかいなかった。ランは今度はいつもの笑っているとも怒っているともわからない無表情を浮かべて騒いでいる小夏達に向かっていく。

「はいはーい。お楽しみ会はここまで!皆さんお気をつけてお帰りください!」 

 司法局の制服で手を叩きながら近づくランを見て客達はようやく平常を取り戻して出口へと向かう。

「やるもんだなクラウゼ」 

 ランは息を切らしてホールの中央で仁王立ちする。

「小さいくせにやるじゃない」 

 同じようにアメリアは立ち尽くす。

「見てみな、誠ちゃん。友情が芽生える瞬間よ!」 

 サラが近づいてきた誠にそう声をかける。

「やっぱりこいつ等馬鹿だな」 

 カウラのその一言がしみじみと誠の心に染み渡った。


                                                             了
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