特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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宿命の対決

第45話 教室

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『カット!まあ……なんというか……かなめちゃん……』 

「あ?何が言いてえんだ?」 

 手を引いたかなめが明らかに不機嫌そうにつぶやく。

『まあ、良いわ。それじゃあ次のシーンね。今度は私も出るから』 

 次の小夏の中学校の担任役でアメリアが登場する。新藤はテキストで『分かった』と返事を出す。恐らくはかなめの怪演に大笑いをしているんだろう。そう思うと誠はかなめに同情してしまった。

『じゃあ皆さんはご自由にどうぞ……かなめちゃんは自重』 

「うるせえ!」 

 かなめの捨て台詞が響くと素早く周りが暗くなる。そしてしばらくたって再びカメラ目線に誠の視界が固定される。そこには小学校。特に誠には縁の無かったような制服を着た私立の小学校の教室の風景が広がっていた。小夏は元気そうに自分のスカートをめくろうとした男子生徒のズボンを引き摺り下ろす。そして彼とつるんで自分を挑発していた男子生徒達を追いかけ回し始めた。

『小夏ちゃん……』

 あまりにはまる小夏の行動に誠は自然とつぶやいていた。

 チャイムが鳴る。いかにもクラス委員といった眼鏡をかけたお嬢様チックな少女が立ち上がるのを見ると騒いでいた生徒達も一斉に自分の机に戻った。

 その時ドアに思い切り何かがぶつかったような音が響いた。そしてしばらくの沈黙の後、アメリアが額をさすりながらドアを丁寧に開いて教室に入ってくる。

「先生!何したんですか!」 

 先ほど小夏にズボンを下ろされていた男子生徒が指をさして叫ぶ。周りの生徒達もそれに合わせて大きな声で笑い始めた。それが扉を開かずにクラスに入ろうとして額をぶつけた音だと言うのが分かり誠の頬も緩む。

「本当に!みんな意地悪なんだから!」 

 アメリアはしなを作りながらよたよたと教壇に向かう。なぜか眼鏡をかけているのはお約束ということで誠は突っ込まないでいるつもりだった。

「はい!静かに!礼!」 

 委員長の言葉で生徒達は一斉に礼をする。

「着席!」 

 再び生徒達は一糸乱れず席に着いた。大学以外は公立学校で過ごしてきた誠はその光景に少し違和感を感じながら目の前の中学校の教室を見つめていた。アメリアは知識は脳へのプリンティングで得ているはずなので彼女の学校のイメージが良く分かった。それを見て誠はニヤニヤしながらバイザーの中の世界の観察を再開した。

「皆さん!数学の宿題はやってきましたか!」 

「はーい!」 

 元気な中学生達。中央の目立つ席についている小夏も元気に答える。

『やっぱり小夏ちゃん、はまりすぎ!』 

 リアル中学生である小夏の姿に誠は苦笑いを浮かべた。

「そう!みんな元気にお返事できましたね!じゃあ早速これから書く問題をやってもらうわね」 

 そう言ってアメリアは相変わらずなよなよしながら黒板にチョークで数式を書き始めた。

『いまどき黒板は無いだろ!僕の中学校も磁力式モニターだったぞ!』 

 突っ込みたい衝動に駆られる自分を抑えて誠はアメリアの後姿を眺める。

『おい、神前』 

 出番の無いかなめが呼びかけてくる。

『東和もまだ甲武みたいに黒板使ってるのか?』 

『そんなわけ無いじゃないですか!アメリアさんの暴走ですよこれは』 

『ふーん』 

 納得したようにそう言うとかなめは黙り込むめ。10問の数式を書き終えたアメリアは満面の笑みで振り向く。

「じゃあ、この問題を誰にやってもらおうかしら?」 

 アメリアがこう言うと一斉に手を上げる子供達。だが、小夏は身を縮めてじっとしている。

「あら?小夏ちゃんどうしたの?」 

 ポロリとアメリアがそう言うと周りの生徒達が小夏に目を向ける。

「あ!こいつ計算苦手だからな!」 

「そうだよ!南條は数学できないからな!」 

 二人の男の子がそう言って笑う。それを見て怒ったように頬を膨らませた小夏が手を上げる。

「そんなこと無いよ!先生!私を指名してください!」 

 勢いよく立ち上がる小夏にアメリアは困ったような顔をした。

「良いの?本当に」 

「大丈夫です!」 

 そう言うと小夏はそのまま黒板に向かう。背の小さい彼女は見上げるようにして一番最初の数式を見つめた。そしてゆっくりと深呼吸をする。

『あれくらいは解けるだろ?』 

『そうですね』 

 かなめの言葉に誠も余裕を持って小夏の方を眺めた。いわゆる鶴亀算の書かれた黒板の文字を凝視する小夏。彼女はゆっくりとチョークを手に持った。

『まさかな……分からないとか言わねえよな……』 

 小夏の動きが止まったのを見てかなめの口が重くなる。

 しばらく経つ。そしてチョークを手にした腕を持ち上げる。

『大丈夫なんだろうな』 

 小夏は一瞬だけ黒板に触れたがすぐに手を引っ込めた。

『おい!』 

 その姿に誠とかなめは同時に突っ込みを入れていた。

 誠は黒板の前で困った顔をしている小夏を見て問題を読み始めた。答えはすべて5。第一問さえ分かれば他の問題もすべて答えられるものだった。

 だが、小夏は困った顔でアメリアを見つめる。

「あらー南條さん、分からないのかな?」 

 アメリアは冷や汗を流しながらヒロイン南條小夏役の小夏を見つめる。小夏はすぐに隣にあった椅子を指差した。

「先生!届かないからこれを使って良いですか?」 

「良いわよ!」 

 さすがにこの問題が分からないわけが無いだろうとアメリアはほっとしてそれを許可する。小夏はそのままその椅子を運んでくると一番上の問題の下にそれを置く。

 小夏はそのまま問題と見詰め合う。

『5だぞ!その解答は5だぞ!』 

『そんなこと言わなくても小夏ちゃんなら分かる……はず……』 

 小夏と多くの行動を共にしているサラでも小夏のことが心配のようでそのまま小夏に連絡する。小夏はそれを聞いてすべての答えに『5』と言う正解を書き始める。

『あーあ、不自然。これまずいんじゃないですか?』 

 小夏が楽しげに何も考えずにサラの解答を聞いて答えを書いていく有様に誠は呆れる。

『あいつに空気を読めとか言うのは無駄だろ?』 

 かなめはそう言って乾いた笑いを漏らす。そのまま小夏はすべての解答に5と言う数字を書き込むと意気揚々と自分の席に戻った。

「凄いわね小夏ちゃん!全部正解よ!」 

 アメリアは明らかに不自然な小夏の行動をとがめるわけにも行かず歯が浮くような白々しさでそう言ってのけた。

「すげー南條。お前いつ勉強してたんだ?」 

「何よ!あなた達が勝手に思い込んでいただけじゃないの。ねえ、南條さん」 

 明らかに小夏の間違いを期待していた男子に言い返す女子。いかにも中学校の教室の雰囲気が出来上がって誠はなんとか胸をなでおろした。
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