特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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魔法少女

第36話 魔法の始まり

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「うわー!っ退屈だー!」 

 そう言ってかなめが立ち上がるとそのまま誠の後ろに回りこみ首に腕を回しこんで極める。意外にも事務仕事の得意なかなめが手持ち無沙汰なのは分かるが、急にそんなことをされては誠はじたばたと暴れるしかなかった。

「なに!なにすんですか!離して……」 

「つまんねえ!つまんねえよ!」 

 叫ぶかなめを背負いながらかえで達に目をやるが、明らかにかなめを押し付けられるのを恐れて視線を合わせようとしてくれない。

「アメリアさん達のところに行けば良いじゃないですか。僕は仕事を……」 

 誠がそう言うとかなめは気が付いたように誠から手を離した。

「そうか、じゃあちょっと待てよ」 

 そう言うとかなめは首の根元からコードを取り出して誠の端末に差し込む。誠の端末の画面が報告書から見慣れない画面に切り替わった。

「あっ!報告書消えちゃいましたよ!」 

「ああ、後でアタシがやってやるよ……ちょっと時間が……」 

 何度かかなめが瞬きする間にすさまじい勢いで画面が転換されていく。

「これで、行けるは……ず!」 

 そんな掛け声をかけたかなめの前にカウラの顔があった。その目の前には子犬ほどの大きさのどう見ても熊と思われる動物が映っていた。

 モニターに大きく写されるのは小熊のマスコットである。

『すみません!本当に僕こんなことに巻き込んでしまって……』 

 少年の声で話す小熊が画面の中で小夏に謝っていた。周りは電柱は倒れ、木々は裂け、家は倒壊した惨状。どう見ても常識的な魔法少女の戦いのそれとは桁違いの破壊が行われたことを示している。

「おい、なんでこうなったんだ?」 

 かなめがたずねてくるのだが、誠もただ首を振るだけだった。それでも言える事はアメリアはかなりの『上級者』、いわゆる『マニア』向けにこの作品を作ろうとしていることだけは分かった。

『気にしないで大丈夫だよ!』 

「少しは気にしろ!」 

 小夏の台詞にかなめが突っ込む。誠が思わず生暖かい目を彼女に向けるとかなめの後ろには仕事をサボってのぞきに来たアンの姿がそこにあった。

『それより世界の平和がかかっているんでしょ?やるよ!私は』 

「世界の平和の前にこの状況どうにかしろ!」 

 そう言ってかなめは手近な誠の頭を叩く。誠は叩かれたところを抑えながら仕方なく画面を見つめる。

『ありがとうございます。ですが、僕の与える力は三人分あるんです。だから……』 

『じゃあ……そうだ!隣のおねえちゃんに頼みに行こう!』 

 そう言って小熊を抱えると小夏は走り出した。半分町が焦土と化しあちこちにクレーターのある状況を後ろに見ながら彼女は走り続ける。

「おい!この状況は無視か?いいのか?ほっといて!」 

 再びかなめの右手が誠の頭に振り下ろされようとするが、察した誠はそれをかわす。

 画面の中では走っていく小夏の後姿がある。同時にパトカーのサイレンが響き渡る。その画面を見ながらアンが大きくうなづいてみせた。誠は一体なんで彼がうなづくのか首をひねりながら再び画面に目を移した。

 すぐにはかったように場面が切り替わった。そこはやはり誠の実家の一部屋だった。主に剣道の大会で役員の人などを泊めていた客間の一つ。そこに小夏と奇妙な小熊もどきを正座して見つめているのは小夏の家の隣に住んでいる女子大生役のサラだった。

『そうなんだ……大変だったのね、グリン君……』 

「いや、大変とかそう言う問題は良いから。さっきの破壊された町だけでも十分大変なことだから」 

 そう突っ込むかなめが握りこぶしを振り上げるのを誠は察知してかわしにかかるが、今度はそのまま避けた方向にこぶしが曲がってきた。そのまま顔面にぶち当たり、誠は椅子ごと後ろに倒れる。

「おう、大丈夫か?」 

 かなめは何事も無かったかのように誠を見下ろす。仕方なく誠は今後は避けないことを決めて立ち上がる。

『分かったわ!お姉ちゃんも助けてあげる!二人でその機械帝国を倒しましょう!』 

 そう言って隣に住んでいる女子大生役のサラが手を差し出す。その上に小夏が、そしてグリンと名乗った小熊が手を重ねる。

「そう言えばさっき三人そろわないといけないとか言っていたような……」 

 かえでが首をかしげる。

「いえ!こういう展開がいいんです!これぞ上級者向け!どう考えても前後で矛盾している設定!いいなあ、萌えるなあ……」 

 そう言って画面にくっついて見入っている誠にかなめが生暖かい視線を送っていた。

『じゃあ行きます!』 

 小熊は立ち上がると回りに魔方陣を展開する。三角の光の頂点にそれぞれ小夏とサラが引き込まれ光に包まれていく。

『念じてください。救いたい世界のことを!思ってください。守りたい人々のことを』 

 そんな小熊の言葉に誘われるようにして画面が光の中で回転する小夏の姿を捉えた。はじけるようにあまりにも庶民的中学生姿だった小夏の服が消えていく。

「あのさあ、神前。なんで魔法少女はいつもこういう時に裸になるんだ?」 

 画面に集中していた誠の頭を軽く小突きながらかなめがたずねてくる。しかし誠は画面に集中して上の空でうなづくだけだった。

『カラード、サラード、イラード……力よ!集え!』 

 小夏の叫び声に誠は視線を画面にさらに顔を突き出す。そしてさすがに無視するのも限界に来た誠はかなめの質問にはそのままの格好で答えた。

「それは視聴者サービスって言うか……なんとなくかわいらしいと言うか……」 

「このロリコンめ!」 

 かなめがそう言って誠をはたいた目の前で、今度は白いニーソックスとメタリックな靴が小夏のか細い足を包んだ。そしてそのまま腰に広がった白い布のようなものは光を振りまきながら小夏の下半身を覆い、赤い飾りの入ったロングスカートに変わる。

「あれ?神前の絵と比べるとかなり飾りが少なくないか?」 

 そんなかなめの突っ込みを無視して誠は画面をじっと見つめている。そのまま上半身を光が包むと胸のあたりでリボンのようなものが浮かび、それを中心にぴっちりと体を包むアンダーウェアに小夏が覆われる。そして次の瞬間には目の前に浮かんだ杖を手にした小夏がくるくるとバトンの要領でこれを回すと、清潔感のある白に赤い刺繍に飾られたワンピースをまとってポーズをとっていた。

「いい加減無視すんなよな……このポーズの意味はなんなんだ?」 

「お約束です!」 

 力強くこぶしを掲げてそう叫ぶ誠にかなめは思わず一歩引いた。続いて画面の中では今度はサラの変身が行われていた。同じように服がはじけて代わりに青を基調としたドレスとカマのような先を持った杖を振ってサラは同じくポーズをとる。

「なんだよ、サラには変身呪文は無しか?」 

「おかしいですね、アメリアさんの台本では変身呪文は二人とも無かったはずですが……」 

「オメエの突っ込みどころはわかんねえよ!」 

 呆れたようにそう言うとかなめも画面を見つめた。魔方陣が消え、それぞれのコスチュームを身にまとった二人がその自分の姿を確認するように見つめている。

『これであなた達は立派な魔法少女で……』 

 そう言って力尽きる小熊。

「おい、ここで死んじゃうのか?どうすんだよこれから!投げっぱなしか?」 

「いちいちうるさいですよ。西園寺さん!」 

 そんな声に驚いてかなめはアンを見てみた。アンはまじめな顔をして画面に釘付けになっていた。

「おい、アン……」 

「静かに!」 

 アンに注意されてかなめは仕方なく画面に目を移す。その目の前では光を放っている小熊の姿が映し出されていた。次第にその光は収まり手のひらサイズに小さくなった小熊がそこにいた。

『グリン君!』 

 そう言って小夏は小熊を両手で持ち上げた。小熊はゆっくりと目を開く。誠は再びかえでと渡辺に目をやった。そしてそのあまりにも熱中して画面を見つめているアンに恐怖のようなものを感じて誠とかなめはただ黙り込んだ。

『そんな……死んじゃ嫌だよ……』

 そう言う小夏の手の中でグリンは力なく微笑む。

「良い奴ですね!グリンは!まったく……」 

 アンは思わず右手を握り締め目を潤ませる。アンの反応の異常さに思わず誠はかなめを見た。

「まああれだな。ベルルカンは戦争ばっかで子供向けのアニメとか少ないからな」 

「それにしても……」 

呆れながら誠はそのまま画面に目を向けた。

『グリン君!』 

 小夏の声にピクリと手のひらサイズの熊が動いた。そのまま手足を動かし、自分が生きていることに気づくグリン。

『ごめんね小夏。どうやら魔力が何者かに吸収されているみたいなんだ』 

 小熊はそう言うと立ち上がって小夏を見つめる。

『でもそれじゃあ……』 

 不安そうに姉役の小夏と一緒に小夏は小熊を見つめる。

『大丈夫。僕の見立てに間違いは無かったよ。見てごらん、君の姿を!』 

 二人は小夏のものらしい簡素な姿見に自分の姿を映す。

『えー!これかっけー!最高!グッド!イエーイ!』 

 そう言って小夏は何度も決めポーズをとり暴れ回る。さすがのサラもこれには驚いて小夏の頭の上に手を載せる。動けなくなった小夏がじたばたと暴れる様。誠は頷きながらそれを眺めていた。
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