特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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第27話 目覚め

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 誠が意識を取り戻してまず見上げた天井は白く、ただ何も無く白く輝いて見えた。

「大丈夫か?」 

 のぞき込んでいるのは勤務服姿のカウラだった。

「誠さんが起きましたよ」 

 看護師のひよこの声が響く。誠は首に違和感を感じながら起き上がる。いつもかなめやカウラに運ばれてくる自分がひよこにどう思われているかを考えて誠は苦笑いを浮かべる。

「首やっぱり痛みます?」 

 そう言うひよこの表情は諦めにも近い顔をしていた。

「僕は……」 

 誠は飛んできた茶色い巨大な塊に押しつぶされて意識を失ったことを思い出した。

「まあ西園寺さんも悪気があった訳じゃないんですから。まあ当たったのが発泡スチロールの柱ですからあまり威力は無いですし。それにしても誠さんは怪我とか多いですね」 

 ひよこが苦笑いを浮かべながらこぼした。最近わかったことは予算の都合で専任の医師がつかないことが不満のようだった。法術関連の資料の整理など、誠が来る前の体制とは全く異なる勤務に明け暮れるひよこには同情せざるを得なかった。

「湿布は……ここか」 

 カウラは薬品庫を慣れた手つきで開ける。

「映画ですか……楽しみですね」 

 そう言うとひよこは席に戻って書物を開いた。

「そう言えばひよこさんには弟さんもいるんですよね」 

 ワイシャツのボタン外しながら誠はそう言った。子供の話と聞いてひよこは明るい顔をあげた。。

「ええ!作るのは子供向けですよね?」 

 家族の話を振られてひよこがうれしそうに振り向く。

「まあ子供向けというより大きなお友達向けだな」 

 カウラはそう言いながら首をさらけ出す誠のどこに湿布を張るかを決めようとしていた。

「去年のは受けなかったって聞いてますけど……ベルガーさんそんなにひどかったんですか?」 

 ひよこも今年の春から隊の所属になった新人だった。それを見て誠は意を決してカウラにたずねることにした。

「そんなに去年のはひどかったんですか?」 

 追い打ちをかけるようなひよこの問いにカウラの顔が引きつる。乾いた笑いの後、そのまま目をそらして乾いた笑いを浮かべながら口ごもった後、ようやく話し始めた。

「確かに去年の作品はひどかった。我々の任務を映像化したわけだが……」 

「まあつまらなくはなるでしょうね。訓練とかはまだ見てられますけど、東和警察の助っ人とか……もしかして駐車禁止車両の取締りの下請けの仕事とかも撮ったんですか?」 

 誠がそこまで言ったところでカウラはしばらくためらった後、表情を押し殺した顔で誠に言った。

「確かにそれもほんの一瞬映ったが……内容の半分以上を火器管制担当の仕事だけに絞り込んだんだ」 

 誠はしばらくそれが何を意味するかわからずにいた。

「それがどうして……」 

 そう言う誠を見てカウラとひよこは顔を見合わせた。

「連中は小火器管理のを担当しているだろ?そしてうちの部隊の銃器の多くが隊長の家から持ってきた骨董品を使ってるわけだ」 

 そう言ってカウラは腰の拳銃を取り出す。アストラM903。十九世紀末にドイツで開発された拳銃ということは嵯峨から聞かされていた。誠はベッドの横に置かれた勤務服とその隣に下げられた自分のベルトを見てみる。そこにあるのはモーゼルモデルパラベラムピストル。こちらにいたっては二十世紀初頭の名銃、ルガーP08のコピーである。

「銃は動作部品の集合体だ。ちょっとしたバランスで誤作動を起こすからな。弾薬も使用する銃にあわせて調整したものが必要なんだ。特にお前のモーゼルモデルパラベラムはかなり神経質な銃だ。市販品の弾を使おうものなら、かなりの確立で薬莢が割れたり引っかかったりする誤作動を起こすだろうな」 

 カウラはそう言うと誠のモーゼルモデルパラベラムを手に取りマガジンを抜く。手にした弾薬を誠の前に見せ付けた。

「薬莢に傷がありますね」 

 誠の目の前の弾丸の薬莢には引っかいたような跡が見えた。

「ああ、これは一回使用した薬莢を回収して雷管を付け直して再生したものだ。こいつを市販の同じ規格の弾薬で発射したらどうなるかは担当に聞いてくれ」 

 そう言ってカウラは再びマガジンに弾薬を押し込もうとするが、その強すぎるマガジンのスプリングでどうしようもなくなった。カウラはいったん手にした弾丸を誠に渡して力を込めて弾丸を押し、ようやく隙間を作って装弾する。

「もしかしてその弾と炸薬を薬莢に取り付ける作業を……」 

「延々一時間。薬莢に雷管を取り付け、火薬を計って中に敷き詰め、弾丸を押し込んで固定する。それだけの作業を映し続けたんだ」 

 カウラが苦々しげにつぶやいた。確かにそのような映画は見たくは無かった。しかも一応司法局実働部隊の仕事のひとつであることには違いないだけに誠も頭を掻きながら愛想笑いを浮かべるしかなかった。

「で、どれになったんです?ファンタジーとか、弟が好きなんです!」 

「魔法少女ですよ」 

 誠の言葉にひよこの目が点になる。

「クラウゼ少佐のアイディアが通ったんですね?うちは弟はサラさんのロボットものの方がよかったんですが……」 

 ひよこは一言そう言ってため息をついた。カウラは黙ってマガジンをはずした誠の銃を点検している。

「はあ、小夏ちゃんがヒロインでライバルがランさんだとか」 

 誠の言葉にひよこは理解に苦しんでしばらく考える。

「釣り部の連中の中に元映像作家だった人が居たような……本職は傭兵だったらしいですけど」 

 戸惑いながらひよこはそうつぶやいた。

「そんな人がいるんですか?釣り部に?」 

「私も又聞きですけど傭兵だって戦争が無い状態でも暮らしていかなければならないですから。それに命を懸けてる釣りにどれだけの金がかかるか……それなりに稼げる仕事じゃないと生きていけないってことですよ……その人サイボーグらしいですから」 

 カウラが誠の首に湿布を貼るのを見終わるとひよこは再び机の上のポエムノートに目を向けた。

「西園寺さんを放置しておいたら大変ですからもう行っても大丈夫ですよ」 

 ひよこの言葉を背中に受けると誠はすばやく置いてあった勤務服の上着とベルトを手にした。

「あのーカウラさん……」

 誠の一言に納得したようにカウラは白い病室のカーテンを閉める。

「アメリアの馬鹿か……」 

「違うベクトルで見に行きたくなくなる作品になるでしょうな」 

 ひよことカウラが外で愚痴をつぶやいている間にジーパンを脱いで勤務服のスラックスに足を通す。急ぐ必要は無いのだがなぜか誠の手は忙しくチャックを引き上げボタンを留めベルトを通した。そして上着をつっかけて、ガンベルトを巻くと誠はそのままカーテンを押し開けてため息をついているカウラとひよこの前に現れた。

「お大事に」

 そう言うとひよこは机の上の端末に向かって仕事を始めた。誠達はそのまま一礼して医務室を出ると一路実働部隊の詰め所へと向かった。
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