特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
20 / 62
加速する混乱

第20話 劇飲み会

しおりを挟む
「どけ!」 

 そう言うとアンを張り飛ばしたのはかなめだった。そして誠の手のコップに珍しく自分のラム酒でなくビールを注いだ。

「これは飲めるだろ?」 

 かなめは満足げな表情を浮かべる。そして誠がそのビールに目をやると、かなめは背後でビールを持って待機していたカウラを見つめる。カウラは明らかに失敗したと言う表情を浮かべていた。そして今度はかなめはアメリアを見つめた。その様子を横目で伺いながら、パーラ、菰田と言ったこの部屋に通いなれた面々が手際よく皿と箸とグラスを配っていく。

「みんな酒は行き渡ったかしら?」 

 あくまでも仕切ろうとするアメリアにつまらないと言った顔をするかなめは、必要も無いのにそれまでラッパ飲みしていたラム酒をグラスを手にしてなみなみと注いだ。

「えーと。まあどうでもいいや!とりあえず乾杯!」 

 アメリアのいい加減な音頭に乗って部屋中の隊員が乾杯を叫ぶ。

「まあぐっとやれよ。どうせ次がつかえてるんだろ?アンには悪いが順番と言うものがあってな」 

 かなめはニヤニヤと笑いながらグラスを開けるべくビールを喉に流し込んでいる誠を見つめる。そしてその隣にはいつの間にかビール瓶を持って次に誠に勺をしようと待ち構えるアメリアが居た。

「はい!誠ちゃん」 

 アメリアは誠の空になったグラスにビールを差し出す。

「オメー等……またこいつを潰す気か?」 

 本当に酒を飲んでいいのかと言いたくなるようなあどけない面立ちのランがうまそうにビールを飲みながらそう言った。見た目は幼く見えるが誠が知る限りランはここにいる女性士官では一番の年配者である。

「良いんですよ!こいつはおもちゃだから、アタシ等の!」 

 そう言い切ってかなめはそばに置かれていた唐辛子の赤に染まったピザを切り分け始める。

「マジで勘弁してくださいよ……」 

 かなめとアメリアに注がれたビールで顔が赤くなるのを感じながらそう言った誠の視界の中で、ビールの瓶を持ったまま躊躇しているエメラルドグリーンの瞳が揺れた。二人の目が合う。カウラは少し上目遣いに誠を見つめる。そしてそのままおどおどと瓶を引き戻そうとした。

「カウラさん。飲みますよ!僕は!」 

 そう言って誠はカウラに空のコップを差し出した。誠が困ったような瞳のカウラを拒めるわけが無かった。ポニーテールの髪を揺らして笑顔で誠のコップにビールを注ぐカウラ。その後ろのアンは喜び勇んでビールの瓶を持ち上げるが、その顔面にかなめの蹴りが入りそのまま壁際に叩きつけられる。

「西園寺!」 

 すぐに振り返ったカウラが叫ぶ。かなめはまるで何事も無かったかのように自分のグラスの中のラム酒を飲み干していた。かなめも手加減をしていたようでアンは後頭部をさすりながら手にしたビール瓶が無事なのを確認している。

「西園寺。オメーはなあ……やりすぎなんだよ!」 

 ランはそう言うとかなめの頭を叩いた。倒れたアンにサラとパーラが駆け寄る。

「大丈夫?痛くない?」 

「ひどいな、西園寺大尉は」 

 パーラに介抱されるアンに差し入れを運んできた男性隊員から嫉妬に満ちた視線が送られている。誠はこの状況で自分に火の粉がかかるいつものパターンを思い出し、手酌でビールを注ぎ始めた。

「お姉さま。僕も今回はやっぱりかなめお姉さまが悪いと思います!アン、大丈夫そうだな」 

「そうですね」 

 自分の味方になると思っていたかえでとリンが敵に回ったのを見てかなめは表情を曇らせた。かなめはいらだちながら再びラム酒の瓶をあおった。

「よく飲むなあ……少しは味わえよ」 

「うるせえ!餓鬼に意見されるほど落ちちゃいねえよ!」 

 ランから文句を言われているかなめだが、そっと彼女は切り分けたピザを誠に渡した。

「あ、ありがとうございます」 

「礼なんて言うなよ。そのうちオメエが暴れだして踏んだりしたらもったいないからあげただけだ」 

 そう言うかなめの肩にアメリアが手を寄せてうなづいている。その瞳はすばらしい光景に出会った人のように感嘆に満ちたものだった。

「なんだよ!」 

「グッジョブ!」 

 思い切り良く親指を立てるアメリアにかなめはただそのタレ目で不思議そうな視線を送っていた。

「ったく何がグッジョブだよ」 

 誠は苦笑いを浮かべて注がれたビールを飲み干した。明らかに部隊で根を詰めて絵を描き続けてきた反動か、意識がいつもよりもすばやく立ち去ろうとしているのを感じる。そして誠はそのままふらふらとカウラを見つめる。その目は完全に据わっていた。カウラも少しばかり引き気味に誠を見つめる。ランは誠に哀れみの視線を送っていた。

「あーあ、なんだか顔が赤いわよ。誠ちゃんいつものストレスが出てきたのね」 

 アメリアはラム酒をラッパ飲みしているかなめを見つめてため息をつく。

「なんだよ、そのため息は。アタシになんか文句あるのか?」 

「ここにいる全員が西園寺の飲み方に文句があるんじゃねーのか?」 

 開き直るかなめに突き刺さるようなランの一言。かなめは周りに助けを求めるが、いつもは彼女の言うことにはすべてに賛成するかえでもアンの介抱をしながら責める様な視線を送ってくる。

「ああ、いいもんね!私切れちゃったもんね!神前!こいつを飲め!」 

 そう言うとかなめは手にしたラム酒をビールだけで半分出来上がった誠の半開きの口にねじ込んだ。ばたばたと手を振って抵抗する誠だが、相手は軍用の義体のサイボーグである。次第に抵抗するのを止めて喉を鳴らして酒を飲み始めた。

「あっ、間接キッス!」 

 突然そう言ったのはアメリアだった。意外な人物からの意外な一言にうろたえたかなめは瓶を誠の口から引き抜いた。そのまま目を回したように誠は倒れこむ。その顔は真っ赤に染まり、瞳は焦点を定めることもできず、ふらふらとうごめいている。

「馬鹿野郎!神前を殺す気か?ちょっと起こせ!」 

 蛮行もここまで来るといじめだった。そう思ったランは手にしていたコップを置くと顔色を変えて誠に飛びついた。そしてそのまま口に手を突っ込んで酒を吐かせようとするが、誠は抵抗して口を開こうとしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...