特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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戦いの記録

第16話 鉄火場

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「やっぱり誠ちゃんね。仕事が早くて……」 

「クラウゼ少佐!」 

 叫んだのは菰田だった。アメリアは呼ばれてそのまま奥のモニターを監視している菰田の隣に行く。

「予想通り来ましたよ、サラさんの陣営の合体ロボの変形シーンの動画……ここまでリアルに仕上げるとは……こりゃあメカニカルのアドバイスを島田がしてますね」 

 菰田はそう言って頭を掻く。アメリアは渋い表情で画像の中で激しく動き回るメカの動画を見つめていた。

「メカだけで勝てると思っていたら大間違いと言いたいところだけど……あちらには情報将校共がいるからねえ。それにああ見えてサラは結構かわいい衣装のデザインとか得意だから……」 

「あちらはサラさんですか」 

 下書きの仕上げに入りながら誠が口を開く。そこに描かれた魔法少女の絵にカウラは釘付けになっていた。アメリアのデザインに比べて垢抜けてそれでいてかわいらしい小夏の衣装にかなめと誠の押さえ役という立場も忘れてカウラは惹きつけられている。

「でもまあ、合体ロボだとパイロットのユニフォームとかしか見るとこねえんじゃないのか?」 

 そう言ったかなめの顔を見てアメリアは呆れたように首を振る。

「あなたは何も知らないのね。設定によっては悲劇のサイボーグレディーとか機械化された女性敵幹部とか情報戦に特化したメカオペレーターとかいろいろ登場人物のバリエーションが……」 

「おい、アメリア。それ全部アタシに役が振られそうなキャラばかりじゃねえか!」 

 かなめはそう言ってアメリアの襟首をつかみあげる。

「え?気のせいじゃないの?それにアタシの頭ではこっちの作品の構想は全部できているんだから」 

 得意げに胸を張るアメリアにかなめは頭を抱える。

「オメエのことだからもうすでに設定とかキャスティングとか済ませてそうだな、教えろよ……さっきのは却下な。悲劇のヒロインなんかやらねえからな」 

 かなめは半分あきらめながらつぶやいた。だが、アメリアはかなめの手を払いのけて襟の辺りを直すと再び誠の隣に立つ。

「やっぱりいつ見ても仕事が早いわよねえ。この杖、やっぱり色は金色なの?」 

 アメリアは会議机の中央に箱ごと並んでいたドリンク剤のふたをひねると誠の隣に置いた。夏コミの時と同じく誠はその瓶を右手に取るとそのまま利き手の左手で作業を続けながらドリンク剤を飲み干した。

「ちょっと敵役の少女と絡めたデザインにしたいですから。当然こちらの小さい子の杖は銀色でまとめるつもりですよ」 

 ドリンク剤を飲み干すと、誠は手前に置かれたアメリアのラフの一番上にあった少女の絵を指差した。
 
「これってもしかして……」 

「ああ、それはクバルカ中佐よ。あの目つきの悪さとか、しゃべり口調とか……凄く萌えるでしょ?」 

 アメリアに同意を求められたカウラは理解できないというように首をひねった。誠の作業している隣ではかえでとリンがアメリアが作ったキャラクターの設定を面白そうに眺めていた。

「あの餓鬼が役を受けると思うのか?」 

 散々アメリアの書いたキャラクターの設定資料を見ながら笑っていたかなめが急にまじめそうな顔を作ってアメリアを見つめる。

「ええ、大丈夫だと思うわよ。ああ見えてランちゃんは部下思いだから」 

 アメリアは断言口調でそう答えた。

「部下思い?まあな……姐御は義理がたいのが売りだからな」

 そう言うとかなめは腹を抱えて笑い始めた。タレ目の端から涙を流し、今にもテーブルを殴りつけそうなかなめの勢いに作業を続けていた誠も手を止める。

「あのちびさあ……見た目は確かに餓鬼だけどさ。クソ生意気で目つきが悪くて手が早くて……それでいて中身はオヤジ!あんな奴が画面に出ても画面が汚れるだけだって……」 

 腹を抱えて床を見ながら笑い続けるかなめが目の前に新しい人物の細い足を見つけて笑いを止めた。

 かなめは静かに視線を上げていく、明らかに華奢でそれほど長くない足。だが、それも細い腰周りを考えれば当然と言えた、さらに視線を上げていくかなめはすぐに鋭い殺意を帯びたつり目と幼く見える顔に行き当たった。

「で、ガキで生意気で目つきが悪くて手が早くて中身がオヤジなアタシが画面に出るとどうなるか教えてくれよ」 

 その人物、ランはかなめを睨みつけながらそう言った。かなめはそのままゆっくりと立ち上がり、膝について埃を払い、そして静かに椅子に座る。

「ああ、誠とかが仕事をしやすいようにお茶でも入れてくる人間がいるな。じゃあアタシが……」 

 ランはそう言って立ち上がろうとするかなめの襟首をつかんで締め上げる。

「でけー面してるな西園寺。悪いがアタシはさらに付け加えて気が短けーんだ。このまま往復びんた30発とボディーブロー30発で勘弁してやるけどいいか?」 

 かなめを締め上げるランの顔の笑みが思わずこの騒ぎを見つけた誠を恐れさせる。

「顔はやめて!アタシは女優よ!」 

「お約束のギャグを言うんじゃねーよ!」 

 そう言ってその場にかなめを引き倒したランだが、さすがにアメリアとカウラが彼女を引き剥がす。

「じゃあさっき言ってたな、茶を入れてくれるって。とっとと頼むわ」 

 そう倒れたかなめに言いつけるとランは誠の隣に座った。騒動が治まったのを知ってどたばたを観察していた隊員達もそれぞれの仕事に戻った。

「でもすげーよな」 

 気分を変えようとランは誠の絵に集中するさまを感動のまなざしで見つめている。誠は今度は小夏の使い魔の小さな熊のデザインを始めていた。

「こんなの誰が考えたんだ?」 

 ランはそう言いながら後ろに立つアメリアに目を向ける。だが、彼女は振り返ったことを若干後悔した。明らかに敵意を目に指を鳴らすアメリア。強気な彼女がひるんだ様子で手にしたラフを落としてアメリアを見上げている。

「あのー……そのなんだ……」 

「中佐。ここでは私は『監督』とか『先生』と呼んでいただきたいですね。それと常に私に敬意を払うことがここでのルールですわ」 

「おっ……おう。そうなのか?」 

 言い知れぬ迫力に気おされたランが周りに助けを求めるように視線を走らせる。だが、この部屋にいる面子は先月配属になったかえでとリン以外は夏と冬のフェスのアメリアによる大動員に引っかかって地獄を見た面々である。彼等がランに手を貸すことなどありえないことだった。

 明らかにランは戸惑っていた。それは誠にとっては珍しくないがランには初めて見る本気のアメリアの顔を見たからだった。明らかに気おされて落ち着かない様子で回りに助けを求めるように視線をさまよわせる。

「ちょっとクラウゼ少佐。見てくださいよ」 

 ようやくランを哀れに思ったのか、菰田はそう言うと会議室の中央の立体画像モニタを起動させた。そこには5台の戦闘マシンの図が示されていた。それぞれオリジナルカラーで塗装され、すばやく変形して合体する。

「ほう、これは島田君がサラに妥協したわね……兵器は構造が単純なのが良いんだってのが彼の思想だから」 

「妥協ねえ……」 

 真剣にそのメカを見つめているアメリアに冷めた視線のカウラがつぶやいた。そもそも合理的な思考の持ち主であるカウラには合体の意味そのものがわからなかった。アメリアや誠の『合体・変形はロマンだ!』と言い出して司法局の運用している05式の発売されたばかりのプラモデルの改造プランを立てる様子についていけない彼女にはまるで理解の出来ない映像だった。

「リアリズムとロマンの融合は難しいものなのよ。たとえば……」 

「はい!お茶!」 

 演説を始めようとするアメリアの後頭部にかなめがポットをぶつける。振り向いたアメリアだが、かなめはまるで知らないと言うように手を振るとテーブルにポットと急須などのお茶セットを置いた。

「とりあえず先生に入れてあげて!」 

 アメリアの視線の先には首をひねりながら小夏の役の魔法少女の服装を考えている誠がいた。

「そんなに根つめるなよ。アレだろアメリア。とりあえずキャラの画像を作ってそれで広報活動をして、その意見を反映させて本格的な設定を作るんだろ?」 

 そう言ったかなめの手をアメリアは握り締めた。

「かなめちゃん!あなたはやればできる子だったのね!」 

 そのまま号泣しそうなアメリアにくっつかれてかなめは気味悪そうな表情を浮かべる。カウラは黙ってお茶セットで茶を入れ始めた。
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