特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
15 / 62
戦いの記録

第15話 キャラデザイン

しおりを挟む
「ごめんね!神前君、カウラ。アメリアがどうしてもって……」 

 通信主任、パーラ・ラビロフ大尉。いつものように姉貴分のアメリアの暴走を止められなかったことをわびるように頭を下げる。

「それより……菰田。オメエが何でこっちの陣営なんだ?」 

 かなめはパーラの後ろにいる菰田に声をかけた。

「いやあ、あちらは居心地が悪くて……」 

 そう言い訳する菰田だが、アメリアとつるむとカウラに会えるという下心が誠達には一目で分かった。

「どこで遊んでるんだ?アメリアは」 

 カウラの言葉にパーラは隊長室の隣の会議室を指差した。三人はパーラと菰田について会議室に向かう。会議室の重い扉を開けるとそこは選挙対策委員会のような雰囲気だった。

 何台もの端末に運行部のアメリアお気に入りの女性オペレーターが張り付き、携帯端末での電話攻勢が行われている。

「なんだ、選挙事務所みたいで面白そうじゃねえか」 

 そう言ってかなめはホワイトボードに東和の地図を書いたものを見ているアメリアに歩み寄った。

「やはり向こうの情報将校さんは手が早いわね。東部軍管区はほぼ掌握されたわね。中央でがんばってみるけど……ああ、来てたの?」 

「来てたの?じゃねえよ。くだらねえことで呼び出しやがって!」 

 あっさりとしているアメリアにかなめが毒づく。カウラも二人の前にあるボードを見ていた。

「相手は電子戦のプロだけあって情報管理はお手の物……かなり劣勢だな。何か策はあるのか?」 

 そう言うカウラを無視してアメリアは誠の両肩に手をのせて見つめる。そんなアメリアに頬を染める誠だった。そんな中アメリアはいかにも悔しそうな顔でつぶやいた。

「残念だけどやっぱり誠ちゃんはヒロインにはなれないわね」 

「あのー、そもそもなりたくないんですけど」 

 誠はそう言うと頭を掻いた。そしてすぐにアメリアはパーラが手にしているラフを誠に手渡す。そこにはどう見てもサラらしい少女の絵が描かれている。だが、その魔法少女らしい杖やマントは誠にはあまりにシンプルに見えた。

「これは誰ですか?ちょっと地味ですね」

「小夏ちゃんよ」

 誠の問いにアメリアはあっさりと答えた。

「うちの行事にあのガキを巻き込むのか?」

「良いじゃないの……町おこしの為よ」

 平然とそう言ってのけるアメリアにかなめは呆れたような表情を浮かべていた。 

 そう言った誠に目を光らせるのはアメリアだった。

「アメリアさんが描いたんですか……いまいちパッとしないですね」

 絵が得意な誠だけあってあっさりとそう言ってのけたのをアメリアは見逃さなかった。

「でしょ?私が描いてみたんだけどちょっと上手くいかないのよ。そこで先生のお力をお借りしたいと……」

 誠の魂に火がついた瞬間だった。痛々しい誇りが誠の絵師魂に火をつける。

「アメリアさん。当然他のキャラクターの設定もできているんでしょうね!」 

 そう言いながら誠は腕をまくる。ブリッジクルーがまるで待っていたかのように宿直室から持ってきた誠専用の漫画執筆用のセットを準備する。

「当然よ!キャラはメインの五人以外も端役までばっちり設定ができてるわよ。あちらがインフラ面で圧倒しようとするならこちらはソフト面で相手を凌駕すれば良いだけのことだわ!」 

 そう言ってアメリアは高笑いした。こういうお祭りごとが大好きなかなめはすでに机の上にあった機密と書かれた書類を見つけて眺め始めた。

「仮題『魔法少女隊マジカルなっちゃん』?戦隊モノなのか魔法少女ものなのかはっきりしろよ」 

「だってせっかく誠ちゃんに協力をお願いするんだもの……少しは妥協してあげないと」

 アメリアはそう言って笑う。かなめは黙って設定資料を読み進めた。だがすぐに開いたページで手を止めて凍てつく視線でアメリアを見つめた。

「おい、アメリア。なんだこれは」 

 片目の魔女のような姿の女性のラフ画像をかなめはアメリアに見せ付ける。

「ああ、それはかなめちゃんの役だから。当然最後は誠ちゃんと恋に落ちてかばって死ぬ予定なんだけど……」 

 何事もないように言うアメリアにかなめはさらに苛立ちはじめた。

「おい、なんでアタシがこいつと恋に落ちるんだ?それに死ぬって!アタシはかませ犬かなにかか?」 

「よく分かったわね。死に行く気高き騎士キャプテンシルバーの魂がヒロインなっちゃんの魂に乗り移り……」 

「お姉様が死ぬのか!そのようなもの認めるわけには行かない!」 

 背後で机を叩く音がしてアメリアとかなめも振り返った。

 そこにはかえでとリンが立っている。かえではそのままアメリアの前に立つとかなめの姿が描かれたラフを見てすぐに本を閉じた。

「あのー、かえでちゃん。これはお話だから……」 

 かえではなだめようとするアメリアの襟首をつかんで引き寄せる。かえではそのまま頬を赤らめてアメリアの耳元でささやく。

「この衣装。作ってくれないか?僕も着たいんだ」 

 その突然の言葉に再びかなめが凍りついた。誠はただそんな後ろの騒動を一瞥すると小夏が演じることになるヒロインの杖のデザインがひらめいてそのままペンを走らせた。

「かえでちゃん!」 

 濡れた視線でかえでを見つめていたアメリアがそう叫んでがっちりとかえでの手を握り締めた。

「その思い受け止めたわ!でも今回は二時間までって決まってるし……かえでちゃんの出番はあまり出番作れそうにないわね」 

「おい!今回ってことは二回目もあるのか?」 

 かなめが呆れながらはき捨てるように口走る。そんなかなめを無視してアメリアはヒロイン、デザインを始めている誠の手元を覗き込んだ。その誠の意識はすでにひらめきの中にあった。次第にその輪郭を見せつつあるキャラットなっちゃんの姿にアメリアは満面の笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...