特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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戦いの記録

第14話 仁義なき戦い

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「退屈だねえ」 

 そう言って肩をくるくるとまわすかなめにランの視線が注いがれている。

「なら先週の山崎での道路の陥没事故の報告書あげてくれよ。転落したトレーラーを引き上げるどころか神前はしくじって一緒に落ちやがって。05式を稼働状態に持ってくのに時間いくらかかると思ってんだ?ナビしてたオメーの責任でもあんだぞ」 

 ランの小言に振り向いたかなめが愛想笑いを浮かべている。

「おい、神前。豊川東警察署から届いた調査書はお前のフォルダーに入れてあったんだよな」 

 そう言いながらかなめは端末をいじる。明らかにやる気が無いのはいつものことだった。誠は仕方なく自分の端末を操作してフォルダーのセキュリティーを解除した。

「サンキュー」 

 言葉とは裏腹にかなめの表情は冴えないものだった。カウラのかなめに向ける視線が厳しくなっているのを見て、誠はまたいつもの低レベルな口喧嘩が始まるのかと思ってうつむいた。

「諸君!おはよう!」 

 妙に上機嫌にサラが扉を開く。その後ろに続く技術部の情報将校は明らかにサラに何かの作業を頼まれたと言うような感じで口笛を吹きながら自分の席につく。

「何かいいことでもあったのか?さっきは端末のぞいたと思えば飛び出して行きやがって」 

「アメリアに続いてオメエ等まで馬鹿なこと始めたんじゃねえだろうな」 

 五分も経たずに書類作成に飽きたかなめがカウラに目を向ける。そんなかなめを見つめるカウラの視線がさらに厳しいものになるのを見て誠はどうやれば二人の喧嘩に巻き込まれずに済むかということを考え始めた。

 そんな中、乱暴に部屋の扉が開かれた。

 駆け込んできたのはアメリアだった。自慢の紺色の長い髪が乱れているが、そんなことは気にせずつかつかとサラのところまで進んできて思い切りその机を叩いた。

「どういうこと!」 

 アメリアのサラに向けるすさまじい剣幕に口げんかの準備をしていたかなめが目を向けた。その様子を見たサラはにんまりと笑みを浮かべた。

「何で在遼州アメリカ軍からサラ支持の大量の投票があったかって聞いてるの!」 

 アメリアの言葉に部屋は沈黙に包まれた。呆れるかなめ。カウラは馬鹿馬鹿しいと言うように自分の仕事に集中する。ランは頭を抱え、サラはにんまりと笑みを浮かべていた。

「別に……あっそうだ。うちはいつでもアメリカさんの仮想敵だからな。きっと東和の新兵器開発については関心があるんじゃないかしら?」 

 表情も変えずにそう言うサラの隣に立っていた技術部の情報将校の大尉に再びアメリアが机を叩いた。部屋の奥のかえでと渡辺が何をしているのかと心配するように視線をアメリアに向ける。

「怒ることじゃねえだろうが。ったく……」 

 そこまで言ったかなめだが珍しく真剣な表情のアメリアが顔を近づけてくると、あわてたように机に伏せた。

「よくって?この豊川に基地を置く以上は皆さんに愛される司法局になる必要があるのよ!だからこうして真剣に市からの要請にこたえているんじゃないの!当然愛される……」 

「こいつを女装させると市役所から褒められるのか?」 

 カウラが誠を指さしながらつぶやいた。何気ない一言だが、こういうことに口を出すことの少ないカウラの言葉だけにアメリアは一歩引いてカウラの顔を見つめながら乱れていた紺色の長い髪を整えた。

「そうだ!マニアックなのは駄目なんだ!」 

「かなめちゃんに言われたくないわよ!」 

 アメリアの後ろでふんぞり返っているサラに誠はなんで矛先が向かないのか不思議に思いながらこの光景を眺めていた。

「オメー等!いい加減にしろ!」 

 かなめと同じくらい短気なランが机を叩く。その音を聞いてようやくアメリアとサラは静かになった。

「あのなあ、仕事中はちゃんと仕事してくれ。特にアメリア。オメーは一応佐官だろ?それに運行艦と言う名称だが、『ふさ』は一応クラスは巡洋艦級。その艦長なんだぞ。部下も抱えている身だ。それなりに自覚をしてくれよ」 

 そう言うとランは再び端末の画面に目を移した。

「まあ、いいわ。つまり票が多ければいいんでしょ?それと……このままだと際限なく票が膨らむから範囲を決めましょう。とりあえず範囲は東和国内に限定しましょうよ」 

「はい。それで行きましょう」 

 アメリアとサラを囲む情報将校はお互いにらみ合ってから分かれた。サラは偉そうにふんぞり返りながらアメリアについて去っていく。

「何やってんだか」 

 呆れたように一言つぶやくとランは再びその小さな手に合わせた特注のキーボードを叩き始めた。

『心配するなよ。オメーの女装はアタシも見たくねーからな』 

 誠の端末のモニターにランからの伝言が表示される。振り向いた誠にランが軽く手をあげていた。

「なんだか面白くなってきたな」 

 そう言って始末書の用紙を取り出したかなめがサラに目を向ける。

「おい、賭けしねえか?」 

 誠の脇を手にしたボールペンでつついてきたかなめが小声で誠に話しかけてくる。

「そんなことして大丈夫ですか?」 

「大丈夫な訳ないだろうが!」 

 当然誠をいつでも監視しているカウラはそう叫んだ。だが、それも扉を開いて入ってきた嵯峨の言葉に打ち消された。

「はい!サラが勝つかアメリアが勝つか。どう読む!一口百円からでやってるよ」 

 メモ帳を右手に、左手にはビニール袋に入った小銭を持った嵯峨が大声で宣伝を始める。

「じゃあ、サラに10口行くかな」 

 そう言ってかなめは財布を取り出そうとする。ランは当然厳しい視線でメモ帳に印をつけている嵯峨を見つめていた。

「ちょっと……隊長。話が……」 

 帳面を手に出て行こうとする嵯峨の肩にランは背伸びをして手を伸ばす。

「ああ、お前もやるんだ……」 

 嵯峨がそこまで言ったところでランは嵯峨から帳面を取り上げて出て行く。さすがの嵯峨もこれには頭を掻きながら付いていくしかなかった。

「じゃあここに本部を置くわね……技術部の部屋だとサラが邪魔するから」

 再びの沈黙だが主のいないかえでの席を当然のように占拠してアメリアが端末で何か作業をしているのが誠にも見えた。

「ふっふっふ……。はっはっは!」 

 アメリアが挑発的な高笑いをした。

『昼食の時にミーティングがしたいからカウラちゃんを連れてきてね。ああ、かなめちゃんは要らないわよ』 

「誰が要らないだ!馬鹿野郎!」 

 隣から身を乗り出して誠の端末の画面を覗き込んでいたかなめが突然叫んだ。その大声に呆然とするかえでと渡辺。隣で新聞を見ていたアンもかなめの顔をのぞき見ていた。

「もういーや。お前等も好きにしろよ!」 

 嵯峨を引き連れて戻ってきたランは諦めたようにそう言った。そとでピースサインをした嵯峨が帳面を手に戻っていく。その様子を見ていらだったような表情を浮かべていたかなめの顔色が明るくなった。

「それってさぼっても……」 

「さぼってってはっきり言うんじゃねーよ。どうせ仕事にならねーんだからアメリアと悪巧みでも何でもしてろ!」 

 そう言ってランは端末の前に陣取ると報告書の整理を再開する。かなめはすぐさま首にあるジャックにコードを挿して何かの情報を送信した後、立ち上がっていかにも悪そうな視線をカウラに送る。思わずカウラは助けを求めるようにランを見つめていた。

「クラウゼの呼び出しか?ベルガー、ついてってくれよ。こいつ等ほっとくとなにすっかわかんねーからな」 

 カウラは大きくため息をついてうなだれた。かなめとカウラは席を立った。かなめの恫喝するような視線に誠も付き合って立ち上がる。表を見た三人の目にドアの脇からサラが中を覗き込んでいるのが見えてくる。かなめが派手にドアを開いてみせるとサラが誠達に詫びを入れるように手を合わせた。
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