特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』

橋本 直

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もとをただせば

第9話 配布

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「そう言えば今度、二人新人が配属になるって本当か?」 

 カウラはそれとなくアメリアに声をかけてみる。だが、アメリアはどうでもいいというようにそのまま歩いていく。

「技術部だろ?まーこの前実家の稼業を継ぐって言うんで辞めた隊員が居たからな。その補充だろ」 

 かなめのその言葉に興味を失ったアメリアは隣の自分の机のある運行班の詰め所に向かおうとする。

「何しているのよ!」 

 部屋から顔を出すアメリアにかなめは愛想笑いを浮かべる。彼女は廊下で突っ立っているカウラの肩を叩きながら部屋に入った。実働部隊の次に階級の高い将校が多いことと、部員の全員が女性と言うこともあり、かなり落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 誠は良く考えればこの部屋には大き目の机があり、その持ち主が誰かと言うことは一目で分かる。机の上には同人誌やフィギュアが正確な距離を保って並んでいる。その主の几帳面さと趣味に傾ける情熱が見て取れた。

 アメリアは自分の席に特に仕事になるようなものが無いことを確認する。

「ご苦労様ねえ。じゃあ私も手伝うわね、配るの」 

 そう言って誠の手のプリントをパーラ・ラビロフ大尉は取り上げようとする。

「いいわよパーラ、そんなに気を使わなくても」 

 そう言ってアメリアは作り笑いを浮かべているパーラを座らせようとする。

「そう?別にたいしたことじゃないから手伝ってあげても……」 

 残念そうに机に座ると、パーラが入れたばかりの日本茶を運んでくる。

「それじゃあお茶くらい飲んで行かない?誠君達にこういうことばかりさせてるのも悪いし」 

 その言葉にこの部隊には稀な常識人であるパーラは苦笑いを浮かべた。

「別に気を使わなくても……」 

 カウラはそう言いながら誠の後頭部を叩く。それがお前も同意しろと言う意味なのもわかってきた誠も手を大きく振る。

「そんな気を使わせるなんて悪いですよ。それに管理部とか配るところが結構ありますから」 

「大変ねえ。がんばってね!」 

 そう言うパーラにかなめがアンケート用紙を渡す。そして愛想笑いを浮かべつつパーラに頭を下げる誠を残してアメリアとかなめ、そしてカウラは廊下へと退散した。

「じゃあ、あとは上の機動部隊と管理部だけね」 

 そう言いながらアメリアは意気揚々と階段を上がる。

「そう言えばよう。ここの階段上がるの久しぶりだな」 

 かなめがそんなことを口にした。日中とはいえ電気の消された北側の階段には人の気配も無く、初冬の風が冷たく流れている。

「私は時々上るぞ。まあ確かに出勤の時は直接ハンガーに顔を出すのが習慣になっているからな、私達は」 

 カウラもうなづきながらひやりとするような空気が流れる寒色系に染められた階段を上る。彼女達の言うように、誠もこの階段を上ることはほとんど無かった。上がればすぐ更衣室であり、本来ならそれなりに使うはずの階段だった。この階段の前の正面玄関のそばにカウラのスポーツカーが毎朝止まるのだから、それで通う誠とかなめ、そしてカウラとアメリアにとって駐車場から更衣室にはこちらを使う方がはるかに近道だった。だがなぜか誠達はここを通ることは無かった。

「まあ、それだけ整備の人達とのコミュニケーションが取れているから良いんじゃないの?そう言えば私も誠ちゃんの家にお世話になるようになってからだわね、整備のメンバーの顔と名前が一致するようになったの」 

「神前の家じゃねえだろ!ありゃ元は司法局実働部隊の男子寮だ」 

 アメリアはかなめの突っ込みを無視しながら階段を上りきり、踊り場の前に張られたポスターを見る。

『ストップ!喫煙!ニコチンがあなたの心臓を!』 

 そう書かれたポスターとその隣の扉。じっとアメリアがかなめを見たのはかなめのヘビースモーカー振りを非難してのことなのだろう。かなめはまるっきり無視すると言う構えで誠のうち腿に軽く蹴りを入れる振りをしている。

呆れた表情を浮かべるカウラに苦笑いを浮かべながら誠達は男女の更衣室が並ぶ廊下へとたどり着いた。
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