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心変わり
第68話 熱意と翻意
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「来たんすね」
本部のアサルト・モジュールハンガーに真新しい05式が固定されていた。その前で整列していた整備班員の前に立っていた島田がそう言って誠達を迎えた。
「これが、オメエの05式特戦乙型だ」
無理やり腕を引っ張られてきた誠は右腕のしびれを気にしながらオリーブドラブの東和陸軍標準色に染め上げられた機体を見上げた。
「05式のハニカム装甲は法術増幅装置の増幅システムを挟み込むためのもんだったんですね……師匠に言われて初めてわかりましたよ」
島田は感慨深げに05式特戦乙型を見上げた。
「そうだ。05式は大型で重装甲だが、それゆえに多少の追加機材を載せる余裕がある。そこでこいつがうちの正式機材になったわけ」
「西園寺さん……知ってたんですか?」
島田はニヤニヤ笑いながらかなめに目を向ける。かなめはわざとらしく咳ばらいをした。
「さっき叔父貴に聞いた」
「へー」
二人の雑談を聞きながら誠は目の前の鉄の巨人を見上げた。
「これが……僕の機体になるはずだった……」
「なるんだよ!これはオメエの機体だ!アタシが決めた!」
「西園寺さんの権限じゃ無いでしょ?」
明らかに一人突っ走っているかなめに島田が茶々を入れる。
「どうだ?気に入ったか?」
誠は突然背後から声をかけられて驚いて振り返った。
そこには嵯峨とランが立っていた。
「別にいいんだぜ。うちを出て行っても。それもまた人生さ。こいつには俺が乗れば済むことだ」
嵯峨はそう言うとそのまま巨人の足元に歩いていった。
「それじゃあ困るんじゃないですか?あの、『廃帝ハド』とか言う悪い奴を倒すのに」
誠はそう言うが嵯峨は誠を一瞥しただけでその足元を撫で続けていた。
「うちの戦術のパターンは減るが。仕方ねーだろうな。他に適当なパイロットも来ねーだろうからな……それに『廃帝ハド』が悪い奴かどうかは分かんねーだろ?」
ランは少しうつむきながらそう言った。
「でも『力あるものの支配する世界』っておかしくないですか?」
誠はランの言葉にそう言って抵抗して見せた。
「そうか?どんな世の中でも実力のある人間が上に立つのは当然の話だ。奴は『力があるのに虐げられている遼州人』に希望を与えることになる……まあ、結果として力のない地球人がどーなるかは奴が天下を取ってから決まる話だろうがな」
頭を掻きながら答えるランに誠は黙ってうなづいた。
そんな二人の間に嵯峨が割って入った。
「俺は思うんだ……力はね、責任なの」
「責任?」
誠は嵯峨の言葉の意味も分からずオウム返しで言葉を繰り返す。
「そう、責任。力があってそれを生かそうと思ったらその力に責任を持って正しく使わなきゃいけないんだよ。あれだ、神前よ。お前さんは自動車免許持ってんだろ?」
「ええまあ」
突然話を振られた誠はあいまいにそう答えた。
「免許を持ったら道路交通法に従わなきゃならない。事故を起こしたら罪に問われる。それが力と責任の関係だね……俺達、遼州人の持つ力もそうだと思うんだ……力は権利じゃない、それを乱用する人間は罰せられなければならない……だから俺達、『特殊な部隊』は武装警察官なんだよ」
そうはっきりと言った嵯峨の瞳はいつものたるみ切ったそれとはまるで違う鋭さを帯びていた。
「じゃあ、僕が残れば……」
誠は自分専用の機体を目にして少し心を動かされていた。
「そりゃあ歓迎するさ。お前さんが最後のうちの希望だあ。うちの『特殊な部隊』っていう汚名を返上する機会をくれる救世主になるかもしれないねえ」
それとない嵯峨の言葉に誠の心は決まった。
「僕は残ります!」
誠の叫び声を聞くと嵯峨は少し困ったような顔をした。
「本当にいいの?色々面倒なことさせられるし……場合によっては『人殺し』をするかもしれない」
「人殺し?」
嵯峨の言葉に誠はひるんだ。
「そうだ。こいつは兵器なんだよ。兵器は人を殺してなんぼ。だから、こいつを動かすってことは最悪人が死ぬ……それでもいいのか?その覚悟はあるのか?」
いつもの『駄目人間』ではない、『大人の男』の顔がそこにあった。
「それで……平和が守れるなら」
誠の心はいつの間にか決まっていた。
「いいんだな?後悔しても知らないぞ」
嵯峨はしっかりとした口調でそう言った。誠は静かにうなづいた。
本部のアサルト・モジュールハンガーに真新しい05式が固定されていた。その前で整列していた整備班員の前に立っていた島田がそう言って誠達を迎えた。
「これが、オメエの05式特戦乙型だ」
無理やり腕を引っ張られてきた誠は右腕のしびれを気にしながらオリーブドラブの東和陸軍標準色に染め上げられた機体を見上げた。
「05式のハニカム装甲は法術増幅装置の増幅システムを挟み込むためのもんだったんですね……師匠に言われて初めてわかりましたよ」
島田は感慨深げに05式特戦乙型を見上げた。
「そうだ。05式は大型で重装甲だが、それゆえに多少の追加機材を載せる余裕がある。そこでこいつがうちの正式機材になったわけ」
「西園寺さん……知ってたんですか?」
島田はニヤニヤ笑いながらかなめに目を向ける。かなめはわざとらしく咳ばらいをした。
「さっき叔父貴に聞いた」
「へー」
二人の雑談を聞きながら誠は目の前の鉄の巨人を見上げた。
「これが……僕の機体になるはずだった……」
「なるんだよ!これはオメエの機体だ!アタシが決めた!」
「西園寺さんの権限じゃ無いでしょ?」
明らかに一人突っ走っているかなめに島田が茶々を入れる。
「どうだ?気に入ったか?」
誠は突然背後から声をかけられて驚いて振り返った。
そこには嵯峨とランが立っていた。
「別にいいんだぜ。うちを出て行っても。それもまた人生さ。こいつには俺が乗れば済むことだ」
嵯峨はそう言うとそのまま巨人の足元に歩いていった。
「それじゃあ困るんじゃないですか?あの、『廃帝ハド』とか言う悪い奴を倒すのに」
誠はそう言うが嵯峨は誠を一瞥しただけでその足元を撫で続けていた。
「うちの戦術のパターンは減るが。仕方ねーだろうな。他に適当なパイロットも来ねーだろうからな……それに『廃帝ハド』が悪い奴かどうかは分かんねーだろ?」
ランは少しうつむきながらそう言った。
「でも『力あるものの支配する世界』っておかしくないですか?」
誠はランの言葉にそう言って抵抗して見せた。
「そうか?どんな世の中でも実力のある人間が上に立つのは当然の話だ。奴は『力があるのに虐げられている遼州人』に希望を与えることになる……まあ、結果として力のない地球人がどーなるかは奴が天下を取ってから決まる話だろうがな」
頭を掻きながら答えるランに誠は黙ってうなづいた。
そんな二人の間に嵯峨が割って入った。
「俺は思うんだ……力はね、責任なの」
「責任?」
誠は嵯峨の言葉の意味も分からずオウム返しで言葉を繰り返す。
「そう、責任。力があってそれを生かそうと思ったらその力に責任を持って正しく使わなきゃいけないんだよ。あれだ、神前よ。お前さんは自動車免許持ってんだろ?」
「ええまあ」
突然話を振られた誠はあいまいにそう答えた。
「免許を持ったら道路交通法に従わなきゃならない。事故を起こしたら罪に問われる。それが力と責任の関係だね……俺達、遼州人の持つ力もそうだと思うんだ……力は権利じゃない、それを乱用する人間は罰せられなければならない……だから俺達、『特殊な部隊』は武装警察官なんだよ」
そうはっきりと言った嵯峨の瞳はいつものたるみ切ったそれとはまるで違う鋭さを帯びていた。
「じゃあ、僕が残れば……」
誠は自分専用の機体を目にして少し心を動かされていた。
「そりゃあ歓迎するさ。お前さんが最後のうちの希望だあ。うちの『特殊な部隊』っていう汚名を返上する機会をくれる救世主になるかもしれないねえ」
それとない嵯峨の言葉に誠の心は決まった。
「僕は残ります!」
誠の叫び声を聞くと嵯峨は少し困ったような顔をした。
「本当にいいの?色々面倒なことさせられるし……場合によっては『人殺し』をするかもしれない」
「人殺し?」
嵯峨の言葉に誠はひるんだ。
「そうだ。こいつは兵器なんだよ。兵器は人を殺してなんぼ。だから、こいつを動かすってことは最悪人が死ぬ……それでもいいのか?その覚悟はあるのか?」
いつもの『駄目人間』ではない、『大人の男』の顔がそこにあった。
「それで……平和が守れるなら」
誠の心はいつの間にか決まっていた。
「いいんだな?後悔しても知らないぞ」
嵯峨はしっかりとした口調でそう言った。誠は静かにうなづいた。
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