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『特殊な部隊』の真実

第59話 たどり着いたアジト

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 押さえつけられた姿のままで、車が何度となく加速したり止まったりすることを感じながら、誠はじっとしていた。車の頻繁な加減速から、誠は豊川の田舎町から東都の都心部に連れてこられたのかと、まるで他人事のように考えていた。

「着いたぞ。とりあえずしっかりと目隠しをさせてもらうぞ」 

 先ほどの男はそういう誠の顔にさらに布の袋をかぶせた。

『このまま見殺しかよ。あの『特殊な部隊』から解放されるのか……『死体』として』 

 そんな言葉が脳裏に浮かんでは消えた。

 空調の効いた車内から袋を頭にかぶせられたまま誠は降ろされた。生ぬるい空気と耳に響く喧噪けんそう。東都の都心部のどこかと言うことは推測ができた。跳ね返りの熱で全身から汗が噴出す。そんな誠に声をかける人はいない。

 初めて誠は恐怖と言うものを心の奥から感じた。

 彼等は自分を殺すのだろうか?さっきの口振りでは、すぐに殺すということはないはずだ。そう思う誠はとりあえず状況を確認しようとするが、布でさえぎられた視野のため、足元の崩れかけた階段以外誠の目に入ってくるものはない。男達は誠を両脇で挟みつけたまま、時折小声でやり取りをしながら誠を小突きつつ階段を登った。

 男達の誠を前へ進めるために小突く動作が止まった。袋をかぶされて見えないが、建物のドアを空けようと言うらしい。

 開いたドアから冷気が漏れる。空調は効いているらしい。誠が後ろで扉が閉まるのを感じたところで袋が頭からはずされた。

 廃墟のようなビルだった。埃だらけのフロアー。階段の隣に割れたスナックの看板が残っているところから見て、かつては雑居ビルだった廃墟に連れ込まれたことはわかった。

「お客さんだ。頼むぜ」 

 背広の男が奥に向かって怒鳴ると、腰に拳銃をつるした若いポロシャツの男と紫のワイシャツに紺色のスラックスをはいた中年の男が、手錠を持って部屋から現れた。

「しばらくここでじっとしていてくれよ」 

 初めに誠に拳銃を突きつけた男が、銃口を誠に向けたまま二人に誠を押さえさせる。男達はにやけた笑いを浮かべながら誠の両腕を後ろに回して手錠をかけて、階段に向けて誠を突き飛ばした。

「そのまま上がれ」

 そう言われて誠はアロハの若い男に続いて階段を登った。

「なんでこんな俺が野郎の世話しなきゃならないんすか?」 

 ポロシャツの男はそう言いながら二階に上がったところで誠のふくらはぎを蹴飛ばした。

 誠はそのままバランスを崩すが、今度は髪の毛を紫のワイシャツの男に引っ張られて直立させられる。誠が古びた全面ガラスのかつてのスナックのドアの中を見ると、男達がテーブルの上に酒瓶を並べて談笑しているのが見えた。

「ちょろちょろよそ見するんじゃねえ!」 

 再びポロシャツの男が誠の襟元をつかむと三階に向かう階段に誠を引き立てていく。急に冷気が薄くなり、コンクリートの熱せられた香りが誠の鼻をついた。

 人気の無い三階のフロアーを素通りして四階に向かう階段に誠は引き立てられた。

 むせるような熱気とうなりを上げる冷房の室外機の音ばかりが誠の鼓膜の中に刻み込まれた。

 四階は事務所の跡のようで廊下に連れ込まれた誠の前に三つの扉が目に入った。銃を突きつけている背広の男はそのまま一番奥のドアを開けて、中に誠を蹴りこんだ。

 誠は転がされたまま静かに周りを見回した。

 小さな小窓から日差しが入っているところから見て、それほど時間がたっているわけではないようだった。遠くで車の走る音がすることが、少しばかり誠に安心感を与えた。そしてじっと室内を見る。

「どうなるんだろうなあ?」 

 誠は不安を紛らわすために、自分で声を出してそう言った。

 司法局実働部隊の隊員の誘拐略取。それなりの武装をしている彼等は、自分達で今すぐ誠をどうこうするつもりは無いようだった。

 誠の誘拐を依頼した『クライアント』に誠の身を引き渡すまでは、彼等は誠の身の安全は保障してくれるだろう。それまでは自分の命がなくなることない。

 それから先は……、誠は考えるのをやめた。その方が賢明だろうというくらいの理性は、まだ彼に残っていた。

 手錠が手首に食い込んで痛む。そんな彼を無視するかのように、誠を監視している男の鼻歌が誠の耳にも届いていた。

 部屋に転がっている体を起こした。そして自分が誘拐される理由を考えてみた。司法局への意趣返しの線はなかった。それならそのまま車を山沿いにでも向けて林道で誠を殺していることだろう。その方が証拠が残らずに済む。

 『クライアント』がテロリストや非合法の武装組織ならば、東和の司法組織に身柄を拘束された同志の解放を求める為という線も無いではないが、同盟直属のまだ実績の無い司法機関の隊員を交換のカードに使う意味が誠にはわからなかった。

 誠はそこまで考えてみたが結論は出ない。そのまま高い格子戸からさしてくる光を見ながら誠はとりあえず体を休めようと横になろうとした。
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