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不幸な『出会い』
第53話 すべてを失った遼州人
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「肩が痛い……。誠ちゃん今度の訓練の時はストック伸ばした方がいいわよ。肩がいたくなるけど腕への負担はかなーり違うから」
本部の『運航部』の部長席に『特殊な部隊』の運行艦『ふさ』艦長が座っていた。
アメリア・クラウゼ少佐は肩をさすりながら腕の筋肉痛で頬を引きつらせているまことを糸目で眺めた。
誠から見ても結構、美女である。身長は180㎝を超えるほどデカイ。そして、異様に目が細かった。
「アメリアさん。それ最初に行ってください」
誠は本心からそう思った。本部の『運航部』の大きな部屋は、彼女に言わせれば自分の『城』らしい。部屋の女子部員は隣の運航部のシミュレーションルームで訓練でもしているのか、誰一人いなかった。
「まあ、誠ちゃんはうちの草野球のエースとして秋から頑張ってもらわなきゃならないんだから……そこだけは期待しているわよ」
「そこだけってなんですか……もうちょっと期待してくれてもいいじゃないですか」
誠の反論にアメリアはあざ笑うような微笑みを浮かべる。
「期待ねえ……この東都共和国の世界を見てごらんなさいよ。世界が望んだように進むなんて幻想なんじゃない?」
アメリアの言葉で誠は我に返った。
「確かに……2600年代にガソリンエンジン車が走ってるなんて……地球の人達が知ったら卒倒するでしょうけど……そんなの石油が沢山とれるし、人口も地球よりはるかに少ないんだから当然じゃないですか?」
誠は理系脳だった。
彼の常識からしてみればSFの空を飛ぶ自動車など完全に架空のものに見えた。
第一、彼自身が普通に四輪自動車の運転すらまともにできないのである。空を飛ぶ飛行自動車の制御など選ばれたエリートしかできないのは全く持って当たり前の話なのである。
免許が出なければ、いくら重力制御装置で空を飛べる飛行自動車が実現しようが普及するはずもない。当然東和共和国には飛行自動車など販売の予定も無かった。
アメリアは完全に笑顔で細い目をさらに補足しながら突然咳払いをした。
誠の現実逃避へのぎりぎりの状態で奇妙な変化が起きた。
誠の視界の中でアメリアの表情が急にまともな人間に見えた。そして、彼女の糸目が少し開かれ、紺色の瞳が見えた。
『目の錯覚かな……』
誠がそう思った次の瞬間、アメリアは語り始めた。
「まあ、ふざけるのはこれくらいにして……誠ちゃんもうちの隊員なんだから」
急にアメリアの纏っていた雰囲気が変わっていた。そこには少し悲しげにほほ笑む美女の姿があった。
「私が知っていることを話すわね。一応、『部長』だから、知ってるわけなの。内容が誠ちゃんには、理解できるかどうか分からないけど」
そう言うアメリアは先程までの『芸人』とは別の顔で話し始めた。
「すべては『悲しい出会い』から始まったの。地球人の調査隊の持っていた『銃』と、『リャオ』を自称していたここ植民第24番星系、第三惑星『遼州』の『遼州人』が出会ったこと。その大地の下に『金鉱脈』が埋まっていたことがすべての始まり」
誠はそこで地球人による『リャオ』への一方的『人間狩り』が行われたことを思い出した。
「遼州人はすべてを地球の文明人達の『欲望』によって奪われた。言語は失われ、文字を持たない遼州人は『未開人教化』と言う名のもとに地球圏に『管理』された。地球圏の人は……おそらくそんな私達から見た『真実』なんて知らないわよ。自分達は遼州人に良いことばかりしたと思ってる。『未開人』に『文明』を教えたと威張ってるんじゃない?」
アメリアの言葉に誠は違和感を感じた。遼州に地球人が到達してから『遼帝国』独立までの20年の歴史は誠の知識の中では、完全に『空白』になっていた。
本部の『運航部』の部長席に『特殊な部隊』の運行艦『ふさ』艦長が座っていた。
アメリア・クラウゼ少佐は肩をさすりながら腕の筋肉痛で頬を引きつらせているまことを糸目で眺めた。
誠から見ても結構、美女である。身長は180㎝を超えるほどデカイ。そして、異様に目が細かった。
「アメリアさん。それ最初に行ってください」
誠は本心からそう思った。本部の『運航部』の大きな部屋は、彼女に言わせれば自分の『城』らしい。部屋の女子部員は隣の運航部のシミュレーションルームで訓練でもしているのか、誰一人いなかった。
「まあ、誠ちゃんはうちの草野球のエースとして秋から頑張ってもらわなきゃならないんだから……そこだけは期待しているわよ」
「そこだけってなんですか……もうちょっと期待してくれてもいいじゃないですか」
誠の反論にアメリアはあざ笑うような微笑みを浮かべる。
「期待ねえ……この東都共和国の世界を見てごらんなさいよ。世界が望んだように進むなんて幻想なんじゃない?」
アメリアの言葉で誠は我に返った。
「確かに……2600年代にガソリンエンジン車が走ってるなんて……地球の人達が知ったら卒倒するでしょうけど……そんなの石油が沢山とれるし、人口も地球よりはるかに少ないんだから当然じゃないですか?」
誠は理系脳だった。
彼の常識からしてみればSFの空を飛ぶ自動車など完全に架空のものに見えた。
第一、彼自身が普通に四輪自動車の運転すらまともにできないのである。空を飛ぶ飛行自動車の制御など選ばれたエリートしかできないのは全く持って当たり前の話なのである。
免許が出なければ、いくら重力制御装置で空を飛べる飛行自動車が実現しようが普及するはずもない。当然東和共和国には飛行自動車など販売の予定も無かった。
アメリアは完全に笑顔で細い目をさらに補足しながら突然咳払いをした。
誠の現実逃避へのぎりぎりの状態で奇妙な変化が起きた。
誠の視界の中でアメリアの表情が急にまともな人間に見えた。そして、彼女の糸目が少し開かれ、紺色の瞳が見えた。
『目の錯覚かな……』
誠がそう思った次の瞬間、アメリアは語り始めた。
「まあ、ふざけるのはこれくらいにして……誠ちゃんもうちの隊員なんだから」
急にアメリアの纏っていた雰囲気が変わっていた。そこには少し悲しげにほほ笑む美女の姿があった。
「私が知っていることを話すわね。一応、『部長』だから、知ってるわけなの。内容が誠ちゃんには、理解できるかどうか分からないけど」
そう言うアメリアは先程までの『芸人』とは別の顔で話し始めた。
「すべては『悲しい出会い』から始まったの。地球人の調査隊の持っていた『銃』と、『リャオ』を自称していたここ植民第24番星系、第三惑星『遼州』の『遼州人』が出会ったこと。その大地の下に『金鉱脈』が埋まっていたことがすべての始まり」
誠はそこで地球人による『リャオ』への一方的『人間狩り』が行われたことを思い出した。
「遼州人はすべてを地球の文明人達の『欲望』によって奪われた。言語は失われ、文字を持たない遼州人は『未開人教化』と言う名のもとに地球圏に『管理』された。地球圏の人は……おそらくそんな私達から見た『真実』なんて知らないわよ。自分達は遼州人に良いことばかりしたと思ってる。『未開人』に『文明』を教えたと威張ってるんじゃない?」
アメリアの言葉に誠は違和感を感じた。遼州に地球人が到達してから『遼帝国』独立までの20年の歴史は誠の知識の中では、完全に『空白』になっていた。
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