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銃と女
第49話 グロックG44
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「待たせたな。二人とも、銃は」
かなめは台車を押して射場に現れた。イヤレシーバーをつけて待っていた誠、カウラ、アメリアはなんとも複雑な表情で彼女を迎える。
「一番狙撃手だかなんだか知らないけど、なんで銃の訓練だけそんなに必死になるのかしら」
アメリアは不服そうにそう言うと腰についているホルスターを叩いた。
「普段から銃を持ち歩いているのは貴様くらいだ」
そう言うカウラは大きめの木製のホルスターを左わきに下げていた。
「じゃあ、やろうかね」
そう言うとかなめは台車を射場のカウンタにつける。
「西園寺さんは……イヤレシーバーは?」
「アタシの身体は軍用義体だからな。必要ねえよ」
かなめはそう言うと台車に置かれた段ボールをカウンターに置いた。
誠も久しぶりの実弾訓練に興奮しながら彼女を見守っていた。
「じゃあ、これ」
かなめはそう言って誠に拳銃を手渡した。
「見たことがあるような……無いような……なんです?この銃。明らかにグリップの下に変なのが付いているんですけど……」
誠が受け取った銃は角ばった印象のスライドと明らかに後付けのグリップの下のプラスチック部品が目に付く黒い銃だった。
「『グロック』……ディスカウントストアーで大特価とかで売ってるそうだ、一部の国では」
カウラの言葉に誠はこけそうになった。
「『グロック』……なんか聞いたことがありますけど……地球の銃ですか?」
手渡された小ぶりの印象の銃を誠は握りしめた。そして、そのグリップの下の延長部分が誠の大きな手に合わせて延長されたものだと感じてかなめの満足そうな顔を見た。
「うちは20世紀末前後の銃を使うんだわ。その時期にもう銃の可能性は出尽くしてんの。もうそれから500年経つわけだけど、そっから後の銃はみんな『小改良』程度だな。素材を変えてみたり、口径を変えてみたり、いろいろあるけど結局性能的には大差ないんだわ。せいぜい製造工程が進化したんでコストが下がったのが時代が下ったおかげなんだけど……そんなら市場に溢れてる中古の銃を買った方が安いからな」
そう言って誠が軽く握っている銃にかなめが手をやる。
「グロッグの利点は『馬鹿でも撃てる』し『左利きでも撃ちやすい』ってところかな?手動の安全装置がトリガーについてるから、セフティーのことを考えずに撃てるし、スライドストップも左手用のがついてるから右利き左利き関係なく撃てる。まあ、撃ってみな」
かなめはそう言うと射場の向こう側に目をやった。
25メートルくらい先に鉄板の的が置いてあった。かなりくたびれていて的を描いていたペンキが剥げて銀色の地肌がむき出しになっている。
「あのー、あれじゃあ当たったかどうかわからないと思うんですけど……」
それとなく尋ねる誠を見てかなめ達三人は大きくため息をついた。
「あのなあ。オメエに精密射撃なんて期待してねえの。それにだ。拳銃で25メートル確実に当てれば立派なもんだよ」
あきらめたようなかなめの言葉を聞いてカチンときた誠は仕方なく銃口を的に向けた。
「じゃあ撃て」
かなめの合図で誠は引き金を引いた。
何も起きなかった。
「誠ちゃん……弾が入ってないんじゃない?」
アメリアが呆れたようにそう言った。
誠は慌ててマガジンを抜くがそこには銀の弾頭と金色の細い薬莢が入っていた。
「貴様……素人か?薬室に弾を装填しなければ弾は出ない!リボルバーじゃないんだからな!」
今度はカウラがそう言って誠の頭をはたいた。
「はー……慣れないもので」
軍人失格の一言を吐いて誠はマガジンをグリップに刺して素早くスライドを引いて弾を装填した。
ゆっくりと銃口を的に向け、静かに引き金を引く。
『パン!』
軽い反動とともに弾が発射された。弾はそのまま的の左側を通過していった。
「当たらねえのかよ……」
かなめが吐き捨てるようにそう言うのを聞きながら誠は引き金を続けて二回引いた。
『パン!パン!』
反動はパイロット養成課程で撃った東和宇宙軍制式拳銃のそれよりもはるかに軽かった。
「撃ちやすいですね、この銃」
二発とも的を外したものの誠はとりあえず大外れでは無かったので笑顔で三人に向き直った。
「やはり、22口径で正解だな」
「これじゃあ9パラなんて撃った日にはカウラちゃん達の後頭部が吹き飛ぶわね」
カウラとアメリアまでも完全に軽蔑の視線で誠を見つめていた。
「22口径?なんですそれ?」
誠はそう言って銃に詳しそうなかなめに目をやった。
「こいつは『グロックG44』って言う22口径ロングライフル弾用の拳銃なんだよ。まあ、22口径なんて帽子も何もかぶってない頭にでも当たらないと死なないから安全だってことで選んだんだが……正解だったな」
「それじゃあ意味ないじゃないですか!僕に一撃で帽子も何もかぶってない敵に当てろっていうんですか!」
かなめの投げやりな言葉に誠はツッコミを入れていた。
「だって……こんな距離、エアガンだって当たるぞ?実銃だぞ、これ。これメイドイン・オーストリーだぞ。地球人みんなこれ見たら涙目だぞ」
「でも……僕、利目が右だったり左だったりするんで…」
誠はこの場を切り抜けようと何とか言い訳をした。
「大丈夫よ。まあ、かなめちゃんがなんで『グロックG44』を選んだかは……想像がつくけど」
アメリアは意味ありげに笑っている。誠はその言葉の意味が理解できずにただ銃を持って呆然と立ち尽くしていた。
「何か意味があるんですか?僕が『グロックG44』で西園寺さんが『スプリングフィールドXDM40』だと」
誠は銃に詳しくなかったのでアメリアの言葉の意味が分からず聞き返した。
かなめは苦虫をかみつぶしたような表情をした後、誠を押しのけて射場に入った。
「この銃はな……グロックのコピーなんだわ。グロックは20世紀初頭の拳銃のいくつかの忘れられた構造と、ポリマーフレームと言うプラスティック加工メーカーならではの強みを生かして作った傑作なんだが……」
そこまで言うとかなめはすさまじい速度で銃を連射した。
12発爆音が響いた後、かなめの銃のスライドは弾を撃ち尽くしたことを示すようにスライドが開いたままで停止して煙を放っていた。
「まあ、傑作はどこでもコピーを生み出すんだ。20世紀末。どの銃器メーカーもグロックのコピーを作った。多くはグロックが取った特許に引っかかったり、値段がグロックより高かったりで成功しなかった。何社かのメーカーはその競争に負けて身売りをしたり潰れたりした。その中での数少ない成功例がこいつなの」
かなめはそう言うとスライドを閉鎖して銃を誠に手渡した。
右手にかなめのXDM40、左手にG44を持ちながら誠は両方を見比べた。
「確かにそっくりですね」
「そうだろ?でも決定的な違いがあるんだ」
かなめはそう言うとにやりと笑った。
「XDMシリーズは戦争の中で生まれた『殺し合いの道具』なんだ」
「戦争中?」
誠は歴史知識がほぼなかったので、二十世紀は半ばあたりに『第二次世界大戦』があったという程度の地球の歴史知識しかなかった。
「二十世紀末のバルカン半島。そこでは多民族国家が崩壊して民族ごとの殺し合いの戦争が始まった……その必要からそいつは生まれたんだ」
いつも自分を語る時のかなめの鈍い鉛色の瞳がそこにあった。
「確実に弾が出る銃。それが戦場では必要なんだ……当たるかどうかは二の次。HS2000ってのがそいつの開発当初の名前だな。最初はどんな環境でも動くだけのひどい銃だったが、改良を加えられてそれなりに使える銃になった。何よりグロックより安いからな」
かなめの言葉を聞きながら誠は自分のG44とかなめのXDM40を見比べた。
銃が『人を殺す』道具だという事実を改めて知り、誠は少し悲しい気分になった。
かなめは台車を押して射場に現れた。イヤレシーバーをつけて待っていた誠、カウラ、アメリアはなんとも複雑な表情で彼女を迎える。
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アメリアは不服そうにそう言うと腰についているホルスターを叩いた。
「普段から銃を持ち歩いているのは貴様くらいだ」
そう言うカウラは大きめの木製のホルスターを左わきに下げていた。
「じゃあ、やろうかね」
そう言うとかなめは台車を射場のカウンタにつける。
「西園寺さんは……イヤレシーバーは?」
「アタシの身体は軍用義体だからな。必要ねえよ」
かなめはそう言うと台車に置かれた段ボールをカウンターに置いた。
誠も久しぶりの実弾訓練に興奮しながら彼女を見守っていた。
「じゃあ、これ」
かなめはそう言って誠に拳銃を手渡した。
「見たことがあるような……無いような……なんです?この銃。明らかにグリップの下に変なのが付いているんですけど……」
誠が受け取った銃は角ばった印象のスライドと明らかに後付けのグリップの下のプラスチック部品が目に付く黒い銃だった。
「『グロック』……ディスカウントストアーで大特価とかで売ってるそうだ、一部の国では」
カウラの言葉に誠はこけそうになった。
「『グロック』……なんか聞いたことがありますけど……地球の銃ですか?」
手渡された小ぶりの印象の銃を誠は握りしめた。そして、そのグリップの下の延長部分が誠の大きな手に合わせて延長されたものだと感じてかなめの満足そうな顔を見た。
「うちは20世紀末前後の銃を使うんだわ。その時期にもう銃の可能性は出尽くしてんの。もうそれから500年経つわけだけど、そっから後の銃はみんな『小改良』程度だな。素材を変えてみたり、口径を変えてみたり、いろいろあるけど結局性能的には大差ないんだわ。せいぜい製造工程が進化したんでコストが下がったのが時代が下ったおかげなんだけど……そんなら市場に溢れてる中古の銃を買った方が安いからな」
そう言って誠が軽く握っている銃にかなめが手をやる。
「グロッグの利点は『馬鹿でも撃てる』し『左利きでも撃ちやすい』ってところかな?手動の安全装置がトリガーについてるから、セフティーのことを考えずに撃てるし、スライドストップも左手用のがついてるから右利き左利き関係なく撃てる。まあ、撃ってみな」
かなめはそう言うと射場の向こう側に目をやった。
25メートルくらい先に鉄板の的が置いてあった。かなりくたびれていて的を描いていたペンキが剥げて銀色の地肌がむき出しになっている。
「あのー、あれじゃあ当たったかどうかわからないと思うんですけど……」
それとなく尋ねる誠を見てかなめ達三人は大きくため息をついた。
「あのなあ。オメエに精密射撃なんて期待してねえの。それにだ。拳銃で25メートル確実に当てれば立派なもんだよ」
あきらめたようなかなめの言葉を聞いてカチンときた誠は仕方なく銃口を的に向けた。
「じゃあ撃て」
かなめの合図で誠は引き金を引いた。
何も起きなかった。
「誠ちゃん……弾が入ってないんじゃない?」
アメリアが呆れたようにそう言った。
誠は慌ててマガジンを抜くがそこには銀の弾頭と金色の細い薬莢が入っていた。
「貴様……素人か?薬室に弾を装填しなければ弾は出ない!リボルバーじゃないんだからな!」
今度はカウラがそう言って誠の頭をはたいた。
「はー……慣れないもので」
軍人失格の一言を吐いて誠はマガジンをグリップに刺して素早くスライドを引いて弾を装填した。
ゆっくりと銃口を的に向け、静かに引き金を引く。
『パン!』
軽い反動とともに弾が発射された。弾はそのまま的の左側を通過していった。
「当たらねえのかよ……」
かなめが吐き捨てるようにそう言うのを聞きながら誠は引き金を続けて二回引いた。
『パン!パン!』
反動はパイロット養成課程で撃った東和宇宙軍制式拳銃のそれよりもはるかに軽かった。
「撃ちやすいですね、この銃」
二発とも的を外したものの誠はとりあえず大外れでは無かったので笑顔で三人に向き直った。
「やはり、22口径で正解だな」
「これじゃあ9パラなんて撃った日にはカウラちゃん達の後頭部が吹き飛ぶわね」
カウラとアメリアまでも完全に軽蔑の視線で誠を見つめていた。
「22口径?なんですそれ?」
誠はそう言って銃に詳しそうなかなめに目をやった。
「こいつは『グロックG44』って言う22口径ロングライフル弾用の拳銃なんだよ。まあ、22口径なんて帽子も何もかぶってない頭にでも当たらないと死なないから安全だってことで選んだんだが……正解だったな」
「それじゃあ意味ないじゃないですか!僕に一撃で帽子も何もかぶってない敵に当てろっていうんですか!」
かなめの投げやりな言葉に誠はツッコミを入れていた。
「だって……こんな距離、エアガンだって当たるぞ?実銃だぞ、これ。これメイドイン・オーストリーだぞ。地球人みんなこれ見たら涙目だぞ」
「でも……僕、利目が右だったり左だったりするんで…」
誠はこの場を切り抜けようと何とか言い訳をした。
「大丈夫よ。まあ、かなめちゃんがなんで『グロックG44』を選んだかは……想像がつくけど」
アメリアは意味ありげに笑っている。誠はその言葉の意味が理解できずにただ銃を持って呆然と立ち尽くしていた。
「何か意味があるんですか?僕が『グロックG44』で西園寺さんが『スプリングフィールドXDM40』だと」
誠は銃に詳しくなかったのでアメリアの言葉の意味が分からず聞き返した。
かなめは苦虫をかみつぶしたような表情をした後、誠を押しのけて射場に入った。
「この銃はな……グロックのコピーなんだわ。グロックは20世紀初頭の拳銃のいくつかの忘れられた構造と、ポリマーフレームと言うプラスティック加工メーカーならではの強みを生かして作った傑作なんだが……」
そこまで言うとかなめはすさまじい速度で銃を連射した。
12発爆音が響いた後、かなめの銃のスライドは弾を撃ち尽くしたことを示すようにスライドが開いたままで停止して煙を放っていた。
「まあ、傑作はどこでもコピーを生み出すんだ。20世紀末。どの銃器メーカーもグロックのコピーを作った。多くはグロックが取った特許に引っかかったり、値段がグロックより高かったりで成功しなかった。何社かのメーカーはその競争に負けて身売りをしたり潰れたりした。その中での数少ない成功例がこいつなの」
かなめはそう言うとスライドを閉鎖して銃を誠に手渡した。
右手にかなめのXDM40、左手にG44を持ちながら誠は両方を見比べた。
「確かにそっくりですね」
「そうだろ?でも決定的な違いがあるんだ」
かなめはそう言うとにやりと笑った。
「XDMシリーズは戦争の中で生まれた『殺し合いの道具』なんだ」
「戦争中?」
誠は歴史知識がほぼなかったので、二十世紀は半ばあたりに『第二次世界大戦』があったという程度の地球の歴史知識しかなかった。
「二十世紀末のバルカン半島。そこでは多民族国家が崩壊して民族ごとの殺し合いの戦争が始まった……その必要からそいつは生まれたんだ」
いつも自分を語る時のかなめの鈍い鉛色の瞳がそこにあった。
「確実に弾が出る銃。それが戦場では必要なんだ……当たるかどうかは二の次。HS2000ってのがそいつの開発当初の名前だな。最初はどんな環境でも動くだけのひどい銃だったが、改良を加えられてそれなりに使える銃になった。何よりグロックより安いからな」
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