47 / 69
初めての休日
第47話 かなめの歌
しおりを挟む
「いっぱい買っちゃった」
誠はおもちゃ屋で買った袋を下げて寮の自分の部屋の扉を開けた。
「あれ?空調は止めたつもりだけど……」
ひんやりとした空気に違和感を感じながら部屋の戸を開けると、誠はそこに人影を見つけた。
「よう!」
おかっぱ頭に黒のタンクトップ。そして左脇には愛銃『スプリングフィールドXDM40』。それは西園寺かなめ中尉だった。
「なんだ、西園寺さんが来てたんですか……」
誠は安どのため息をつきながら手提げ袋を部屋の片隅に置いた。
「なんだ、いい部屋じゃねえか。島田が寮長をやってるって聞いてたからもっと壁に落書きでもしてあるような部屋を想像してたのに」
「なんでそんなゲットーみたいなイメージなんですか?島田先輩は何者なんですか?」
「そりゃあヤンキー」
ベッドに腰かけて真顔でそう答えるかなめを見ながら誠は呆れたように立ち尽くす。
「あのー……それ、ギターですか?」
誠はかなめの足元にあるギターケースを見てそう言った。
「なんだよ。アタシが銃以外を持ってるのが不服か?」
「そんなことは無いですけど……」
かなめは誠に絡みながらギターケースを開けた。
年季の入ったアコースティックギターがかなめの手の中に納まる。
「なんだかぴったりですね」
「褒めてもなんもでねえぞ」
そう言ってかなめは笑いながらギターを軽く撫でる。
「好きなんですか?」
「嫌いで弾く馬鹿はいねえだろ?それよりいつまで立ってるつもりだよ。そこに座れよ」
ベッドに腰かけたかなめは部屋の中央で立ち続けている誠にそう言った。仕方なく、誠はその場に腰かけた。
「西園寺さん」
「アタシは自由人なの。ギターを弾きたいときに弾いて歌いたいときに歌う。それだけ」
そう言うとかなめはギターをかき鳴らし始めた。
「聞いとけ。アタシの歌」
かなめはゆっくりとした曲を弾き始めた。
『……アイツのことを……思いながら……』
彼女のかすれたような歌声にマッチした悲しげな旋律だった。
かなめが歌うのは道ならぬ恋に悩みつつ前を向いて生きていく女性の歌だった。
『西園寺さんが好きなのは……フォーク?』
誠はサビに行くにしたがって盛り上がっていくかなめのギターと歌声を聞きながらそんなことを考えていた。
かなめの絶唱が終わると、ギターの音が止み静寂が訪れた。
「西園寺さん……」
誠は笑顔で気持ちよく余韻に浸っているかなめの顔を見つめた。
「アタシは歌いたいから歌った。まあ、オメエには残って欲しいんだ。うちにな」
そう言いながらかなめはギターをケースにしまう。
「え?もう帰るんですか?」
「アタシは自由人なの。好きに生きてるの。オメエがどうこうできることはねえよ」
そう言って笑いながらかなめは立ち上がった。
「あの、寮の入り口まで送ります」
「いいよ。オメエも昨日は一日走って疲れてんだろ?しばらくは姐御の基礎体力トレーニングが続くから……そいじゃ!」
軽く笑ったかなめはそのまま誠の部屋を出て行った。
「西園寺さん……」
誠はなんだか優しい気分に包まれながらかなめの座っていたベッドの縁に腰を掛けてぼんやりと部屋を眺めていた。
誠はおもちゃ屋で買った袋を下げて寮の自分の部屋の扉を開けた。
「あれ?空調は止めたつもりだけど……」
ひんやりとした空気に違和感を感じながら部屋の戸を開けると、誠はそこに人影を見つけた。
「よう!」
おかっぱ頭に黒のタンクトップ。そして左脇には愛銃『スプリングフィールドXDM40』。それは西園寺かなめ中尉だった。
「なんだ、西園寺さんが来てたんですか……」
誠は安どのため息をつきながら手提げ袋を部屋の片隅に置いた。
「なんだ、いい部屋じゃねえか。島田が寮長をやってるって聞いてたからもっと壁に落書きでもしてあるような部屋を想像してたのに」
「なんでそんなゲットーみたいなイメージなんですか?島田先輩は何者なんですか?」
「そりゃあヤンキー」
ベッドに腰かけて真顔でそう答えるかなめを見ながら誠は呆れたように立ち尽くす。
「あのー……それ、ギターですか?」
誠はかなめの足元にあるギターケースを見てそう言った。
「なんだよ。アタシが銃以外を持ってるのが不服か?」
「そんなことは無いですけど……」
かなめは誠に絡みながらギターケースを開けた。
年季の入ったアコースティックギターがかなめの手の中に納まる。
「なんだかぴったりですね」
「褒めてもなんもでねえぞ」
そう言ってかなめは笑いながらギターを軽く撫でる。
「好きなんですか?」
「嫌いで弾く馬鹿はいねえだろ?それよりいつまで立ってるつもりだよ。そこに座れよ」
ベッドに腰かけたかなめは部屋の中央で立ち続けている誠にそう言った。仕方なく、誠はその場に腰かけた。
「西園寺さん」
「アタシは自由人なの。ギターを弾きたいときに弾いて歌いたいときに歌う。それだけ」
そう言うとかなめはギターをかき鳴らし始めた。
「聞いとけ。アタシの歌」
かなめはゆっくりとした曲を弾き始めた。
『……アイツのことを……思いながら……』
彼女のかすれたような歌声にマッチした悲しげな旋律だった。
かなめが歌うのは道ならぬ恋に悩みつつ前を向いて生きていく女性の歌だった。
『西園寺さんが好きなのは……フォーク?』
誠はサビに行くにしたがって盛り上がっていくかなめのギターと歌声を聞きながらそんなことを考えていた。
かなめの絶唱が終わると、ギターの音が止み静寂が訪れた。
「西園寺さん……」
誠は笑顔で気持ちよく余韻に浸っているかなめの顔を見つめた。
「アタシは歌いたいから歌った。まあ、オメエには残って欲しいんだ。うちにな」
そう言いながらかなめはギターをケースにしまう。
「え?もう帰るんですか?」
「アタシは自由人なの。好きに生きてるの。オメエがどうこうできることはねえよ」
そう言って笑いながらかなめは立ち上がった。
「あの、寮の入り口まで送ります」
「いいよ。オメエも昨日は一日走って疲れてんだろ?しばらくは姐御の基礎体力トレーニングが続くから……そいじゃ!」
軽く笑ったかなめはそのまま誠の部屋を出て行った。
「西園寺さん……」
誠はなんだか優しい気分に包まれながらかなめの座っていたベッドの縁に腰を掛けてぼんやりと部屋を眺めていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる