特殊装甲隊 ダグフェロン 『特殊な部隊』始まる!

橋本 直

文字の大きさ
上 下
29 / 69
銃とかなめと模擬戦と

第29話 認められた青年

しおりを挟む
「勝った……」

 誠は何が起きたのかよくわからないまま静かにシートに身を沈めていた。

 勝つはずのない模擬戦に勝った誠はただ何も言えずに押し黙っていた。

 シートに身を投げている誠の目の前で全天周囲モニターの隙間が広がった。

「すげえな!オマエ!あの西園寺さんに勝ちやがった!」

 満面笑みの島田の叫びがこだまし、ひよこの尊敬の念を含んだ笑顔が顔をのぞかせた。

「はっ……はっ……勝ちました……」

 誠は薄ら笑いを浮かべて二人の賞賛に答えた。誠は伸ばしてきた島田の手につかまってそのまま地面に降り立った。

「糞ったれ!」

 かなめの絶叫がシミュレータールームに響く。明らかに不機嫌そうにシミュレーターから這い出た彼女は誠の前に立って苦笑いを浮かべつつ、長身の誠を見上げた。

「オメエ……結構やるじゃん。あの一撃でアタシを仕留めなきゃ……」

「分かってます。あそこは攻め時でした」

 はっきりとした調子で言い切る誠にかなめは頭を掻きながら背を向ける。

「認めてやる。オメエはこれまでのカスとは違うタイプだ……うちの水に合うといいな」

 そう言うとかなめはまっすぐに出口に向かった。

「西園寺さん!」

「タバコだよ……ちょっと熱くなったからクールダウンだ」

 誠の問いかけにそれだけ答えるとかなめは出て行った。

 気が付くと誠は整備班員や運航部の女子士官に囲まれていた。

「凄いのね。西園寺さんに勝つなんて!」

「下手だって聞いてたけど嘘じゃねえかよ」

「すげーよ!やっぱオメエはすげーよ!」

 誠がアサルト・モジュールの操縦を褒められるのは初めての経験だった。

「そんなこと無いですよ。偶然ですって偶然。格闘戦は偶然の要素が強いですから。射撃ができるかなめさんには勝てませんよ」

 照れ笑いを浮かべながら誠はそう言って頭を掻いた。

「そーだな。今回、勝てたのはハンデと偶然。それが分かってりゃー次も勝てるかも知れねーな」

 入り口の方でそんな厳しいランの寸評が響いた。ちっちゃな彼女の隣には長身のアメリアとエメラルドグリーンのポニーテールのカウラの姿があった。

「でも……あのなんだか壁みたいなのはなんなんですか?」

 誠は正気に戻るとそう言ってランに歩み寄った。

「あれか?システムエラーじゃねーの?」

 そう言ってランはとぼけてみせる。

「エラーにしてはしっかり画面に再現されてましたね。あれは明らかに『仕組まれた』ものです」

 誠は下手だがプライドはそれなりにあった。そう言って真剣な表情でランの前に立つ。

「じゃあ、オメーの使える超能力かも知れねーな」

「超能力?」

 あまりに突飛なランの言葉に誠は少し呆れながらそうつぶやいた。

「遼州人には地球人には無い能力がある。そんな噂がある。地球人が生まれるはるか以前から『焼き畑農業』を続けていた民族だ。それ以上の文明を持たなかった理由がそこにあるんじゃねーかっていう学者もいる」

「はあ、そんな話聞いたことがあるんですが……僕、歴史は苦手で」

 ランの教養についていくには勉強不足なことは分かっているので誠は苦笑いを浮かべてそう言って逃げようとした。

「パイロットとしての技量だけならただの使い捨ての駒だ。ちゃんと自分で考えて行動する。そのために必要な知識を自ら得る努力をする。それが士官てーもんだ。少尉候補生だろ?」

 厳しいランの指摘に誠は何も言えずに立ち尽くした。

「まあいいじゃないですか!今日は暇か?」

 助け舟を出すという雰囲気で島田が誠に声をかけてきた。

「ええ、まあ……でも今日は僕はどこに泊まれば?」

「もう寮にオメエの部屋が用意してあんだ。さっき非番の奴にベッドと布団は用意させた。飲むぞ!」

『オー!』

 島田の叫びに合わせてシミュレーションルームになだれ込んできていた隊員達が一斉に雄たけびを上げた。

「ちょっとまってね……」

 そこに水を差したのはアメリアだった。紺色の髪をかき上げながら感情の読めない糸目でじっと誠を見つめてくる。

「なんですか……」

「今日は私達と飲みましょう。私とカウラちゃんとかなめちゃん。他の五人も一緒に呑んだのよ。それできっとうちに居つきたくなるから」

 誠と同じくらいの185㎝前後の長身のアメリアはそう言ってにっこり笑った。

「そんな……今日はこいつを称えて吐くまで飲ませるんだって……」

 強気そうな島田がおずおずとアメリアに申し出る。

「シャラップ!これはうちの新人パイロット教育の一環なの。二人の先輩パイロットと運用艦の艦長のアタシ。新人を仕込むにはいいメンツでしょ?」

 アメリアの言うことがあまりにもっともなので、島田達も何も言えずに黙り込むしかなかった。

「じゃあ、とりあえず機動部隊の詰め所で終業時間まで潰したらカウラちゃんの車で出発ね」

 笑っているような顔の作りのアメリアはそう言ってシミュレーションルームを去っていった。

 アメリアを見送った誠の視線にカウラのエメラルドグリーンの髪が飛び込んできた。誠が見下ろすと、真面目そうなカウラの瞳が誠を捉えた。

「貴様。なかなか面白い奴だな」

 誠を見上げるカウラの瞳は深い緑色で誠は思わず飲み込まれそうな感覚にとらわれた。

「最初に言った言葉は訂正する。貴様には残って欲しい……私の個人的な意見だが」

 そう言うとカウラはアメリアが去っていったのと同じようにまっすぐにシミュレータールームを出て行った。

「残って……いいのかな?」

 誠は不安ばかりだった心の中に希望の灯がともっていることに気づきながらカウラの後姿を見送っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
ライト文芸
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

処理中です...