11 / 69
工場の中の『特殊な部隊』
第11話 なんの変哲もない建物
しおりを挟む
ランの黒い高級自動車が静かに本部らしい入口の階段の前に停まった。あまりに静かに停まったので誠は何が起きたのか分からないほどだった。
「出来損ない、降りな。気を利かせてトランクは開けといたかんな。出来た上司だろ?」
そうランが言うと同時に、後部座席の左側のドアが自然と開いた。ランは誠を一瞥すると、シートベルトを外して運転席のドアを開けた。
「お世話になりました……」
誠はそう言いながらちっちゃな背中に一礼する。そして高級感漂うセダンの後部座席を這うようにして車の外に出た。
熱気、湿気、そしてそれらのもたらす不快感。誠は急いでトランクに向かって歩いた。
そこにはすでに開いたトランクから誠のバッグに手を伸ばそうとしているランの姿があった。
「いいです!僕が持ちます!」
さすがに上官に荷物を持たせるのは気が引けた。それにどう見ても小学生低学年である。さすがに体格のいい誠にしてはそんなか弱い子供に重いものは持たされない。
「そーか。多少は気が回るんだな。役立たずの割には大したもんだ。じゃーアタシは車を駐車場に置いてくるわ」
ランはそう言って小走りで運転席に行った。いかにもちんちくりんなその姿が運転席に消えると、すぐに車は動き出し、建物の後ろに消えた。
誠はズボンのポケットからハンカチを取り出して汗をぬぐいながら、まるで学校のような作りの本部とやらを見上げた。
「タオルか何かもっとしっかりとした拭けるものを用意しとくんだったな。まあ、中は空調聞いてるからいいかな」
すぐにハンカチは汗を含んで絞れば水分が取れるほどに濡れてしまった。
目の前の建物、学校と言うのが一番誠にはしっくりいった。しかも、公立の金の無いところの学校を思わせる雰囲気だった。他にも田舎の役所や警察署に似ているともいえた。
「おい!下手っぴ!何ぼんやり見上げてんだ?」
ランが毒舌を吐きながら歩いてくる。
汗を拭く様子はない。近づくと確かに汗ばんでいるが、ちょっとハンカチで拭えばどうにかなる程度だった。もう汗が流れてどうしようもなくなった誠とは大違いだった。
「中佐殿、暑くないんですか?」
誠は珍妙な可愛らしい生命体であるランをしみじみ見つめながら尋ねた。
ランは誠の顔を見上げた。そしてそのちいさな手にはハンカチが握られていた。軽く汗をぬぐう。そしてその理解不能なチビ助はそのまま手を元に戻す。
「汗はかいてるよ。こうして拭いてんだ。水ばっか飲んでだらだら汗かいてるテメーとは鍛え方が違うんだよ」
そう言ってランは本部の玄関に向かう。
「落ちこぼれ……これからは楽しくなるぜ……」
ランは振り返ってそう言って笑う。そしてそのまま誠を先導するように本部の自動ドアの前に立った。
ランに続いて誠は本部の正面玄関の階段を昇る。
「南向きって、暑いだけだぜ、まったく」
ランは愚痴りながら自動ドアの前に立つ。静かに開いた自動ドア。誠はちっちゃな背中を追いながら大きめのカバンを抱えてランの後ろに続いた。
「出来損ない、降りな。気を利かせてトランクは開けといたかんな。出来た上司だろ?」
そうランが言うと同時に、後部座席の左側のドアが自然と開いた。ランは誠を一瞥すると、シートベルトを外して運転席のドアを開けた。
「お世話になりました……」
誠はそう言いながらちっちゃな背中に一礼する。そして高級感漂うセダンの後部座席を這うようにして車の外に出た。
熱気、湿気、そしてそれらのもたらす不快感。誠は急いでトランクに向かって歩いた。
そこにはすでに開いたトランクから誠のバッグに手を伸ばそうとしているランの姿があった。
「いいです!僕が持ちます!」
さすがに上官に荷物を持たせるのは気が引けた。それにどう見ても小学生低学年である。さすがに体格のいい誠にしてはそんなか弱い子供に重いものは持たされない。
「そーか。多少は気が回るんだな。役立たずの割には大したもんだ。じゃーアタシは車を駐車場に置いてくるわ」
ランはそう言って小走りで運転席に行った。いかにもちんちくりんなその姿が運転席に消えると、すぐに車は動き出し、建物の後ろに消えた。
誠はズボンのポケットからハンカチを取り出して汗をぬぐいながら、まるで学校のような作りの本部とやらを見上げた。
「タオルか何かもっとしっかりとした拭けるものを用意しとくんだったな。まあ、中は空調聞いてるからいいかな」
すぐにハンカチは汗を含んで絞れば水分が取れるほどに濡れてしまった。
目の前の建物、学校と言うのが一番誠にはしっくりいった。しかも、公立の金の無いところの学校を思わせる雰囲気だった。他にも田舎の役所や警察署に似ているともいえた。
「おい!下手っぴ!何ぼんやり見上げてんだ?」
ランが毒舌を吐きながら歩いてくる。
汗を拭く様子はない。近づくと確かに汗ばんでいるが、ちょっとハンカチで拭えばどうにかなる程度だった。もう汗が流れてどうしようもなくなった誠とは大違いだった。
「中佐殿、暑くないんですか?」
誠は珍妙な可愛らしい生命体であるランをしみじみ見つめながら尋ねた。
ランは誠の顔を見上げた。そしてそのちいさな手にはハンカチが握られていた。軽く汗をぬぐう。そしてその理解不能なチビ助はそのまま手を元に戻す。
「汗はかいてるよ。こうして拭いてんだ。水ばっか飲んでだらだら汗かいてるテメーとは鍛え方が違うんだよ」
そう言ってランは本部の玄関に向かう。
「落ちこぼれ……これからは楽しくなるぜ……」
ランは振り返ってそう言って笑う。そしてそのまま誠を先導するように本部の自動ドアの前に立った。
ランに続いて誠は本部の正面玄関の階段を昇る。
「南向きって、暑いだけだぜ、まったく」
ランは愚痴りながら自動ドアの前に立つ。静かに開いた自動ドア。誠はちっちゃな背中を追いながら大きめのカバンを抱えてランの後ろに続いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる